ママさん「ヒロシくん、新しいパパよ」



マルぼん「ヒロシくん、今日から親父と呼んでもいいよ」



ヒロシ「いやー!!」



ヒロシ「は…! 夢か」



 こんな感じで最近夢見が悪く、「寝るのが怖い怖い」とのたまうヒロシです。



ヒロシ「見たいよ。楽しい夢が見たいよ。みんなが笑って幸せになるという、たのしいたのしい夢が。たのしい夢が見られる機密道具はない?」



マルぼん「『楽眠薬』。こいつを投与すれば、楽しい夢しか見なくなるんだ。永久に」



ヒロシ「わーい。さっそく投与して!」



 その夜、ヒロシはとても楽しい夢を見ました。



 家族が、仲間が、友が、愛する人が、みんな楽しく笑って遊んで幸せな、幸福な、ハッピーな夢。とても幸せな夢。



ヒロシ「は…! 夢か」



 ヒロシは腹の激痛で目を覚ましました。腹だけではなく、あちこちが痛みます。めっちゃ痛みます。キリキリ痛みます。血もでます。いろんなものに混ざって出ます。

 


 ヒロシには定職がありません。収入は、空き缶を売って儲けたわずかなお金だけです。



ヒロシは病院に行けません。健康保険証がないからです。数年前、酒代ほしさに、日本人になりたがっている人に売ってしまったのです。



 ヒロシは若くありません。今年で43歳。家族も友達も恋人もいません。



 不幸です。とても不幸です。現実の自分はとても不幸なのに、夢のなかの自分は、毎日決まってみる夢のなかの自分は、とても幸せそうです。腹と同じくらい、心が痛みます。



 目が覚めたとき、ヒロシは絶望につつまれます。さっきまでの幸せな時間か夢であったことや、現実の自分より夢のなかの自分のほうがしあわせであることが原因です。



 楽しい夢なんて、幸せな夢なんて、見たくない。不幸な夢を見たいとヒロシは思いました。底抜けに不幸な夢を。夢でよかった、と心底思える夢を。現実よりももっと不幸な夢をみたら、クソみたいな現実だって、少しはましに思えるかもしれませんから。



ヒロシ「すげえ不幸な夢を見られる機密道具ないかな…」



 道具をだしてくれるマルぼんは、いろいろあって、ある金持ちの家で剥製として飾られているので、機密道具は用意できませんが、使用した人が大人になっても効果が残っている『楽眠薬』の効果は絶大だと思いました。

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