気づいて! 愛!

ナウマン象「俺様は今日から法王だ」



ヒロシ「はい、そうですか」



ナウマン象「法王となったからには、最近微笑町に蔓延し、多くの命を奪っているペストの原因を絶たねばならぬ」



金歯「その原因とはなんでおじゃるですか?」



ナウマン象「ズバリ、魔女だ。魔女どもが呪いの魔法で色々やっているに違いない。いいか貴様ら。魔女っぽいやつがいたら俺に知らせろ」



大脳「はい、我が偉大なる法王閣下!」



ナウマン象「なんだ、大脳」



大脳「ヒロシのやつ、一昨年くらいから気色悪い生き物とよく歩いているでヤンス。あれは使い魔というものじゃないでヤンスかね」



ヒロシ「え?」



ルナちゃん「そういえば、使い魔と一緒にいるようになって以降、ヒロシさん……いいえ、魔女は空を飛んだり、死んでも生き返ったりと色々と不思議なことをしていたわ」



ヒロシ「え? え?」



ナウマン象「そうか。ヒロシ。貴様が魔女だったのか」



ヒロシ「ちがいます。みんな何言ってんの!? アレは使い魔じゃなくて、未来の世界のお友達。魔法じゃなくて機密道具」



ナウマン象「便利すぎる道具は魔法と変わらない。貴様は魔女認定。懺悔してもらうぞ」



ヒロシ「そ、そんな。じゃあ僕は、中世ヨーロッパばりのグログロな方法で処刑っすか!?」



ナウマン象「心配するな。俺様は昔のような野蛮なやり方はせん。ただ、卒業までクラスのみんなが妙によそよそしくなったり、クラスでなにか物がなくなった時にみんなでヒロシのほうをじろじろ見たり、回覧板はいつもヒロシの家をスルーされたりするだけだ。火事と葬式の時だけしか、関わりを持たれないようになるだけだ」



