ヒロシとほしぶどう

ここは微笑小学校。時は昼休み。教室では、ヒロシがイスに座って脂汗を流しております。



ヒロシ「……」



ルナちゃん「あら、どうしたのヒロシさん。まだ給食を食べ終えていないのね」



ヒロシ「今日の給食、ぶどうパンだから……うぷっ(吐きそう)」



 ヒロシは干しぶどうを親の敵のごとく嫌っていて、干しぶどうを使った料理は一切食べることができません。「俺、死んだら干しぶどうを開発したやつに会いにいくんだ。そして暴力をふるう!」が口癖なくらいです。



ルナちゃん「でも残すことはできないわ」



 ヒロシたちの今の担任は、「おのこしは許しまへんで!」が口癖で、少しでも食べ物を粗末にようとした人の命を粗末にしてしまう豪の者です。「そんなことしてもいいの?」と詰問されても、鼻歌交じりで聞こえないふりをしたりします。意気地なしのヒロシが干しぶどうを残すことができるはずもなく、とにかく時間をかけてがんばって食べるしかないのです。



ヒロシ「うぷっ」



ルナちゃん「なにか特別な事情があれば、残しても怒られないんでしょうけどね」



ヒロシ「うぷっ(特別な事情か……」



マルぼん「そんなわけで、干しぶどうを残しても怒られない『特別な事情』を作る機密道具がほしいと」



ヒロシ「うぷっ」



マルぼん「『事情製作機』。この機械は『事情』を作ることができるんだ。こいつを『干しぶどうを残しても怒られない特別な事情』を作ろう」



 そんなこんなでマルぼんとヒロシが学校から帰宅すると、誰かが訪ねて来ていました。



ヒロシ「ルナちゃんじゃないか」



ルナちゃん「あらお帰りなさい」



ママさん「アンドルギャモン」



ヒロシ「は?」



ルナちゃん「アンドルギャモンとは、私たちの宗教の言葉で『わが子よ、おかえりなさい』という意味なの」



マルぼん「ママさんがルナちゃんのとこの宗教の言葉を使うってことは」



ルナちゃん「マインドコン……いえ、あなたのお母さんがついに私たちの宗教のすばらしさを理解してくれたのよ。当然、あなたも入信がきまったわん」



ママさん「さぁ、ヒロシ。私たちもいよいよ出家して、次のステージへ向かう時が来たわ。さぁ、命の次のステージへ!」



ヒロシ「ついにしてやられた!」



ルナちゃん「当然、ヒロシさんも私たちの仲間よ。これ、うちの宗教の教義をまとめた本だから、きちんと読んでね」



ヒロシ「ちくしょう」



 くやしなさに身を委ねながら、渡された本をめくるヒロシ。『わが宗教に入った者の子は、偉大なる教祖さまのお住みになる聖なる城の建築に参加し、ボロ雑巾のようになるまで働かなくてはいけない。固いパンと泥のようなスープだけが食事です。ありがたく食さねば、ポア』『わが宗教に入った子供は、受取人が全偉大なる教祖さまになっている生命保険に加入しなければならない。加入しなければ、ポア』『わが宗教に入った子供がなんらかの事情で怪我をした場合、それはすべて事故。事故だからしかたない。しかたなくないとか言ったら、ポア』という教義にまじって、次のような文章がありました。



『われらが宗教は脳みそを神とあがめている宗教です。脳みそっぽいシワがあるものは全て神に天使であり、これらのものを食べたり壊したりすることは最も愚かな行為であります。天使に該当する食べ物とは、たとえば干しぶどうとかそういうものです。干しぶどうを食べてはいけません。食べてはいけませ。食べたら、ポア』



 最近では宗教上の理由で食べられないものがある人にも配慮したレストランなんかがあるそうです。学校給食でも配慮してくれたりするとか。ヒロシもおそらく、干しぶどうを残しても大丈夫でしょう。マルぼんは『事情製作機』の効果は絶大だと思いました。

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