洩れなくヒロシがついてくる

 ナウマン象が嫁の実家に放火して逮捕されました。取り調べに対して「嫁が離婚を切り出してきたのは、実家の連中の入れ知恵だと思った。やつらがいなくなれば元の鞘に収まると思った」と供述。虐待や通り魔と同じくらいありふれた事件ですが、他に大きな事件もなかったのでワイドショーでは連日、この件が報道されています。今日もワイドショーでは、元FBI捜査官を自称する男がクラス文集に載ったナウマン象の作文を分析してプロファイリングしています。



元FBI捜査官『ほら、ここ。1行目を見てください。「燃えるような恋をしたい」と文章にありますね。これは「なんでもいいから燃やしたい」という隠れた願望が無意識に表れてしまったのです」



ヒロシ「ナウマン象ざまあwww」



 ワイドショーを観て、大喜びのヒロシさん。この番組にクラス文集を売ったのはヒロシだったのです。しかしそんな幸せも長くは続きませんでした。テレビには、クラス文集の、ナウマン象の作文が載っているページが映っています。その隣のページも一緒に映ってしまっているのですが、別人の作文が載っているにも関わらずそのページにモザイク処理がされていなかったのです。その別人ってのが、ヒロシでありました。



 ヒロシの名前は大沼ヒロシ。ナウマン象の本名も偶然にも大沼ヒロシだったので、作文が隣り合うのも当然。ヒロシの作文には、ご丁寧に住所氏名年齢電話番号メールアドレスまで書いてあったのです。それにもモザイクなしっ。



ヒロシ「ぼ、僕の作文が! 個人情報が! ちくしょう、どいつもこいつも簡単に人の情報を漏らしやがって!」



マルぼん「そんな個人情報を漏らされたくないのなら、この薬を飲めばいい。『コジン錠剤』っていうんだ。未来の世界で今日発売されたばかりの機密道具だぞ」



ヒロシ「この薬を飲めば、僕の個人情報は永久に守られるっていうのか! いいだろ、飲んでやるさ!」



マルぼん「ふふふ、飲んだね。よし、テレビを観てみろ」



 さきほどのナウマン象文集公開処刑がまだ続いていましたが、いきなり出演者の悲鳴が。文集がいきなり別のものに変化していたのです。別のもの……ウで始まる3文字のあれ。あれに変化してたのであります。テレビを見ながら、マルぼん大興奮。



マルぼん「ふふふ。効果は絶大だ。『コジン錠剤』はだな、飲んだ人の個人情報が『第三者の目にふれる』などして外部に洩れそうになった瞬間、その個人情報を『ウで始まる3文字のあれ』に変化させてしまう薬なのさ」



 未来の世界では、健康と個人情報は人命よりも尊いものとされているので、このような薬が開発されたわけなのです。



マルぼん「よりにもよって、なんで『ウで始まる3文字のあれ』に変化するのかって話だけど、洩れると言えばアレだものな。まぁ、個人情報を盗んじゃおうなんで不届きな輩は、アレまみれになりゃあいいんだ」



 熱弁をふるうも返事がないのでヒロシの方を見てみると、そこには巨大な『ウで始まる3文字のあれ』がありました。巨大なだけではなく、しゃべる!



巨大なウで始まる3文字のあれ『ぼ、僕の体がー! 僕の体がー!!』



マルぼん「その声は、ヒロシ!」



マルぼんは、「外見」「顔つき」「すがたかたち」といった個人情報まで、『ウで始まる3文字のあれ』に変化させてしまう『コジン錠剤』の効果は絶大だと思いました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る