赤い糸
ヒロシ「ルナちゃん…ルナちゃん…はふー」
マルぼん「女の子の名前を呟きながら、暗い部屋で1人こもってナニをしているの?」
ヒロシ「祈祷だよ。ルナちゃんが僕のことを好きになってくれるように祈祷しているんだ」
マルぼん「なんだ、祈祷なんて。この『運命の赤い糸』という機密道具を使えば、速攻でルナちゃんと相思相愛になれるよ。効果は男女間に限られるんだけどさ」
ヒロシ「マジで!?」
マルぼん「この糸の端のほうを、自分の小指に結ぶ。反対のほうを、相思相愛になりたい相手の小指に結べば、永遠に相思相愛になれるの」
ヒロシ「さっそくルナちゃんのところへ行こう!」
『運命の赤い糸』を持ったマルぼんとヒロシは、さっそくルナちゃんの家へと向かいました。
ルナちゃん「あれ、誰かいるの?」
マルぼん「やばい、見つかりそうだ。いったんひきあげ…」
マルぼんが言い終わる前に、ヒロシは動きました。
光の速さでルナちゃんの背後にまわると、首筋に一撃!
意識を失い、倒れるルナちゃん。
ヒロシ「殺してないよ。気絶させただけ。このヒロシ、己の利益のためなら鬼となるんだ。己のためになるならば、神に遇うては神を斬り、仏に遇うては仏を斬る。それがこの僕だ!」
最低な思想ですが、マルぼんはノーコメントです。
ヒロシ「さぁ、赤い糸を自分の小指とルナちゃんの小指に結んだよ」
ルナちゃん「ん…」
ヒロシ「ルナちゃんが目覚めた!」
ルナちゃん「ヒロシサンヲアイシテイマス」
死んだ魚のような目をしたルナちゃんが、機械音のような声で言いました。
ルナちゃん「ヒロシサンヲアイシテイマス」
ルナちゃん「ヒロシサンヲアイシテイマス」
ルナちゃん「ヒロシサンヲアイシテイマス」
ルナちゃん「ヒロシサンヲアイシテイマス」
ルナちゃん「ヒロシサンヲアイシテイマス」
ヒロシ「これじゃ、壊れたラジオじゃないか!」
ルナちゃん「ヒロシサンヲアイシテイマス」
マルぼん「普通に『赤い糸』を結んだからダメなんだよ。結び方を工夫しないと、『特に理由もない、普通の相思相愛』になる。理由がないからこんなカンジなんだ」
ルナちゃん「ヒロシサンヲアイシテイマス」
ヒロシ「! それって、結び方さえ変えれば、いろいろなシチュエーションの『相思相愛』が楽しめるってこと!?」
ルナちゃん「ヒロシサンヲアイシテイマス」
マルぼん「そういうことだね」
ルナちゃん「ヒロシサンヲアイシテイマス」
そんなわけで、『赤い糸』の結び方を工夫することにしたヒロシ。
ルナちゃん「ヒロシサンヲアイシテイマス」
マルぼん「はい『運命の赤い糸』の攻略本。ここの代表的な結び方が載っているよ。色々試してみよう」
ヒロシ「己じゃ選べねえから、マルぼんがやっておくれよ」
マルぼん「えっと。この結びをしたら『1人は一人称が「拙者」語尾が「ござる」の武士道大好き剣術少女で、もう1人がそんな剣術少女にひょんなことから勝利してしまい「師匠」と呼ばれるようになる平凡な男という関係の相思相愛になる』か。どれどれ」
ルナちゃん「師匠! あの技はいったいなんでござるか!? アノ技をくらって以来、師匠のことを考えるだけで、胸がうずくのでござる!」
ヒロシ「だから俺は、技なんてつかってねえよー! アレはたんなる偶然でー」
マルぼん「面白くないな。次はこれだ。『女のほうはくの一。ある男を殺しに来るが、ひょんなことからその男に惹かれることになり、任務と愛とのハザマに揺れる。男は女のほうの殺しのターゲット。相手が自分の命を狙うくの一だとは知らずに、やはり惹かれていく。そんな関係の相思相愛』になる結ぶ方」
ルナちゃん「この、この飲み物には毒がいれている…この飲み物を飲めば、こいつは死ぬ。確実に死ぬ。でも…でも!」
ヒロシ「うん? どうした?」
ルナちゃん「だ、だめ。やっぱだめ! これは飲んだらだめなんだから!」
ヒロシ「は? なんでだよ。あ、まさかオマエ、『間接キッスになる』とか照れているんじゃ」
ルナちゃん「な、バカー!! あんたなんか死んでしまえー!」
マルぼん「これもダメだ。ダメだな」
ヒロシ「ダメダメじゃ話は進まないよ。ものすごい深い結びつきになる結び方をして」
マルぼん「じゃあ、これかな。はい、完了」
ヒロシ「……」
ルナちゃん「ヒロシ?」
ヒロシ「……」
ルナちゃん「いっちゃったんだね…でも大丈夫」
ルナちゃん、空を見上げて、自分の胸に手を当てる
ルナちゃん「あなたは私の中で生きている」
マルぼん「『男は病気で余命いくばくもなく、あっさり死んでしまうけど女はいつまでも男のことを想い続けるという関係の相思相愛』になる結び方だってさ。いつまでもだって、いつまでも! うらやましい!」
マルぼんは『運命の赤い糸』の効果は絶大だと思いました。
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