生きる

マルぼん「ヒロシくん、美少女とよろしくやるゲームを買ってきぞ。さぁ、恥も外聞もかなぐり捨てて、一匹の雄と化して、恋愛を楽しみまくろう!」



ヒロシ「むなしい」



マルぼん「はいー?」



ヒロシ「全てはゲームの出来事。現実とはまるで関係ないじゃないか。そんなのやって、なにが楽しい。……所詮、全てはまやかし。人生なんてるららら。すべては幻。」



 またヒロシの病気がはじまりました。でも安心。こういうときのために、マルぼんはとってきの機密道具を用意しているのです。



マルぼん「『生き貝』~! こいつはほら貝の形の機密道具なの。これを吹けばあら不思議。生き甲斐が唐突にできて、人生はパラダイスになる。さぁ、こいつを吹くんだ、ヒロシくん!」



ヒロシ「お断りだね」



マルぼん「え!?」



ヒロシ「そんな得たいの知れない機密道具、実験ナシでつかう気にはなれないよ」



マルぼん「うう。しかたない。ママさんに犠牲になってもらおう」



 マルぼんとヒロシは、『生き貝』を持ってママさんのところへ向かいました。



ママさん「なに?  なんのようなの? 今、ダーリンと乳繰り合う準備中なの」



マルぼん「あの。ダーリンと乳繰り合わなくても、このホラ貝を吹いても気持ちよくなりますよ」



ママさん「へえ。最近は気持ち良くなるお薬も高くなったし、やってみようかな」



 ぶおーぶおー。ママさんの吹くホラ貝の音が響きます。その瞬間、電話がかかってきました。



マルぼん「誰でした?」



ママさん「隣のもうろく夫婦よ。『ホラ貝の音うるさい』って。なんなの。人をなめくさって…!」



 怒り心頭のママさん。家中にあるラジオやラジカセを持ってくると、スイッチオン。すべてボリュームを最大まであげました。



ママさん「あははは。これであのもうろく夫婦、夜も眠れないわ! あははははは!」



ヒロシ「大変だ! なんか大量のピザや寿司やうどんやそばやらが配達されてきた!」



ママさん「あ、あのもうろく夫婦ー!! こうなったら!!」



 警察に「隣の家から、なにか動物の死体が腐ったような臭いがします。そういえば数年前、、近所の子供が行方不明になったのですが」と通報するママさん。



 こうしてママさんは、隣の家との交流という生き甲斐を見つけたのでした。



ママさん「ひっこーせー! ひっこーせー!」



マルぼん「ほらね、『生き貝』のおかげで生き甲斐を見つけたママさん、水を得た魚みたいになっているよ。な、『生き貝』の効果は絶大なんだ」



ヒロシ「いんや。まだ信用できないね。ほら、あそこで電柱に向かって合掌しているルナちゃんがいる。ルナちゃんに使ってみてよ」



マルぼん「しょーがないなー。ルナちゃん。ここに吹いたら快楽が永久に続く極楽へ誘われる魔法のホラ貝があるんだけどー」



ルナちゃん「まぁ、素敵」



 ぶおーぶおー。



ルナちゃん「これで私は天使になれるのね」



中年女性(37歳)「ルナちゃん!」



ルナちゃん「あ、支部長! 聖なる活動お疲れ様です!」



中年女性(37歳)「そんなことよりルナちゃん、あなた、新しい同士の説伏には成功しているかしら?



ルナちゃん「いえ、今月はまだ…」



中年女性(37歳)「さきほど、偉大なる尊師が同士たちに神命をくだされたの。一ヶ月に5人の同士を増やせない者は、三日三晩苦しんだ挙句地獄におちるって。聖職者の権限で地獄におとすって」



ルナちゃん「え、えええええ!?」



中年女性(37歳)「はやくしないと、死ぬわよ! 助かるには300万円寄進するしかないの!」



ルナちゃん「そんなお金ないし…あ、マルちゃん! ヒロシさん! 心が綺麗になる素敵な集まりがあるんだけど」




ヒロシ「結構です」



 その後ルナちゃんは、色々な家を訪ねたり、電話しまくったりしています。どうやら生き甲斐をみつけたようです。『生き貝』の効果は絶大です。





ナウマン象「絵画は楽しいなぁ。本当に楽しいなぁ」



ぶおーぶおー。



ナウマン象「描かなきゃ。どんどん描かなきゃ。死ぬまで絵を描き続けなきゃ。ああ、絵の具がない。赤い絵の具が。そうだ、絵の具ならあった。俺のなかに」


ブシュッ!





大脳「どんどん勉強して賢くなるでヤンスよ」



ぶおーぶおー。



大脳「早く勉強しないと脳が。脳細胞が死んでいく! ええい、読むのは面倒くさいでヤンス。直接情報を摂取でヤンス。

もしゃもしゃ。ウンマーイ! 参考書、ウンマーイ! もしゃもしゃ。もしゃもしゃ。もしゃもしゃ。もしゃもしゃ。もしゃもしゃ。もしゃもしゃ。おかわり!




その他「漫画はおもしろいなぁ」



ぶおーぶおー。



その他「あ、もしもし? 大砲堂出版さん? 今週の『チェコスロバキアちゃん』、俺のアイデアのパクリなんですけど。いいかげん、人の脳内を勝手に見るのはやめてくれません?」




マルぼん「ほら、いいかげん『生き貝』の効果はわかっただろ。さっさと吹いてバラダイスへいこうよ」



ヒロシ「まだまだ。まだまだだよ。もっといろいろな人に吹いてもらおう」



マルぼん「無理だよ。微笑町の人には、あらかた『生き貝』を吹かせたし」



ヒロシ「なら、おいどん死ぬでごわす」



マルぼん「ええ!?」



 どういうことか、マルぼんさっぱり理解できませんです、はい。



マルぼん「『生き貝』を吹いたら、快楽の宴がはじまるんだよ!? なぜに死ぬとかおっしゃるの!」



ヒロシ「『生き貝』で生き甲斐をみつけた人を見るのが僕の生き甲斐だったんだ。もう『生き貝』を吹く人がいないなら、死ぬ」



 いつのまにかヒロシのなかで大きな存在になっていた『生き貝』に、マルぼん軽く嫉妬です。



 しかしまぁ、嫉妬に狂ってもいられないし、宿主に死なれてもこまるので、マルぼんはムリヤリ『生き貝』をヒロシに吹かせました。



ぶおーぶおー。



マルぼん「どうだいヒロシ?」



ヒロシ「やっぱ、酒と風邪薬同時摂取かにゃ」



マルぼん「ん?」



ヒロシ「睡眠薬服用in雪山ってのもいいかも」



マルぼん「ん?」



ヒロシ「ビルからヒモなしバンジーでもいいかな」



マルぼん「……」



 どうも自殺だけがヒロシの生き甲斐になってしまったようです。『生き貝』の効果は絶大だとマルぼんは思いました。


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