髪SUMMER仏SUMMER

ヒロシ「最近ストレスがひどいの。胃が荒れてなにも食べることができないからこの通り体はガリガリだしだし、髪もほら。少し触っただけでこんなに抜けてしまうんだ」



マルぼん「それはひどい。君にストレスを感じさせてしまう全ての人間が悪いんだ。ほら、この道具を使うといい」


 

マルぼんは液体の入った霧吹きを取り出すと、その液体をヒロシの頭に吹きかけました。



ヒロシ「今、どんな道具を使ったのさ」



マルぼん「まぁ、見てな。えいっ」



 いきなりヒロシの髪を何本か引き抜くマルぼん。



ヒロシ「痛っ。いきなりなにをする!」



 怒りのあまりマルぼんに拳を振り上げるヒロシでしたが、その時、つけっぱなしにしていたラジオからニュースが。



ラジオ『A国で大規模な暴動が起こり、1万人くらい死んだみたいです。B国にあるC島が突如として海に沈み、島民の生存は絶望的……』



ヒロシ「おい、まさか」



マルぼん「今使ったのは、髪の毛の量と地球の人口がリンクする薬さ。キミの髪の毛が減れば、地球の人口も減る。髪の毛が完全になくなれば、地球人も完全にいなくなる。このことを広く周知すれば、人々はキミにストレスを感じさせないようにやさしくなることだろう。ふひ、ふひひひひひひひ」



ヒロシ「おバカ! なんてことするんだー!」 



 思わずマルぼんの頭部を叩いてしまうヒロシ。



ヒロシ「はやく薬の効果を消す道具をだな……」



 と、そのとき。



???「邪魔するぜ」



 いろんな人たちが、ヒロシを訪ねてきたみたいです。



担任「この前のテスト、おまえは85点だったぞ。オマエみたいなバカがこんなにいい点を取れるはずがない。カンニングしたんだろう、そうだろう! 靴を舐めて謝罪しろ! もしくは今すぐ全裸になって、素直に撮影されろ!」



ナウマン象「ヒロシィー! 新しい鞭を買ったから、これで俺を打て! 激しく! 時にせつなく! 打たないと言うのなら、死なす! 皮はいで死なす!」



金歯「ヒロシってまだ生身の体なんでおじゃるか? せいぜい80年くらいしか生きられないのに、なんで生身の体でおじゃるの? 朕みたいに機械の体に改造すれば、ずっと生きられるのに……あ、そうかぁ! ヒロシの家は朕の家みたく金持ちじゃなかったのでおじゃったなー(爆笑)これは失敬失敬」



ルナちゃん「ヒロシさぁん! 持つだけで幸せになる象牙の印鑑を50万円でお譲りするわ! 買うよね、買うよね!? 早く銀行へ行って、貯金おろしてこいや」



新しいパパさん「ヒロシ。顔がむかつく。なんだその顔は。このタバコの火を食らえ! 足のスネとか、目立たない場所にくらえ! 人に傷のことを聞かれたら黙っとけ!」



ママさん「これはしつけです。暴力じゃなくてしつけ!」



ヒロシ「ひぃぃぃ! 僕のストレスの主な原因である友人知人たちが、大挙して押しかけてきたー!」



 瞬時に貯まるストレス! 瞬く間に抜けていく髪! そして



担任「げばっ!」



 いきなり、血を吐いて倒れる担任!



ラジオ『いきなり死ぬ病気が世界各地で流行しております!』



新しいパパさん「うぐっ!」



 銃声が響いたかと思うと、額から血を出して倒れるパパさん! 部屋の窓から見える向いのビルの屋上には、ヒットマンの影。



ラジオ『世界ヒットマン連盟が、日頃のご愛顧に感謝して、無料無差別殺人を世界各地で行うと表明しました! あちこちで被害者がでております!』



ママさん「(パパさんの亡骸の下半身にすがりついて)あンたー! あンたー!」



金歯「ひぎぃ!」



 ギシギシミシミシと音が響いたかと思うと、いきなり爆発する金歯の機械の体!



