土産話に花が咲く

 しばらくの間、行方をくらましていたママさんがついに、ついに帰宅。(家庭放置期間、約3か月)



ママさん「実は、隣町に出来た『世界まんじゅう墓場』へ行ってたの」



マルぼん「『世界まんじゅう墓場』といえば、世界中のまんじゅうが集う食のテーマパークじゃないですか」



ヒロシ「たしか、ワッフルがお土産として人気なんだよね。もちろん、買ってきてくれたんだよね?」



ママさん「……」



マルぼん「買ってきてないご様子」



ママさん「いや、その、いや、あの。やはりねえ、思い出が一番のお土産だと思って。忘れていたわけじゃないのよ。おほほほほほ」



ヒロシ「思い出なんか受け取りようがないじゃないか! 僕はね、物欲を満たすために生きているんだよ。そんな僕に、思い出でお土産だなんてひどいや。あんまりだ。爆発しろっ」



マルぼん「あ、受け取れるよ。思い出。ママさん、この手袋をはめて、ヒロシの頭を触ってくれません?」



ママさん「こう?」



 ママさん、手袋をはめた手でヒロシの頭を触ります。



マルぼん「その手袋は、自分の思い出をそっくりそのまま、他人にあげることができる手袋なんです。貰った思い出は、くれた人と同じ視点でそっくりそのまま楽しむことができます」



 たとえば、美味しいものを食べていたらその味を、温泉に入っていたらその気持ちのよさを、そっくりそのまま楽しめます。



ヒロシ「思い出もらったけど、別になんともないよ」



 マルぼんは懐から鈍器のようなものを取り出して、ヒロシを殴り倒しました。「きゅう」とか言いながら気絶するヒロシ。頭から血しぶきが。まるで噴水。きれーい。ちょうきれーい。



マルぼん「もらった思い出は、寝ているときに夢として再生され、楽しめるのです」



ヒロシ「う~ん、むにゃにゃ。まんじゅうウメェ。むにゃむにゃ」



マルぼん「思い出が夢として再生されはじめたみたいですよ」



ママさん「これで旅行に行っても『お土産は思い出です』とか言って乗り切れるから、無駄金を使わずにすむわ。ありがとう、マルちゃん」



マルぼん「うへへ、それほどでも。ところでママさん、旅行は1人で?」



ママさん「ううん。ネットで知り合った、夫以外の男性と2人で。そりゃもう。桃色極まる旅行でしたとも。げへへへ。彼ってば強引だけど、そこがまたよくて。げへへへ」



ヒロシ「うう、むにゃむにゃ。な、なんだオマエ。くるな、こっちにくるなよ。触るな、おい。やめ、ちょ、ちょ……やめ、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! そんなの入らないー」



 マルぼんは『思い出をそっくりそのまま、他人にあげることができる手袋』の効果は絶大だと思いました。

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