ゴミ屋敷を作ろう! の巻

 昨年、全国の実在するゴミ屋敷を擬人化したブラウザゲームがヒットしたことからはじまった、全国的な『ゴミ屋敷ブーム』は、皆さんの記憶にも新しいことでしょう。(「ん? そんな記憶ないよー」というかたは、おそらくそういう平行世界から迷い込んでこられたかたなので、大冒険とかしつつ、自分の世界に戻れるように努力を惜しまないでください。あなたを待っている人がきっといるはず。きっと!)



 ゲームはのちにコンシューマ移植され、アニメ化もされて、よせばいいのに実写化もされて、ファンは膨大な数となり、その経済効果はすさまじいものとなりました。その勢いは両津の新商売が軌道にのった時と同等だったと、識者は述べております。



 人気キャラの元ネタとなった『実在するゴミ屋敷』を聖地巡礼するファンも増えて、それきっかけでゲーム無関係にゴミ屋敷を愛好する人も現れ始めました。ゴミ屋敷のある各自治体はこのビジネスチャンスを逃さぬために、ゴミ屋敷までの案内図を街中に設置したり、ゴミ屋敷について説明できるゴミ屋敷マイスターを養成したり、自らの行いを改めて生き方を変えようとしているゴミ屋敷家主を説得して社会復帰を阻止してみたり、ゴミ屋敷に力を入れはじめたのです。



 ゴミ屋敷のない自治体は、これからゴミ屋敷を作ろうという人に補助金をだしたり、ゴミ屋敷誕生のきっかけとするためにごみ回収の行政サービスを止めたり、将来的にゴミ屋敷を作る人を育成すべく心の闇を広げる逆カウンセリングをひそかに始めたり、断捨離の本を回収しまくって学校の校庭で燃やしたりしました。しまいにはわざわざゴミ屋敷を建て、さらにはついには著名な建築家に頼んで、デザイナーズゴミ屋敷を建てる自治体まで登場。これは創作ゴミ屋敷というゴミ屋敷業界に新たな風が吹くきっかけとなりました。



 創作ゴミ屋敷は、「使うのは医療廃棄物のみだとか放射性廃棄物のみだとか、敢えて自分に縛りを貸す求道系ゴミ屋敷」「失われる瞬間にこそ真の美しさが見られるとして、せっかく完成したゴミ屋敷に自ら火を放って焼失させる芸術系ゴミ屋敷」と言った変わり種のものが多くみられました。変わり種のゴミ屋敷を好む層と、ブーム以前から存在する天然のゴミ屋敷こそ至高であるとする層の対立が、暴力を呼び警察沙汰になったこともありました。



 世はまさに大ゴミ屋敷時代。2018年。この大ゴミ屋敷時代に取り残されてなるものか、ええなるものですかと、僕らの微笑町も立ちあがりました。世にふたつとない、究極のゴミ屋敷を作ってやる!! という意気込みで、大枚を叩いてゴミ屋敷作りの大家である『17代目鷲野斉山』先生を招聘したのであります。



 鷲野斉山。ゴミ屋敷を愛好するものならば、必ず知っているであろう名前。ゴミ屋敷鷲野流の家元が、代々受け継いできた伝統と格式の名前。その歴史は古く、初代鷲野斉山の登場は、安土桃山時代にまでさかのぼる。初代鷲野斉山は、元々、鷲野持隆という名の武士であり、三好康長に仕え、後に豊臣秀吉に気に入られたことで直臣に引き立てられた。秀吉の死後に起こった関ヶ原の戦いでは東軍につくものの、戦後、家臣を密かに西軍につかせていたことが発覚し、改易。困窮した持隆は、住む家にも困り、拾った廃材を使って家を作ったところ、これが評判となり、いつしか芸術的な扱いをされるようになる。同じころに、名を斉山に改めた。持隆没後、父と同じく廃材の活用になった次男の鷲野持長は鷲野斉山を受け継ぎ、廃材活用・鷲野流を立ち上げる。持長の子、持龍の代で鷲野流で隆盛を極めるが、七代目斉山の子である持龍と持虎の家督争いよる流派の分裂が(以下、めんどくさくなったので省略します)



町長「先生。鷲野先生。微笑町に、すばらしきゴミ屋敷はできますか。できませんか」



鷲野「そうやなコンクールを開催してみたらええんとちがうか。ええゴミ屋敷を作ったやつには銭をだすんや」



 そんなわけで、微笑町ゴミ屋敷コンクールが開催されることとなりました!



鷲野「みんながんばってや」



ヒロシ「よし、僕もやってやるよ。まずはゴミを集めるところからはじめようぜ」



ママさん「ギャー!」



マルぼん「どうやら痴情のもつれでママさんがやられたようだぜ」



 その時、たくさんの車がヒロシの家の前に止まりました。中からでてきたのは、マイクやカメラを持った人たち。自宅前にいたヒロシを取り囲んでマイクを向けてきます。



「○○テレビです。ねえ、ヒロシくん。目の前でお母さんが殺されてどんな気持ち!?」



「××新聞です。目の前でお母さんが死んで哀しいよね? 哀しいよね!?」



「週刊▽▽です。犯人は憎いよね! 殺したいほど憎いよね!!」



「★★新聞です。お母さんがいなくなって不安だよね。将来不安だよね!」



「◇◇テレビです。お母さんの写真とかもらっていいですか。あと、SNSのアカウントとかもあったらうれしいです」


 

 大沼宅前は大量の取材陣に取り囲まれるかたちとなりました。



鷲野「既にあるやないか、ゴミ屋敷」



 かくしてゴミ屋敷は新たな時代へと突入したのであります。


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