シャカリキナウマン象

ヒロシ「学校はタルいし、生きることに疲れたから、楽になれる機密道具だして」



マルぼん「なら息を引き取れよ」



 ヒロシのお願いについつい荒い口調で答えてしまうマルぼん。最近、ちょっとしんどいのです。ヒロシと話すの。



ヒロシ「んなこと言わないで頼むよう。楽になる道具。楽になる道具ー!」



「すでに自分の人生はラストスパートにはいった」と公言するヒロシ。うざく思ったマルぼんは、ヒロシの希望とは逆の位置に存在する機密道具を出してやることにしました。



『シャカリ木』。みらいのせかいの木で、これに生る実を食した人はなにごとにも全力投球、努力! 努力! また努力! でシャカリキにがんばるようになるのです。マルぼんは全身を使って拒否するヒロシの口に実を押し込めました。



ヒロシ「ぼ、僕は今までなにをやっていたんだ。こんなことではいけない。頑張らないと。シャカリキに頑張らないと」



 努力の人と化したヒロシはさっそくどこかに電話をしました。



ヒロシ「あ、微笑小学校さん? おたくに爆弾仕掛けました。休み明けから授業はナシの方向で」



 続いてパソコンを起動し……



ヒロシ「OK。爆破予告書き込み完了。マルぼん。教師や保護者の秘密を暴く機密道具だして」



ヒロシ「あ、それよりも、給食に色々混入してみるとか」



ヒロシ「そうだ。いっそ自分で自分をなぐって『暴漢に襲われた』とか」



 ヒロシが学校を休むためにシャカリキでがんばるようにしてしまった『シャカリ木』の効果は絶大のようです。そんな翌日。



ナウマン象「おう。なんかイイ感じの機密道具があるそうじゃねえか。貸してくれよ。おう」



 最近、「唯一の生きがいだ」と公言する絵画に、情熱がまるで持てない(絵の具を見ただけで吐くらしい)というナウマン象。一瞬でヒロシを努力の人へとメタモルフォーゼさせた『シャカリ木』の実を貸して欲しいと、マルぼんに申し出てきました。ナウマン象の描いた絵は見た人の皮膚がただれたり、格闘家や悟りを目指す僧侶の苦行に用いられたりするくらいウザいものなのですが、マルぼんはナウマン象の報復が怖かったので、『シャカリ木』の実をプレゼントしてしまいました。



ナウマン象「モグモグ(実を食したことを表現する音)。む…むむ。俺は、俺様は!」



『シャカリ木』の実を食べて、ナウマン象の表情が変わりました。



ナウマン象「俺は、俺は絵を愛しているっ。絵のためにどんなことだってしてみせるっ。よしっ。この地球(『ほし』と呼んだらカッコよさそう)の歴史を1枚の絵として描く大作『地獄変』を完成させるぞ!」



 どこからか絵の具を持ってきたナウマン象は、巨大なキャンパスに向かい、一心不乱に絵を描きはじめました。



ナウマン象「だめだっ。どうしてもだめだっ。本物の『地獄』を見ないと、『地獄変』は描けない。描けやしないっ。……なんだ、簡単に見えそうじゃないか。地獄」



 突然、大沼宅に火をつけるナウマン象。マルぼんたちは我先にと逃げ出したのですが、ナウマン象は炎に包まれ、笑いながら絵を描き続けました。



 数時間後。完全に焼失した大沼宅の跡地。その跡地にはナウマン象の姿はなく、描き上げたと思われる絵が、焦げ目ひとつなく残っていました。この事実を面会の際にヒロシに伝えました。



マルぼん「ナウマン象は自分の命と引きかけに絵を守ったんだ。なあ、ヒロシ」



ヒロシ「ンなことどうでもいいから、ナウマン象の家族に慰謝料もらおうよ。保釈料にしたいの。弁護士。弁護士呼んでー! 」



 完成した絵が素晴らしいと思ったマルぼんは、『地獄変』を地元の絵画コンクールに出展しました。ナウマン象の命が篭った『地獄変』は見事、絵画コンクールの『参加賞』に輝いたのでした。

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