ヒロシ「ワ!  町ぐるみ!」



金歯「しっかしヒロシが魔女だったとはでおじゃる」



ルナちゃん「恐ろしいわ~。呪われないように、覇星魔邪王神ギングデズヴァブアヴズ様に祈りをささげて加護を受けないと」



ヒロシ「いま、そこの女が邪神っぽいのを崇拝しているって自供してましたよ!? 濁音いっぱいで、あきらかに邪神ですよ!?」



ナウマン象「(無視)みんなでサッカーしようぜー」





ヒロシ「というような、鬼のように屈辱的な出来事があったワケなんだ。ほんと、この町の愚民どもは僕の気持ちを理解しようとしない」



マルぼん「たしかに魔女扱いはひどいよね」



ヒロシ「そうさ。僕がやっていたのは微笑町の平和を願う祈祷なのに。たしかにカエルやトカゲの死体を鍋で煮てスープを作ったりしたけれどもさ!」



マルぼん「……」



ヒロシ「でさ、こんな僕のやさしい気持ちをさ、生きる価値のない愚民どもにわからせる機密道具ないかな」



マルぼん「ん…あるよ。はい『気餅』。この餅に、君の爪とか髪の毛を混ぜる。その餅を食べた人は、君と意識を共有し、気持ちもわかるようになるんだ」



ヒロシ「なに、その2月14日にアイドル事務所に送られてくる大量の手作りチョコレート(当然破棄)みたいな機密道具。本当に効果あるの?」



マルぼん「あるよ。ここにマルぼんの身体の一部をいれた『気餅』があるから食してみなよ」



ヒロシ「一部。体のどこよ」



マルぼん「安心してよ。マルぼんは切断してもすぐ生えてくるから」



ヒロシ「気持ち悪いからいらねえ。『気餅』なんて」



マルぼん「いいから食えって。さぁ食えって」



ヒロシ「だからいらねえって」



マルぼん「わかんねえやつだなっ。とりゃ、餓鬼化光線銃!!!!」



 餓鬼化光線銃から放たれる光線を浴びたものは、腹が減って仕方がなくなるんだよ。



ヒロシ「ぎゃあああああ!  おーなーかーがーへったようー!  …ワ! とてもおいしそうなお餅! いただきまっす! モグモグ。え…なに、この気持ち」



マルぼん「その『気餅』にはマルぼんの体の一部が混入されているから、今、ヒロシくんはマルぼんと同じ気持ちになっているのさ。で、どんな気持ちよ?」



ヒロシ「僕は…自分と言う人間が憎い…いつもいつも機密道具をねだりやがって…!」



マルぼん「そうそう」



ヒロシ「なんで…なんで家賃なんて払わなきゃいけないんだ。光熱費を払っている『少し不思議な同居人』って、マルぼんくらいじゃないのか…!」



マルぼん「そうそう」



ヒロシ「ヒロシ死ね。ヒロシ息を引き取れ」



マルぼん「そうそう」



ヒロシ「そうだ。いっそのこと滅ぼしちまうか。ヒロシごとこの世界を」



マルぼん「え」



ヒロシ「世界うぜえ。地球人超うぜえ。よっし。滅ぼそう」



マルぼん「え」



ヒロシ「なぁに。簡単さ、簡単。あの国のあの人を軽く洗脳してあれを一斉発射すれば、あとは焼け野原という名のパラダイス」



マルぼん「なにその思考。え、マルぼんってば心の奥にそんな願望が!?」



ヒロシ「とりあえず、機密道具を悪用しまくって資金調達!」



 ヒロシを鈍器を使用した暴力で眠らしたマルぼんですが、寝るときは自分で自分の体を紐でしばったり、精神科医に相談に行ったりするようになりました。この世で一番信用できないのは自分です(次点は大沼ヒロシ)



『気餅』の絶大な効果を確認したマルぼんとヒロシは、ヒロシの毛を混入した『気餅』を「これでもかこれでもかこの口か!」と言いたくなるほど大量生産しました。おいしくなあれおいしくなあれと、願を込めながらひとつひとつ丁寧に作り上げました。こいつをあの合法犯罪者ことナウマン象に食わせて、ヒロシの味わった恐怖屈辱憎しみ切ない恋心などをじっくりと堪能していただき、改心してこの世から消えてもらおうという寸法です。



 マルぼんたちは、炊き出しボランティアを装い、ナウマン象が仲間と共に永住の場として不法占拠している市立ドッペルゲンガー公園へと向かいました。炊き出しと称して、ナウマン象に『気餅』を食わせるという作戦です。



ヒロシ「炊き出しですー配給ですー」



公園人A「餅じゃ…餅なんじゃ」



公園人B「正月じゃ正月じゃ遅めの正月がきよった」



ナウマン象「ウンマーイ!」



ヒロシ(よし、食べやがった!)



ナウマン象「うう。なんか変な気分だ。暗くて…心が押しつぶされそうだ」



ヒロシ(ふふふ。そいつが僕が貴様のせいで堪能するハメになった、恐怖屈辱憎しみという負の感情さー)



ナウマン象「死ぬ死んじゃうーもう我慢できないー」



ヒロシ「けけけ」



ナウマン象「自白します。国宝指定されている微笑町の寺に火を放ったのは僕です!」



ヒロシ「!? それは、僕が心の奥に隠して隠して隠しまくった、あの夏の日の思い出! なぜナウマン象が!!?」



ナウマン象「動機は美への嫉妬ですー」



ヒロシ「同じ意識になるから、当然秘密もわかっちゃうわけだな。ナウマン象の感じていた負の感情は、恐怖とかじゃなくて罪の意識だった模様」



公園人A「犯人は僕こと大沼ヒロシです」



公園人B「犯人は僕こと大沼ヒロシです」



ナウマン象「どさくさにまぎれて仏像盗んだのも、僕こと大沼ヒロシですー!!」



通りすがりのポリスメン「詳しい話、聞きたいな」



『気餅』の効果は絶大なようです。





※ヒロシは死刑になりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る