地上最強団体決定トーナメント開催
「これ、僕の新しい友達なんだ!」
ヒロシが某ファーストフードのマスコット人形を持って帰ってきてマルぼんに言いました。「もう限界だ、この子」とマルぼんは思いました。
ヒロシには友達はいません。
彼の友達はパソコンのモニターの中にいる美少女と、拾ってきた無機物と、脳内にいる住人だけです。マルぼんとは家主と居候の関係ですし、いつものメンバーもヒロシとは「他人以上知り合い未満」といった間柄で、損得勘定がない場合はまるで付き合いがありません。
このまま「周りと強調できないのである意味オンリー1」な人生を歩んでいくと、ヒロシが人様に迷惑をかけるダメ人間になるのは目に見えているのですが、マルぼんにはどうすることもできません。
以前、人権団体を通じてヒロシに友達を作ってやった事もあったのですが、ヒロシは「殺すなら殺せ!」「僕を殺す? ふ。地獄の女神は僕がお気に入りらしいな」「命を奪っても夢だけは奪い去れないぞ!」「(マルぼんは指さして)こいつを殺せよ!」「(いつものメンバーの個人情報を公開して)こいつらならいいよ!」「全人類を滅ぼしてもいいから、僕だけは助けて!」と意味の分からない事を言って追い返してしまいました。マルぼんには、もう策がないのです。
そんな時、マルぼんは一枚の新聞広告を発見しました。
『<地上最強団体決定トーナメント>参加団体募集!』
と書かれたそのチラシを見て、「微妙な関係の方々の仲を深めるには、共通の目的や敵を作ることが一番である」とマルぼんは気づきました。そしてマルぼんは、ヒロシに内緒でトーナメントへの出場を申し込んでしまったのです。
<恒例地上最強団体決定トーナメント>は、マルぼんたちの住む微笑町が町おこしの一環として毎年開催する武闘会です。チーム戦であり、「5人1チーム」という決まりさえ守れば誰であろうが出場資格があります。
優勝してもたいした賞品は出ない上に、年を追うごとに死傷者行方不明者の数が増加しているにも関わらず、それなりの歴史と知名度があることから毎回かなりの団体が参加を表明するのです。
ヒロシといつものメンバー(ナウマン象、金歯、ルナちゃん、大脳)にこのトーナメントに参加してもらい、友情を深めてもらおうというのが今回の作戦。ところが、当のヒロシは泣いて出場を拒否。たしかにパソコンのマウス以上の重さのモノを持ったことがなく、目にゴミが入っただけで体の穴と言う穴から血を噴出して意識不明となる虚弱体質を絵に描いたような生物であるヒロシに、格闘トーナメント出場なんて無理な話だとマルぼんは思いました。
とはいえ、甘やかしてばかりもいられないので、マルぼんは泣き言を止めようとしないヒロシをクロロホルムで眠らせてトーナメント会場に運びました。その他いつもの連中も、「就職先を紹介する」「お父さんが急病ですよ」「この町のことなら詳しいから、私が案内しましょうか?」「タバコの火を貸してください」などと言って連れ出し、会場へと連れて行くことに成功したのでした。
なんでもありの<恒例地上最強団体決定トーナメント>。いよいよ開会式なのですが、出場予定のヒロシ+いつもの連中(ナウマン象、ルナちゃん、金歯、大脳)は、クロロホルムの影響が抜けず、ヨダレを垂れ流してうつろな目をしている状態なので、出席はマルぼんのみです。
大会運営委員会会長の「当方では一切の責任を負いません」という開会の言葉に続いて国旗掲揚・国歌斉唱なのですが、ここで「強要反対!」「とにかくなんでもかんでも反対!」と、自称市民団体が乱入。会場は騒然となりました。「おもしろいことになりそうだ」とマルぼん、久しぶりに血が騒ぎました。
開会式が終了し、マルぼんが控え室に行ってみると、ヒロシたちは正気を取り戻していました。
マルぼんが事情を説明すると、連中は「俺たち小学生ですよ!?」次々と罵声と非難のアメアラレ攻撃。
