積読は僕にまかせろ

ヒロシ「漫画買ってきたぞー。紅桜アオイ先生の『ハッスル女学院 土一揆日誌』の最新刊さ」



マルぼん「うわーさっそく読もうぜ」



ヒロシ「そのうちね」



 漫画の入った袋を放り出し、そのまま寝転ぶヒロシ。



マルぼん「なんだよ、貴様、せっかく買ってきた漫画を読まんのか?」



ヒロシ「買ったきたら、なんかもう満足しちまってな」



マルぼん「積読ってやつか!  積読ってやつなのか!」



ヒロシ「息をするのもめんどくせーういー積んでいるだけで本を読んだ気分になる機密道具だしてー」



マルぼん「『積読本棚』。この本棚に置いた本に触ると、一瞬にして、その内容を理解することができる」



 マルぼんは、ためしに少女マンガを1冊、『積読本棚』に置き、その少女マンガをヒロシに触らせました。



ヒロシ「そ、そうか。権左エ門が、助清を刺し殺したのは、愛故だったんだ!」



マルぼん「ほら、瞬時に全てのお話が理解できただろ」



ヒロシ「こいつは素敵な機密道具だ! あ、いいこと思いついた。この本棚に教科書を置けば、僕ってばすごい天才になれるんじゃないの!?」



 ヒロシはランドセルから大量の教科書を取り出し、『積読本棚』を置きました。



ヒロシ「さぁ、教科書の全てを理解して、天才の名をほしいままにしてやるぞ!」



『積読本棚』に置かれた教科書の一冊を手に取るヒロシ。その瞬間



ヒロシ「俺は宇宙なんだ!」



マルぼん「はい?」



ヒロシ「俺は宇宙。マルぼんも宇宙。ルナちゃんも、ナウマン象も、母さんもみんな宇宙! 宇宙は命、命は宇宙! そうだったんだ!」



 マルぼんは、ヒロシが触った本を見てみました。それは、ルナちゃんの属する某有名宗教団体の本。入信すると強制的に購入させられる、5万円もする分厚い本です。



ヒロシ「宇宙! 命! 未来! 光! 無! 去! 闇! 有! 現! 末! そして死! 生きる事って、オーケストラそのものなんだっ! むきききー!」



 ヒロシはそのまま、外へと飛び出していこうとします。



マルぼん「いったいどこへ」



ヒロシ「すんばらしいところさ!」



 しばらく後、ヒロシは象の着ぐるみだのひげ面のおっさんのお面だのをつけて駅前で踊り狂ってる集団に混じって、ビラを配っていました。ルナちゃんも一緒で、死んだ魚のような目をしていましたが、なんだか幸せそうでした。



 マルぼんは、常人には理解できない、狂人の書いた本の内容までも瞬時に理解できるようにする『積読本棚』の効果は絶大だと思いました。

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