僕のものは僕のもの。今なら言える。

ヒロシ「ナウマン象のヤツ、僕の所有物を全部分捕りやがったんだ。名前を書いていたのにさ、『大沼ヒロシってのは、おれの魂の名前だ。だから大沼ヒロシと書かれているすべてのものは俺さまのものだ』とか言うし」



マルぼん「はい『所有物マーカ』。このマーカで名前を書くと、その物は書かれた名前の人の所有物となるんだ」



ヒロシ「いい感じの機密道具だね、すんばらしい。ではさっそく使用してみよう。『大沼ヒロシ』っと。よし。ありとあらゆるものに書くのに成功したよ」



 と、その時。見慣れぬ者たちが大挙して訪れて、名前を書いたものを持ち去ろうとするではありませんか。



大沼ヒロシ「俺は大沼ヒロシです。これは名前を書いているので私のものです」



大沼ヒロシ「僕は大沼ヒロシです。これは名前を書いているので私のものです」



大沼ヒロシ「それがしは大沼ヒロシです。これは名前を書いているので私のものです」



大沼ヒロシ「ミーが大沼ヒロシです。これは名前を書いているので私のものです」



大沼ヒロシ「吾輩は大沼ヒロシです。これは名前を書いているので私のものです」



ヒロシ「なんだこいつら! こら、それは僕の財産だ。勝手に持っていくな! ああー!?」



マルぼん「『大沼ヒロシ』とだけ書くからいけないんだ。どこに住んでいるどんな生い立ちの大沼ヒロシが持ち主なのか詳細に書かないと、不特定多数の大沼ヒロシの所有物になってしまう。あーほら。みんなで取り合ったから、せっかくの財産がやぶれたり砕け散ったり」



ヒロシ「僕の財産が! が! が!」



マルぼん「残念無念ですな。うん? なんですか」



大沼ヒロシ「あなたにも俺の名前が書いてありますね。もって帰ります」



大沼ヒロシ「あなたにも僕の名前が書いてありますね。もって帰ります」



大沼ヒロシ「あなたにもそれがしの名前が書いてありますね。もって帰ります」



大沼ヒロシ「あなたにもミーの名前が書いてありますね。もって帰ります」



大沼ヒロシ「あなたにも吾輩の名前が書いてありますね。もって帰ります」



ヒロシ「ごめんね、マルぼんにも書いちゃった。てへ♪」



マルぼん「んぎゃあああああああああああああああああ!?」



 ぶちっ。そんなショッキングシーンが繰り広げられた翌日。



マルぼん「ごわごわごわ…よし。無残にも引きちぎられた体が、見事なまでに再生したよ」



ヒロシ「その再生の様子をじっと見守っていたわけなんだけど、一生夢でうなされそうな位残酷描写の連続だったんですが」 



マルぼん「気にしない気にしない。ところで『所有物マーカ』の変な使い方を発見したって?」



ヒロシ「おうさ。マルぼんがたくさんの大沼ヒロシさんにされるがままなのを見て思いついたんだけど、『所有物マーカ』は生き物でも効果ありなんだね。実は僕は、ある人の所有物になりたいんだ」



マルぼん「なんだってー!?」



ヒロシ「3丁目の貫田さんの未亡人。とても美人でさ、一生でもいいから仕えたくなるよな美人なんだ」



マルぼん「いや、それは個人の自由なんだけどさ、その貫田さんの未亡人のくわしい情報を書かないと、恐ろしい残酷描写の連続かもよ」



ヒロシ「貫田さんの未亡人の情報なら、諸事情で詳しいんだ。故郷は栃木で、旧姓は黒崎。お兄さんが2人いるけど、1人は故人。趣味はガーデニング。亡き夫の保険金で静かに暮らしていて、トイレにはいるときは右足から。風呂は左足から湯船にはいる。好きな食べ物は切り干し大根。昨日は21時に寝てた。で、これが拾ってきた使い古しの歯ブラシで」




マルぼん「…昨日ママさんが、ゴミ捨て場をあさっている不審者の話をしていたけど」



ヒロシ「バカ、純愛だよ、純愛」





 こうして貫田さんの未亡人の所有物となったヒロシは、大沼家を去っていたのでした。そして一年。出て行ってしばらくは手紙など来ていたのですが、最近はさっぱりです。






手紙1「やあ。貫田さんの未亡人の所有物として幸せな毎日です。最高。家の中、甘い匂いとかするし」






手紙2「やあ。そうそう。一緒に暮らし始めて初めて知ったんだけど、貫田さんには娘さんがいたんだよ。内臓の病気で、新しい内臓を用意しないと外を出歩けないんだって。僕はよく、この娘さんの話し相手をしているんだ。人に尽くすって最高だね」



手紙3「やあ。今日は貫田さんの未亡人の娘さんの通院に付き合ったよ。おやさしい貫田さんの未亡人は僕の健康診断までやってくれたんだよ」



手紙4「貫田さんの未亡人と娘さんの主治医が『本当にいいんですか』『あれは私の所有物ですから』とか話しているのを目撃。なんだろうね。あ、でも所有物って僕のことだよね。最高!」



手紙5「貫田さんの未亡人の娘さん、外国で手術をするみたい。僕もついていくんだって」



手紙6「外国で手術をするの、なんでも法律の関係らしいんだけど。僕がついて行くのも法律のせいかな?」




 半年前に「手紙6」が届いて以降、ヒロシからの手紙はありません。あと、この前、貫田さんの未亡人が、娘さんらしき女の子と歩いているのを見ました。娘さんはとても元気そうでした。マルぼんは『所有物マーカ』の効果は絶大だと思いました。

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