ヒロシとマルぼん、恐れていた無責任宣言

マルぼん「見ろよ。サラリーマンが庭の木で首を吊ってるぜ」



ヒロシ「このご時世だ。しんどいことがあったんだろう。死なせてやろうよ。それがやさしさってもんだよ」



サラリーマン「たすけてー! 実はおいら、構ってほしいだけでホントは死にたくないんだよー」



ヒロシ「仕方ない。尊い命を救ってやるか。この手で! この腕で!! この足で!!!」



(ヒロシたちがサラリーマンを救出しているシーンの挿入歌:「救急戦隊ゴーゴーファイブ」)



 助けてみると、サラリーマンは隣人の田中さんでした。あと、諸事情により、ここからマルぼんとヒロシのセリフはエセ関西弁でお送りいたします。(いたしまーす。ドン!)



マルぼん「なんちゃって自殺とはいえ、なぜ自分の命を粗末にしようとしたんや。たしかキミ、美人の嫁さんもろて、先月、かわいいかわいいベビーも誕生したはずやろ、たしか、ブライアンいうたか、名前」



ヒロシ「会社では出世したって聞いたで。順風満帆な人生やないか。なんで死のうとするのや」



田中さん「その出世が原因なのです。出世して給料はあがったけれど、その分、責任が重くなって。その重圧に耐えられんのです。むっはー!!」



マルぼん「すべての責任から逃れられるようになる薬を処方したるわ」



田中さん「感謝感激あめあられ!!」



 翌日、17時すぎ。マルぼんとヒロシが町を徘徊していると、田中さんと遭遇。



田中さん「おかげさまで地位はそのままに、色々な責任から逃れられることとなりました!今日なんて、定時で退社できたんです! 出世してから初めてですよ! これで、ワイフやブライアン坊やと過ごす時間も増える。ありがとうございます! 是非ともお礼を!」



ヒロシ「礼はええて。その笑顔がなによりの報酬や。それよりはよ帰って、ブライアン坊やの笑顔に癒されえな」



マルぼん「あんさんの笑顔を思い出すだけでな、旨い酒が飲めるわ」



(5年後、酒の飲みすぎが原因による肝硬変で、マルぼん死去。享年58歳)



田中さん「まじでありがとうございます。それじゃ!」



愛するワイフやブライアン坊やと楽しく過ごせると、ウキウキドッキンドッキンしながら帰宅した田中さん。しかし、彼がそこで見たものは!!



(『火曜サスペンス劇場』のジングル)



 美しかった黒髪が真っ白になっちまっているワイフの姿っ。



田中さん「무슨 일이 있었나요?」



ワイフ「ちゃうねん。びっくりしてん。ブライアン坊やが、急に成長してん!」



田中「나는 믿을 수 없습니다!」



 しかしそれはまぎれもない事実っ。真実っ。くさった果実っ。2人の前には、屈強な成人男性が。生まれたままの姿の成人男性がっ!



 なぜ生まれたままの姿かと申しますと、別に卑猥な理由があるわけではなくて、なんといいますか、いきなり大きくなったから着ていたベビー服とか破いちゃったからなんです。ほ、ほんとなんだからねっ。別にエッチな理由なんてないんだからっ。な、なによニヤニヤして! アンタ、信じてないでしょ! ちょ、なによ、近づきすぎよ。ちょ、やめ、ん……! んんー!?



田中「見たことのない成人男性だが、この面影は、たしかにブライアン坊やだっ」



ブライアン「ダディ。マミィ。サンキュー。いままで本当にサンキュー。ミーはご覧のとおり、立派に成人しました。もう、ダディとマミィにお世話になることもないのです。これからは、この身一つで生きていくでござる。神に会うては神を斬り、仏に会うては仏を斬りをモットーに、明るい笑いを振りまいて、恋に友情にはりきる所存でござる。それでは、ミーは家をでるでござる。いざ出陣。戦場の名は人生っ」



ワイフ「待って! 待っておくれ、ブライアン坊や。私のかわいいブライアン坊や!」



田中さん「待つんだブライアン坊や。待ちなさい」



ブライアン「もう、ミーは、坊やでは、ありません、ので、おさらばで、ございます」



 ブライアン坊やは、いや、ミスターブライアンは、外へと飛び出していきました。生まれたままの姿で。その瞬間、銃撃音。微笑町ではわいせつ物陳列罪は、その場で処刑オッケー♪ な重罪なのです。ライフル協会が強い力を持つ微笑町では、笑顔と同じくらい銃があふれているので、すなわちわいせつ物陳列座位=即射殺の危険性高し。



田中さん「ブライアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!」



 こうして



 またひとつ



 命が星になりました。



 尊い命が天へと還りました。



 地球よりも重いといわれている命が。



 命を慈しむ心と手をもちながら、


 

 人はなぜ命を奪うのか?



 人はなぜ悲しみを生み出し続けるのか?



 人はなぜ笑顔の尊さを簡単に忘れることができるのか?



 わかるかなぁ~わかんねぇだろうなぁ~



 ヘヘェ〜イ、シャバダバダディ〜、イェーイ。



 俺が昔、夕焼けだった頃、弟は小焼けだった。お袋は霜焼けで、親父は胸やけだった。



 わっかるかな~ わっかんねぇだろうなぁ

 

 

 すべての責任から逃れられるようになる薬は、田中さんを「親の責任」からも解放したのでした。

人間、ある程度の責任を負っていたのほうがいいのやもしれませんね。ようわからんけどね。


 

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