落し物引き寄せ腕輪

マルぼん「え。ナウマン象が五十万円を拾って調子にのっているって?」



ヒロシ「しかもあいつ、その五十万円を全額寄付して『善人!』とか『生き仏様』とか『動く即身仏』とか褒め称えられているんだっ。しまいには、『ナウマン象神の血肉は万病に効くんだってよ! お兄ちゃん!』ってな噂も流れて、ナウマン象は食べられてしまったんだ。骨も砕かれて粉状になって薬扱いされてしまったそうだよ。やつは伝説になったんだ。うらやましいことこの上ない!  ねえ。僕もイカす拾い物をしたいよ!」



マルぼん「おし。『落し物引き寄せ腕輪』。これをつけると落し物が自然に近づいてくる。調整機があって、これをいじると拾える落し物のレベルが変わるんだ。低レベルだとなぜか路上に落ちている軍手とか」



ヒロシ「そいつはすごいや。よし、早速最高レベルに調整しよう」



男「う、うげほう」



ヒロシ「ワ! 血まみれで、いまにも事切れそうな男の人が部屋にはいってきたよ!? というか、死んでる!」



マルぼん「よし。この『死人でもなおる薬』で治療だ」



男「助かりました。ありがとうございます。このご恩は死んでも返しますよ」



マルぼん「最高レベルにしたから、落ちてしまったこの人の命を拾ってしまったようだね」



ヒロシ「人の命は地球よりデンジャラスって言うもんね。まぁ、こんなオチもたまにはいいかも」



警察「連続殺人犯・桃上右近! 逮捕するー!」



男改め桃上「国家権力!?」



警官「そこの少年と怪生物は桃上の仲間か!」



ヒロシ「え!? え!?」



警部「どうなんだ!? 白状しろ! 白状しなきゃ、ひどい目にあわす!」



ヒロシ「え、あ、ああ。そうですー」



「落し物を拾う機密道具をつけながら、自分が落ちてどうする」と、マルぼんは思いました。取調べ中に。



 その後。



ヒロシ「釈放釈放。やっぱ無敵の未成年は最高だね。社会的に最強。いつまでも未成年でいたい。昔から言うものね。『子供でいたいずっとトイザらスキッズ』って」



マルぼん「まだ『落し物引き寄せ腕輪』を使うのかい」



ヒロシ「当然さ。今度は死んでる人や死にかけの人がいないところで、最高レベルにしてみようと思うんだ。というか、した。これで僕は小金持ちだあね」



マルぼん「そこまで欲望に忠実な生き方、少し憧れるよ」



ヒロシ「お。なんか体がむずむずしてきた。お金が近づいてくる予感。

よし。よし。よし。よし。よしよしよしよしよしよしよしよし」



マルぼん「ヒロシくん?」



ヒロシ「よ死よ死よ死よ死よ死よ死よ死よ死よ死」



マルぼん「ワ! 首が180度回転して、四つんばいになって走り回ってる!」



ヒロシ「14歳で死ぬ! 14歳で死ぬ!」



マルぼん「ワ! 聞いたことないようなキモい声でしゃべった! そうか。そこらへんに落ちていた自縛霊かなんかを拾ってしまったんだ!」



ヒロシ「おのれー命あるものめー全てのいきとしいけるものめー」



保険所の人「あー。こいつが通報のあった『なぞの生物』か。たしかに気色悪いな。よし。つれて帰って薬殺だ」



保険所の人2「こっちのやつも気色悪いな。連れて行こう。つがいかな?」



 ヒロシは保険所の人に連れて行かれました。「落し物を拾う機密道具をつけながら、自分が拾われてどうする」と、マルぼんは思いました。保険所への護送中に。



その後。



ヒロシ「『落し物引き寄せ腕輪』を強化してみたよ。最高レベルを引きあげてみた」



マルぼん「あのさあ。まじめに働いて儲けようという気概はないの?」



ヒロシ「この世で一番きれいな金は、楽して稼いだ金だっ」



マルぼん「へいへい。思うままわがままに生きてくれや」



大脳「やあでヤンス」



マルぼん「あ、大脳」



大脳「マルぼんしっているでヤンスか。微笑港に国籍不明の船が大量に漂着して、船内にはかなり人間が生活していた痕跡があるらしいでヤンスよ。その数およそ3000人くらいらしいでヤンスよ」



マルぼん「へえ。あの国の人たちかな」



大脳「その3000人、警察が血眼になっても1人もみつからないそうでヤンス」



マルぼん「しかしなんで密入国なんかするかねえ」



大脳「よっぽど自分の国が嫌なんでヤンスね。脱国してよその国に密入国する人は、いわばお国の落し物でヤンス」



マルぼん「国の落し物か。うまいこと言うな」



 マルぼんはなんとなく窓から外を見てみました。近所ではあまり見かけない、ぼろぼろの服を着た人がたくさんいました。皆さんつかれきった表情で、なぜか大沼宅をじっと見つめています。しかも、その数は少しづつ増えている感じです。なぜなのかマルぼんはわかりません。部屋の隅では、ヒロシが強化した『落し物引き寄せ腕輪』のレベルを調整していました。



 その後。



 マルぼんはこれ以上ないくらい疲れております。



マルぼん「さすがにね、3000人に『身元を問わない就職先』と『絶対ばれない隠れ家』と『偽国籍』『就職先』を用意するのは疲れたよ」



ヒロシ「ご苦労さま。でも安心して。今度こそ大成功だから」



マルぼん「まだやるか。まだやるか貴様」



ヒロシ「今度で最後。絶対最後。最後だって」



 聞くとヒロシは『落し物引き寄せ腕輪』をさらに改造し、人の命だか魂だとかを引き寄せないようにしたとか。おまけに引き寄せる落し物を『表面的には誰にも必要とされていないけど、出すところに出すとすごい値段で売れるもの』に限定するプログラムを組んだとか。



ヒロシ「これで僕は大金持ちさ。さぁ、落し物カモーン!」



 引き寄せられてきたのは大量のドラム缶でした。



マルぼん「あ。町外れの発電所の裏に放置されているドラム缶じゃないか。へえ。これ高値で売れるんだ。諸外国に」



ヒロシ「中身はなんか液体だね。よし。高値で売れるルートを探し出すぞ」



 こうしてヒロシの部屋に発電所の裏にあったドラム缶を放置することになったのですが、放置していらい、家族みんなが体調不良。髪は抜けるわ、鼻血がとまらないわ、歯茎から血がでるわ。中身の液体はいったいなんなんでしょう。あと、あの発電所、動力はなんだったっけ。



 マルぼんは『落し物引き寄せ腕輪』の効果は絶大だと思いました。

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