微笑町ラーメン戦争

金歯「この前、駅前の『パンダ軒いなば』へ行ってきたのでおじゃる」



ナウマン象「『パンダ軒いなば』っていったら、おめえ…あの、バカ旨いラーメンを食わせること有名なラーメン屋じゃねえか。店員がみんな、店主の考えた格言の書かれた黒いシャツ着たり、写真を撮るときは腕組んでたり、美味しいラーメン屋の条件が揃ってるらしいぜ」



ヒロシ「でも、味以上に有名なのが、店主の頑固さなんだよね、たしか。メニューは自慢のとんこつラーメンひとつで」



ルナちゃん「箸の持ちかたから、麺とスープを食す順番、はては水を飲むタイミングまであれこれ口をだしてきて、付け合わせの高菜を食ったら切れたりする。意に従わぬ者は客であろうが神であろうが追い出す、超有名人!」



ナウマン象「『俺のラーメンを一番美味く食えるのは午前中だから』という理由で、午前中しか店が開いていないんだよな」



金歯「マニアの間では、あの店主に怒鳴られることが一種のステータスになっていて、連中は、我先に怒られに行き、その内容をその回数を競うのでおじゃる」



 店主に怒られたいがため、店内で催涙スプレーを撒き散らしたヤツもいるとかいないとか。



 店主に怒られたいがため、店主の娘に悪質なストーキング行為を働いたヤツもいるとかいないとか。



 店主に怒られたいがため、戸籍を捜査して店主の養子になり済ましたヤツもいるとかいないとか。



 店主に怒られたいがため、店主の嫁に手を出し、何も知らない店主に自分の子供を育てさせたヤツもいるとかいないとか。



 店主に怒られたいがため、密かに拉致した店主の頭に怪しげなチップを埋め込んで、あれこれしちゃったヤツもいるとかいないとか。



金歯「朕ももちろん、怒られてきたでおじゃる。『この札束でスープの出汁をとれ!』と言ったら、包丁を持って追っかけてきたでおじゃる。もう、Mの朕には最高の快楽でおじゃった!」



ヒロシ「う、うらやましいなぁ」



マルぼん「マルぼんたちも行こうぜ、『パンダ軒』!」



 しかし、行ってみると『パンダ軒』はつぶれていました。『店に火をつけたら店長怒るだろうな』と考えたファンによる、痛ましい事件の結果でした。



ヒロシ「ぼ、僕も頑固親父のいる店に行きたい! しかられたい!」



マルぼん「『頑固一轍パウダー』」



 マルぼんは『頑固一轍パウダー』を道路にまきました。するとどうでしょう。車なんて一台も通っていないのに、道路に轍ができたのです。



マルぼん「この轍の先にはお店がある。そのお店の店主は頑固親父のはず」



『頑固一轍パウダー』は、一番の近くにある『頑固親父のいる店』へと続く轍を作り出す機密道具なのです。マルぼんとヒロシは早速、轍に沿って歩き出し、まだ見ぬ『頑固親父のいる店』に向かいました。と、そのとき。



ヒロシ「いててててっ」



 突然苦しみだすヒロシ。マルぼんは近くの病院へとヒロシを連れて行きました。



マルぼん「ドクター、ヒロシを診てやってください」



医師「言わずもがな、俺は名医だ。どんな病人でも治してみせる。だが、俺は午後は非常に眠たい。眠たいので本来の腕を発揮できない。そうだな、明日の午前中に来てくれ。そうしたら、最高の俺が治療してやる。なに? 『ヒロシが苦しんでいるから今診てくれ』だと! ふざけるな、半端な治療ができるか! いやなら出て行け!さぁ、出て行け! なんて患者だ! 塩を撒いとけ!」



 追い出されるマルぼんたち。そこは『頑固医師のいる病院』でした。顔を青くして苦しんでいるヒロシを見ながら、マルぼんは『頑固一轍パウダー』の効果は絶大だと思いました。

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