ヒロシ、個人情報を守るためなら親をも傷つける

 マルぼんが町内の「町から不審者を死滅させる会」の寄り合いを終えて部屋に戻ると、ヒロシがパソコンに繋がっている全てのコードを食いちぎっているという光景に出くわしました。



 ヒロシに気付かれぬように部屋をでてから、何度か深呼吸「よし」と自分の頬を軽く叩いて、マルぼん再び部屋に入りました。コードをひたすら食いちぎっているヒロシに話しかけます。



マルぼん「あの、あのだね、ヒロシくん。それ、食べ物じゃないよ?」



ヒロシ「ヴー…」



 食いちぎったコードの一部を歯に挟んだ状態で、ヒロシがうなり声をあげます。



マルぼん「お腹が減っているなら、マルぼんがクッキーやケーキを焼いてあげるから、コードを食べるのはよそうね」



ヒロシ「ヴー!」



マルぼん「ヒロシ、泣いているの?」



 うなり声をあげてコードを食いちぎりながら、ヒロシは泣いていました。



ヒロシ「ぼ、僕はパソコンを、パソコンを壊さねばならぬのだ」



マルぼん「どうしてだよ。マルぼんに理由を簡潔に説明してごらんなさい」



ヒロシ「インターネットを通じて、僕の個人情報が流失して闇オークションで販売されているに違いないんだ!」



 マルぼんが話を聞いてみると、ヒロシは涙やよだれや汗や鼻水や口にはだせないアレや、体液という体液を撒き散らしながら理由を話してくれました。



ヒロシ「学校の授業で、裏山の鉱山で金を掘っていたときのことなんだ」



 ヒロシががんばって金を掘っていると、さぼっておしゃべりをしている連中がいたんだそうです。聞き耳を立てていると、話の内容は、どうも自分のことの様子。



情報屋「ヒロシのヤツ、家に、未来から来たと自称する怪しげな怪生物をかこっているらしいわ。その生物のせいで、ヒロシの家の近隣から、動物が消えたらしいの」



 話の中心になっているのは、学級新聞を作っている情報屋というあだ名の同級生。彼女のお話に、一同大笑い。ルナちゃんなど「ヒロシさんとだけは結婚したくないわぁ」と言う始末。



ヒロシ「どうして僕がひた隠しにしている事実を知っておる!」



 ヒロシは「世間様にどういう顔をしたらいいかわからない」と、マルぼんが同居していることを隠しています。

マルぼんは深夜以外の外出を禁じられ、ヒロシが出かけるときは、土蔵に造られた座敷牢に閉じ込められます。



 怒ったヒロシは情報屋を問い詰めたそうなのですが、情報屋は「し、知らないわよ! ネットで見かけただけなんだから! てめえのパソコンから情報が流出しているんじゃないの!?」と答えたとのこと。



ヒロシ「このパソコンが! くされパソコンが! 僕の秘密を漏らしやがった! 僕はもう、一生笑いものだ!」



 これでもか、これでもかと、パソコンに暴力を加えるヒロシ。その昔「パソコンを大切にしていたらさ、ある日突然、美少女に変形するかもしれないじゃないか」と言って、毎晩パソコンを抱きしめて寝ていた男と、とてもではないが同一人物とは思えません。


 ヒロシの変わり行く姿を見たくなかったマルぼんは、機密道具をだしてやることにしました。



マルぼん「『情報防護服』。この服を着ていたら、たとえ自白剤を打たれようが、たとえ拷問にかけられようが、

たとえ昔の同級生が同窓会名簿を業者に売り払おうが、絶対に着ている人の情報が流出しなくなるんだ」



ヒロシ「素晴らしい機密道具だ!」



 さっそく、ヒロシは『情報防護服』を着込みました。



マルぼん「ためしに、窓から外に向かって、世間にばれては裏社会以外で生きていけなくなるような己の秘密を大声で叫んでみて」



ヒロシ「ええ!?」



マルぼん「安心されい。『情報防護服』の効果で大丈夫だから。」



ヒロシ「そ、それならいいかな。僕は二次元美少女しか愛せませぬ!」



 ヒロシがすごい秘密を自ら暴露しても、それを聞いたはずの通行人の皆さんは「そうだ! 自然を守ろう!」「自然を守るためには人類をもう少し減らそう!」と、自然保護を訴えるエコロジストの演説を聴いた人のような反応をするだけです。



マルぼん「『情報防護服』を着た人が自ら己の秘密を話そうとしても、他人には『自然保護を訴える

エコロジストの演説』にしか聞こえないんだ」



ヒロシ「うっかり屋さんの僕でも安心だ!」



 情報が守られることに安心を覚えたヒロシは、さっそく町へと繰り出しました。



情報屋「ヒロシ、ヒロシ」



ヒロシ「あ、情報屋!」



情報屋「ちょっとこっちへ」



ヒロシ「なんだよう」



情報屋「実は、あんたの個人情報がネットに流れていたという話、あれはあたしの嘘なの」



ヒロシ「ええ!」



情報屋「あの情報は、あんたの部屋に仕掛けた盗聴器から仕入れたのよ」



ヒロシ「盗聴器だって!? な、なんでオマエが僕の部屋に盗聴器を仕掛けるんだよ!」



情報屋「好きな相手のことが知りたくて、何が悪いの!」



ヒロシ「え」



 ヒロシが驚いたその瞬間、情報屋の持っていたナイフがヒロシの腹部を刺していました」



ヒロシ「あ、う…ど、どうして、て」



情報屋「ヒロシが、悪いのよ。いつもいつも『ルナちゃん』だの『ギャルゲーのヒロイン』だの…けして

私を見ようとしなかった」



ヒロシ「というか、おまえ、今回の、話で、初登場じゃねえ…か…ぐふ」



情報屋「ふふ。これで、ヒロシの魂は、私だけのもの」



 情報屋は、ヒロシの亡骸を見て。



情報屋「器のほうは、いらない。捨てよう」


 後日、微笑小学校の裏山から遺体が発見されました。腹部を刺されたことが死因と思われるその遺体は、指紋とか歯の治療跡など、身元を特定できるような情報がほとんど残っておらず、どこの誰かわかんないそうです。



 マルぼんは、ヒロシの個人情報を隠し通してくれた『情報防護服』の効果は絶大だと思いました。

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