座敷童来る
マルぼん「おいヒロシ! レアな機密道具が手に入ったぞ! その名も『座敷草鞋』! 履くと、『ちょっとした座敷童子』になれるご機嫌な機密道具さ!」
・座敷童子(ざしきわらし)
東北地方にいるとされる、人間の子供みたいな姿をした妖怪。この妖怪が家に棲みつくと、その家は栄え、出て行かれると没落すると言われている。
マルぼん「『ちょっとした座敷童子』になった人が訪れた家は、栄えはしないけど幸せになるんだ!」
ヒロシ「マジで! じゃあ、早速僕が履いてみる!」
マルぼん「家に住んでいる人が履いても意味がないの。他人さんに『ちょっとした座敷童子』になってもらわないと効果がでないんだよ。だれかに頼んで履いてもらおう」
ヒロシ「金歯は出家、ナウマン象は服役中、ルナちゃんは宗教活動の一環でロシアへ行っているし、頼めそうな人がいないな。ちょっとそこらへんをうろうろして、探してくるよ」
マルぼん「『座敷草鞋』は家に入ってから履いたら効果ないから、入る前に必ず履かせるんだ」
ヒロシ「了解~」
数時間後。ヒロシは知らない男性を背負って戻ってきました。既に『座敷草鞋』を履かされているその男性、どうも意識を失っているようです。
ヒロシ「愛用のクロロホルムでね。へへ……!」
どびっきりの笑みを浮かべるヒロシ。マルぼんは、正直どうかと思いましたが、幸せのためならしょうがないです。
ヒロシ「ところで、いつ頃幸せになるのかな」
マルぼん「今説明書を読んでいるところ。えっと。『ちょっとした座敷童子』になった人が家を訪れてから、およそ30分。今からだと6時くらいだ」
ヒロシ「ふふふ。30分か。30分で幸せに。幸せに……って、待てよ。具体的に、どんな感じで幸せになるのさ」
マルぼん「え」
ヒロシ「金が腐るほど手に入るとか、アホほど健康になるとか、芋粥を死ぬほど食えるとか……幸せって色々あるよ? 幸せってなに? 美味い醤油のあることけ?」
マルぼん「……もう一度、説明書読むわ。調べるわ」
調べること25分。
マルぼん「もたらされる『幸せ』ってのは、『ちょっとした座敷童子』になった人が考える『幸せ』みたいだ」
『ちょっとした座敷童子』になった人が「幸せ? そんなん銭にきまっとるやろ!」と思っていれば、金が腐るほど手に入る。「幸せって、愛でしょ」とか思っていたら、好きな人と結ばれたりする。『世界から戦争がなくなることが、私の幸せ』とか思っていたら、世界中から戦争がなくなる。だいたいそんな感じらしいです。
マルぼん「この男の考える幸せが、いかなるものかだね。問題は」
「屈強な男どもに、一晩中弄ばれる」とか「来世が石」とか、珍妙なことを幸せと考える変態さんだったら、マルぼんたちはどえらいことになります。
マルぼん「……そういやこの男、どこから連れてきたんだ?」
ヒロシ「駅前の微笑第9ビルの屋上だよ。ちょうど、青っ白い顔をしながら、靴を脱いでいるところだったから、草鞋を履かせやすいかと思って」
マルぼん「屋上……靴を脱いでいた……どう考えても来世へスタートしようとしている人じゃねえか。『死ぬことが幸せ~』『現世という名の苦しみから解放されることが幸せ~』とか考えているにちがいねえよ」
ヒロシ「それは偏見! 偏見ヨクナイ! この男が、残された家族の幸福こそが幸せと感じながら逝くナイスガイかもしれないよ!」
ヒロシがそう主張するのなら、と、マルぼんは、人が心の底で思っていることを聞き出すことのできる機密道具「心聴診器」を取り出し、男の本音を聞いてみることに。以下、聞き出した本音
『妻が不倫をしていた。相手は、俺の親友でもあるTだ。不倫どころではない。俺と結婚する前から関係が続いていたようだ。息子は、最愛の息子は、俺ではなくTの息子だったようだ。
息子は実の父がTだと知っている。俺よりTの方が好きだと言っている。Tの息子でよかったと言っている。俺だけが知らなかった。俺だけがなんにも知らなかった。
親友Gが逃げた。俺が借金の保障人になっていた、親友Gが逃げた。どこかに逃げた。とんずらこいた。信じていたのに。逃げた。やくざとか、おもいっきり俺んとこに来る。めっさ来る。
臓器は売れません。売りません。痛い痛い。止めてください。
なんなんだ人類。
なんなんだ世間。
なんなんだ地球。
なんなんだ宇宙。
なんで俺だけがこんな目に逢わなければならないのか。死ぬ。俺は死ぬ。死んでみせる。逝く。俺は逝く。逝ってみせる。死んで死んで死にまくって、逝って逝って逝きまくって、高いところから全ての幸せな人間を呪う。愛する喜びを知る者は、死ね。雨に負けろ。風に負けろ。雪にも夏の暑さにも負けろ。負けて、逝け。愛される喜びを知る者は、死ね。俺も死ぬから死んでくれ。いや、アレだ俺以外みんな死ね。お願いだから死んでくれ。俺が死んで、他も死ぬ。それこそ俺の幸せだ』
ヒロシ「だめそうだね」
マルぼん「うん」
そんなこんなで、ちょうど6時と相成りました。おしまい。
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