こんにちは赤ちゃん。あいつが、あいつがママです! あいつが!

 ママさんが現在妊娠中なので、マルぼんとヒロシが家事を担当しています。本日も早めに遊ぶのをやめて、家に帰りました。するとどうでしょう。



男「こうしてパンを踏んだ娘は地獄へおとされましたとさ」



ママさん「ああっもっと! もっとぉ!!」



 横になっているママさんのお腹へ向かって、不気味な男が話しかけているではありませんか。ママさんのお腹と男の口の距離は、マルぼんとあの娘の心の距離のごとく近づいていました。男が腹に話しかける度、悶えるママさん。



「変態だね」「そのとおりだね」。アイコンタクトで互いの考えを確認したマルぼんとヒロシは変態を排除すべく、手持ちの硫酸を懐から取り出しました。



 小一時間後。ママさん「まったくもって、貴様らときたら! 本詠さんがたまたま硫酸がかかっても

無傷ですむ体質だったからよかったものの、ヘタしたら大惨事よ!」



マルぼん&ヒロシ「ごめんなさーい」



本詠「まぁまぁ、奥さん。よろしいじゃありませんか。私はたまたま硫酸がかかっても無傷ですむ体質で、この通りピンピンしているのですから」



 ママさんにこってり怒られるマルぼんども。ママさんのお腹に話しかけていたのは変態ではなく、近所の読書家の本詠さんだったのです。「植物に毎日話しかけたら、その植物の成長がはやくなる」という話を聞いたママさんは、お腹の子供にも同様のことがあるのではないかと考え、本詠さんにお願いをしたのです。本詠さん幸いにも妊婦萌えだったので、無料で引き受けてくれたのです。変態ではなく、本詠さんでよかったと思います。



ママさん「効果は着実にでているわぁ。お腹の子供はスクスク成長しているにちがいないわ。わるのよ。母親だから」



 数ヵ月後に生まれた子は、外見上が40歳代くらいの立派な女の子でした。



ヒロシ「そうかー話しかけることで、成長がはやくなるのかー」



 話しかけることの効果に感心するヒロシ。この力、なにかに利用できないかな。



マルぼん「『パワー拡声器』。この拡声器を通して世に放たれる声は、植物に限らず、あらゆるもの成長の糧となるんだ」



ヒロシ「この拡声器、色々使えそうでワクワクするなぁ」



マルぼん「とりあえず、空き地に生えている草にでも使ってみて、効果を確かめてみればいいよ」



ヒロシ「うん、そうするよ」



 そんなわけで外にでたマルぼんたち。



ヒロシ「あ、みんな。どうしたのさ」



 家の前にはナウマン象やルナちゃん、ゴンザレスなど、いつものメンバーが集まっていました。



ナウマン象「どうしたもこうしたもねえよ」



ルナちゃん「これ、今月のお給金の明細書なんだけど」



 微笑小学校は現在、金歯一族の工場と業務提携をしていて、生徒たちはその工場で「しゃかいべんきょうのいっかん」として働かされているのです。そのお給金の明細書です。



ヒロシ「なにこれ、二束三文じゃないか!」



ナウマン象「これじゃあ、米ひと粒も買えねえだろ! うちに育ち盛りの息子と娘がいるんだぜ」



ルナちゃん「ひどいわ、あんまりだわ。米が買えなくて、このままじゃ飢えてしまう」



ヒロシ「食べるものがなくなってしまうぞ!」



金歯「お米がなければ、お菓子を食べればいいのでおじゃる」



一同「!!」



 偶然通りかかり、ヒロシたちの話を聞いた金歯が言いました。声は、『パワー拡声器』にひろわれていました。金歯の工場で朝から晩まで、二束三文の給料で働かされていた人たちが暴徒と化し、金歯の居城に攻め入ったのはその日の夜でした。



 金歯の「お菓子発言」は、それを聞いて激怒したヒロシたちによって町中に伝えられました。その際、『パワー拡声器』が使用されており、ヒロシたちの怒りは町の人たちの怒りになり、町民たちは暴徒と化したのです。暴徒の数はどんどん増えていきました。



 マルぼんは、金歯の発言を人々の怒りの輪の成長の糧にしてしまった『パワー拡声器』の効果は絶大だと

思いました。ああ世は無常なり。

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