責任は堪忍の巻

 ヒロシとマルぼんが帰宅すると、みんな死んでいました。妻も、子も、父も、兄弟姉妹も、祖父母(母方・父方両方とも)、伯父とか叔母とか従兄弟とかの親戚一同も、ペットも、家中でうつけと評判だったヒロシをいつもかばってくれた平手政秀も、みんな死んでいました。死因は、驚くことなかれ。みんな他殺!!



「ちくしょう! どこのどいつが僕の家族を、一族郎党を死滅させたんだ!! 絶対に犯人をみつけだしてやる。復讐だ! 報復だ! 頼むぜマルぼん!」



「『犯人発見器』によると、犯人は和製チカチーロだと評判のシリアル田キラ五郎というやつのようだ。現在の居場所は……つい先ほど逮捕されたって!」



「ならよかった!」



 それから時は流れ。



 口にするのも憚られる鬼畜の所業で「和製チカチーロ」ことシリアル田キラ五郎の裁判が本日結審。まもなく判決が発表されることとなった。


 

 発表の場となる裁判所の前にはマスコミや野次馬のほか、「シリアル田を死刑に」と望む死刑賛成派の人々、「シリアル田さんを守れ」と望む死刑反対派の人々が大勢集まっていた。ほどなく発表された判決結果は「死刑」。



 死刑賛成派は狂喜乱舞。反対派は大声で「不当判決だ」怒鳴り散らす。そんな一同に裁判所の職員が言った。「みなさんは事件の当事者や関係者でもないのに、無責任に『殺せ』だの『守れ』だのと言いすぎです。この度、法律が変わったんです。全ての国民は自分の発言に責任を持たなくてはいけなくなったんです。死刑賛成派の皆さん、これをお持ちください」



 賛成派は手渡されたのは多種多様な武器。



「今からシリアル田をここに連れてきます。賛成派の皆さんが死刑を執行してください。自分の言葉に責任をもって、死刑を執行してください」


 

 憎くて憎くてしょうがないシリアル田を前にしても、賛成派はだれも動かなかった。動けなかった。



「期限は3日後。それまでにシリアル田を誰も殺せなかったら、刑の執行は3年間延期されてしまいますよ。それでも誰も執行しないんですか。いつもあれだけ殺せ殺せと言っているのに」



 その様子を見て反対派は大喜びだ。



「反対派の皆さんも他人事みたいに喜ばないでください。あなたたちも言葉に責任を持たないとダメなんですよ。今から3日間。賛成派の人たちによる執行から、シリアル田を守らなくてはいけないのです。なんでみんないやそうな顔を? いつもあれだけ守れ守れと言っているのに」



 静まり返る反対派であった。



 賛成派が刑を執行する様子はなかったが、このまま放置というわけにもいかない。とりあえず、死刑反対派の中心組織である「シリアル田キラ五郎くんを守る会」の発起人である某議員が、彼を自宅に連れ帰ることになった。あからさまに嫌な顔をしている某議員だったが、賛成派は誰も突っ込まないし、反対派は誰も糾弾しなかった。道中、シリアル田が某議員に話しかけるが



「先生、3日間よろしくお願いしますね」



「あ、ああ」



 気の乗らない返事であった。そんなこんなで2人は某議員宅に到着。出迎えた某議員一家は、シリアル田の同伴に驚きを隠せない。ニュースで何度も取り上げられたシリアルキラーが目の前に現れたのだから当たり前の話だ。そんな一家を、シリアル田はじっと見つめた。



「そちらは先生の御母堂ですか。ふふふ。いつまでも若々しいですね。こちらは奥様ですか。へへへ。お綺麗ですねえ。お嬢様にお坊ちゃまも。お二人とも整った顔をしておられる。ペットは猫のミーに犬のジョン、カブトムシのツノスケ? 動物でも美人さんはよくわかりますね。ひひひ。そこいらの野良とは顔つきがちがいやす。ツノスケのフォルムもたまんねえですね。ふへふへへへ。これは楽しい3日間になりそうですね。へへへへ」



 3日間が過ぎた。結局、賛成派がシリアル田の刑を執行しに来ることはなく、次の執行は3年後ということになり、彼は無事に収監された。その顔は妙に満足気であったという。



 3年後、再び執行の時が来た。執行役である賛成派の前に引きずり出されたシリアル田(獄中で結婚したため旧姓。現在の姓は大沼)は、賛成派に新しいメンバーがいることに気付いた。そしてその新メンバーが顔見知りということも。



「誰かと思えば先生ではないですか。その節はお世話になりました。実に楽しい3日間で、今でも夢にみるくらいです。そういえば、今はおひとりで暮らしておられるんですか?」



 シリアル田の質問には返事をせず、賛成派の新メンバーは、支給された武器として支給された金属バットを振り上げた。


 

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