微笑町シンデレラ

ママさん「アタシ、アタシ……歌手になる!」



 突然の歌手宣言から5年。家族に見守られながら特訓に特訓を重ねたママさんの歌唱力は「え、なにこれ、キモッ」と言いたくなるくらい上達。ついに町内の歌謡祭に出場することに。この歌謡祭でグランプリに輝けば、プロへの道が約束されています。



ママさん「うわぁ。会場にはたくさんのお客さんが来ているわ。多すぎて、まるで川岸にあるでかい石をひっくり返したら裏にビッシリついている無数の虫みたい。緊張するわぁ」



ヒロシ「緊張したら、練習の成果をだすことはできないよ、母さん」



ヒロ子「そうよ、川岸にあるでかい石をひっくり返したら裏にビッシリついている無数の虫のような客どもなんて、すでに全員事切れていて、死体だと思えばいいのよ。え? 死体じゃまずい? それなら、野菜とでも思えばいいの。生きていないものだと思えばいいのよ」



マルぼん「はいはいー機密道具の出番ですー『ベジタブルコンタクト』。このコンタクトをつければ、人間が全て野菜に見えて緊張しなくなるんですよー」



ママさん「ンマー! 素敵な機密道具!」



 ママさんは『ベジタブルコンタクト』をつけて舞台へ。緊張しなかったおかげか、ママさんは練習の成果を見事発揮。

グランプリに輝いたのです!



司会「おめでとうございます、大沼うどん子さん!」



ママさん「いやーありがとうございます、ありがとうございますー」



ヒロシ「やったぜ! やったぜ母さん!」



ヒロ子「すごいわ、すごいわ!」



ママさん「ヒロシ、ありが……」



 舞台袖から見ていたヒロシとヒロ子が、感極まり、ママさんに駆け寄ります。ところがママさん、駆け寄ってきたヒロシにドロップキック! 口から見たこともない液体を吐きながら吹っ飛んでいくヒロシ。



司会「な。なにをするんです! 誰か止めて!」



ママさん「ピーマン嫌い、ピーマン嫌いなのう!」



 幼いころ、ピーマンを神と称える一族の末裔である両親から「しねやしねやピーマンのためにしねやしねやピーマンのために」と厳しくしつけられていたママさんは、そのトラウマから、ピーマンを見ると無意識に破壊してしまうのです。マルぼん、何度スーパーの野菜売り場で暴れだして売り物のピーマンを破壊したママさんを引きとりに行ったことか。何度謝ったことか。何度弁償したことか。



『ベジタブルコンタクト』の力でヒロシがピーマンに見えてしまったママさんは、しつようにヒロシを攻撃。



司会「止むをえん、警備員さん、やつを射殺してえ!」



 警備員さんたち、一斉射撃。ママさんは『ベジタブルコンタクト』なしでもトマト(つぶれたやつ)に見えるようになってしまいましたとさ。完。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る