石橋ブレイカー

 ヒロシが調子に乗って、ネットで株を買い漁り、財産を溶かしました。



ヒロシ「あっしの全財産が…全財産がぁぁぁぁぁん」



マルぼん「なんでもかんでも、美味しい話にすぐ飛びつくからダメなんだ。この前も、金の先物取引に手を出して、相手の会社の社長をマスコミの目前で、銃剣なんか使ってアレするし……その前は小豆相場に手を出すし」



 ヒロシの刹那的な『明日より今日なんじゃ』的生き方に不安を感じたマルぼんは、機密道具を用意することにしました。



マルぼん「『石橋ブレイカー』!!」



ヒロシ「なんだ。巨大なハンマーじゃないか」



マルぼん「こいつで頭を叩かれた人は、石橋を叩いて渡る性格の持ち主になるんだ。それ」



 グシャ。



 マルぼんが『石橋ブレイカー』でヒロシを叩くと嫌な音がしました。骨が骨でなくなるような、脳が脳でなくなるような、そんな音。でも気にしたら負けです。



ヒロシ「カーテンを閉めろ。監視されている」



 叩かれた後、ヒロシは家中のカーテンをすべて閉めてしまいました。



マルぼん「監視?」



ヒロシ「電線に停まっている鳥を見ろ。おそらくアレは政府のつくった鳥型メカだ。鳥のフリをして、内蔵のカメラで国民1人1人を監視しているんだ。念のため、カーテンをしめておかなきゃならぬ」



ヒロシ「食事? 毒が入っているかもしれないから、食べないよ。念のため」



ヒロシ「ラジオを止めてくれたまえ。そのうち、僕の悪口を言い出すから。そうしたらおそいから、念のため」



ヒロシ「声をだすな。隣近所の人が『騒音だ』と言いがかりをつけてくる。きっとつけてくる。念のため、声をだすな」



ヒロシ「パソコンなど捨ててしまえ! きっと電磁波が発生させて、僕の体を蝕んでいくから」



 やがてヒロシは、一歩も外から出なくなりました。頭から布団を被り、部屋の隅でガタガタ震えています。



ヒロシ「僕は不安なんだ。見てみろ、今の若者たちを。なんて無軌道なんだ。明日のことなど考えていやしない。僕は僕の愛する日本がダメになるのを、見ていられない。そうだ、念のため…」



 ヒロシは、部屋に置いたままだった『石橋ブレイカー』を手に取ると、フラフラと外へと出て行きました。



 直後、外から聞こえる絹を裂くよな乙女の悲鳴。



 連行されたヒロシ。取調官は言いました。



医師「念のため、精神鑑定をしましょう」



 マルぼんは『石橋ブレイカー』の効果は絶大だと思いました。

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