この現実からの卒業

「嫌いなものを答えてみろよ」と言われれば、「現実」と即答するのがヒロシという人間なのです。



ヒロシ「だから僕らは、現実からエクソダスすることを決意したんだ!」



マルぼん「誰もが夢見ても口に出さない事を、よくもまぁ、平然と口にできるね」



ナウマン象「実は」



金歯「朕たちも」



ルナちゃん「現実に嫌気がさしたのよ!」



ヒロシ「こんなにアンチ現実の仲間が集ったんだ。協力してくれるよね。僕を現実という名の檻から脱出させてくれる機密道具、出してくれるよね」



マルぼん「そうさなぁ、こいつなんていかがだろう。『ブックパスポート』。こいつを身につけていたら、本の中に入る事ができる。さらには、本の内容をまるで現実のように体験することができるんだ。まぁ、時間はたったの3時間だけど、軽い現実逃避ならできるだろう」



ヒロシ「それはすごいや。幸いみんな、自分の好きな本を持ってきている。さっそく『ブックパスポート』を使って、本の中に入ってみよう」



 ナウマン象たちは『ブックパスポート』を身につけると、持参した本の中に入っていきました。



マルぼん「おうおう。みんなが入った本から、歓喜の声があがってくるぞ」



ルナちゃん「私、わかったよ。真にピュアなる力は、欲望にまみれた世界を浄化し、黄金の法律に守られし清浄なる銀の世界がはじまるんだ。黄金の世紀がはじまるんだ。さぁ、いこう! 聖なる言葉パトローム!」



マルぼん「ルナちゃんの本は、ギュルペペ教教祖の著書『聖なる風~黄金の谷への永久なる旅路~』か」



金歯「ああん!  グレアム・ヤングさま!  朕を毒殺してえ!  ああ、あちらにはエドワード・ゲインさま!  ああん!  朕の皮を剥いでえ!」



ナウマン象「おやかたさまぁ! 今夜は俺が、今夜は俺が高坂弾正です!  ああ、ああ!  夜の甲陽軍艦ー!!」



マルぼん「ナウマン象は『衆道の戦国史』かー。そういやヒロシはどうだろう」



 ヒロシが入っている本は、3年前くらいに買ってきて以来、ブックカバーをつけたまま放置していたもの。本人もなんの本か思い出せないものです。確認の意味も込めてこの本に入ったのですが……



ヒロシ「たすけて!」



マルぼん「ヒロシ?」



ヒロシ「た、たすけ、たすけたす、たす! 無だ、全て、無だ!  白い。白い!  白が迫ってくる!  無が迫ってくる!  無! 白!  無!  白!  無!  白! あひゃひゃひゃ!  この世は全て、無さー!」



マルぼん「ヒロシが発狂した」



 マルぼんは、ヒロシが入った本を確認してみました。『マイブック』というタイトルのその本には、『日記にしてよし、メモにしてよし、絵を描いてよし、小説を書いてよし、何をするのもあなた次第。最初は400ページ白紙オンリーのこの本ですが、しばらくすれば、かけがえのないあなただけの本になる!』という煽り文が書かれた帯がついていました。中身は当然、白紙でした。



 マルぼんは、どんな本にも入ることができる『ブックパスポート』の効果は絶大だと思いました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る