マルぼんだって勝つ見込みのない戦いに参加するほど愚かではありません。たしかにヒロシたちは小学生ですが、そこら中にボウフラのように存在するドラッグと文明の垢にまみれた小学生とはワケが違います。たくさんの不思議な事件・冒険に巻き込まれ、そこら中に佃煮にするくらいに存在する金と名誉欲にまみれた社会人など小指で逝かせることのできるほどの成長を遂げているのです。
「そういえば、戦争反対のために地雷地帯の走り抜けとかしたっけ。おかげでいまは体の80パーセントがメカだ」
「医者がいなかったから、私たちだけで50歳代男性の心臓のバイパス手術を敢行したこともあったわ(結果は伏せておきます)」
「知人女性を殺して食った精神異常者を、みんなで力を合わせて社会復帰させたこともあったねえ」
「よし。このトーナメントで優勝して、僕らの力を腐敗した社会に見せてやろう!」
「おー!」
マルぼんが説明すると、皆、自分たちの力を自覚してくれたようです。こうしてヒロシたちは第一試合である『微笑町猟友会』との戦いに臨むことになったのでした。
「町の猟友会なんて、小指で捻ってやるぞ!」
「「「「うおおー!」」」
数分後、ヒロシチームは『微笑町猟友会』によって全員射殺され、初戦敗退が決定しました。やっぱ、小学生とか無理です、無理。
その後、とりあえずみんな生き返ったので、似たような他のトーナメントに参加することに。
「もういやだ」「勘弁しろよ」「僕のバックには大物が」と不平を漏らす一同ですが、マルぼんは「こいつらの友情を深めるためだ」と涙を飲んで、トーナメント出場を強要したのでした。
トーナメント第1回戦。ヒロシチームの敵は、『魔界虐殺同好会』といういかにも強そうなチーム。当然、ヒロシたちに勝ち目などカケラもありませんが、マルぼんは前回の轍を踏まないように一計案じています。
マルぼんは『発狂らっきょう』という、食べた人は発狂するらっきょうタイプの機密道具(未来の世界では徴兵逃れに使用されます)を用意し、先鋒であるナウマン象に飲ませました。
試合開始。『魔界虐殺同好会』の先鋒が、発狂して「うー」とか言っているナウマン象に容赦なく襲いかかります。
「酷い!」。ナウマン象が攻撃された瞬間、会場から次々と声があがりました。声の出したのは、先の大会の開会式で「とにかく色々反対!」と暴れていた方々。マルぼんが自腹で今大会に招待していたのです。
「まともな判断ができない人(精一杯に綺麗な表現)を一方的になぶるなんて!」
「まともな精神じゃない人ってある意味純真な天使(最上級に美しい表現)。そんな天使の白く美しい翼を力任せにもぎ取るなんて、畜生にも劣る行為だ!」
「こんなことをする人間がいる国だ、きっと過去にも他の国に酷い事を(中略)謝罪と賠償!」
非難の声に耐えかねた『魔界虐殺同好会』は降参。マルぼんの考えた新奥義『仁拳擁護』が炸裂したのです。マルぼんたちは一回戦を突破し、その調子で勝ち進み、ついに優勝したのでした。
帰り道。優勝トロフィーを抱えたヒロシたちは笑顔など浮かべ、楽しそうに会話をしていました。なんだかんだで仲が深まったのです。遊びに行く約束なんかしていたので、マルぼんも混ぜてもらおうと会話に参加することにしました。
マルぼん「マルぼんも行きたいな」
ヒロシ「…くんなや」
ルナちゃん「ヒロシさん、そんなの無視。無視」
金歯「そうだよ。そんなのと話したらヒロシの口が腐る」
大脳「そうでヤンス。ヒロシにもしものことがあったら大変でヤンス」
ヒロシ「み、みんな。僕を心配してくれているの?」
ナウマン象「ウー(おれたち友達だろう)」
ルナちゃん「あんな得体の知れない怪生物と暮らしているヒロシさん、立派だわ」
「微妙な関係の方々の仲を深めるには、共通の目的や敵を作ることが一番である」マルぼんは今回の事件の最初の方でそんなことを思ったことを、思い出したのでした。
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