ラジオ『最近お金持ちの間で流行している機械の体ですが、部品に不具合があって爆発する危険性が。ざまあみろ、金持ち!』



ヒロシ「死が! 死が広がっていく!」



 凄い勢いで減っていく地球人!



ナウマン象「金歯、しっかりしろ! 傷は浅いぞ」



金歯「今……朕ノ体カラナガレテイルノハ、血? ソレトモ、オイル? ワカラナイワカラナイ命トハナンダ…命トハ……イノ……<ピー機能が停止しました。至急、お客様サービスセンターに連絡してください。ピー機能が停止しました。至急、お客様サービスセンターに……〉」



ナウマン象「金歯ぁー!」



ルナちゃん「外をみて! 死体の山よ! キャー! 約束の書に記されしハルマゲドンみたいで、テンションあがるぅ!」



ヒロシ「えらいことになってきぞ!」



ルナちゃん「これも信心が足りないせいよ! さぁ、共に祈りませう。ウラウラベッカンコー!」



ヒロシ「このままじゃストレスがさらにたまって、さらに髪が……なんとかせねば、なんとかせねば。マルぼん! マルぼんはおらぬか!」



マルぼん「……」



ヒロシ「死んでる! さっき叩いた時に死なせちまったんだ!」



ナウマン象「どうするんだよ、ヒロシ(どうせ死ぬなら、最期に俺を抱きしめてよ!)」



ヒロシ「そうだ、髪が減って地球人が減るのなら、髪の毛が増えりゃ、地球人も増えるはずだ」



ルナちゃん「それならなんとかなるわ」



 お祈りを止めたルナちゃんが携帯電話どこぞへ連絡。しばらくすると、やせ細ったアヤシイ男がやってきました。



ルナちゃん「こちら、私の知人で、高名な行者の羅生門サンダー先生よ」



サンダー「今よりシャクティ・パッドを行います」



 サンダー先生はその両手に神秘な力を秘めており、その力を他者に注ぎ込むことで体調不良を治したりだとか、金持ちにしたりだとか、オスをメスに変えたりだとか、足裏を見ただけで病気になるかどうか判断したりだとか、選挙に出てみたりだとか、アニメ作ってみたりだとか、数々の奇跡を起こすことができるのだそうです。1回たったの30万円で。彼は本物よ! 本物ですわ!



ヒロシ「先生おねがいします」



サンダー「ウラウラベッカンコー!」



 奇声を上げるなり、サンダー先生の手が光って唸って、「髪の毛増えろ!」と轟き叫びはじめます。その光る手でヒロシの頭を軽く叩くと



ルナちゃん「生えた!」



 生えたではありませんか! ヒロシの頭部に! 毛が! 産毛なのですが、たしかに生えた!



ヒロシ「よし! これで人類は増えるはずだ!」



 ママさんやナウマン象のお腹が膨れます。



ナウマン象「これは……生命!?」



ママさん「ダーリンなの? これはダーリンの残した命なの?」



 次々と人類が増えていきます。



ヒロシ「やった! 読みがあたったぞ! (あれ、このままいったら、ルナちゃんの妊娠姿とか見られるんじゃないか?ハァハァ……)」



 しかしこの幸せも長くは続きませんでした。サンダー先生がシャクティ・パッドを止めてしまったのです。止めた瞬間、ヒロシの髪がまた抜けて……



ママさん「ぎにゃー!」



 またひとつ、命が星になりました。いや、正確にはふたつ。



ルナちゃん「先生! なぜお止めに……!」



ヒロシ「そうだそうだ! ルナちゃんが妊娠していないぞ。見たかったのに!」



 サンダー先生、膨らんだ自分のお腹を愛しそうになでながら言いました。



サンダー先生「シャクティ・パッドの神秘の力。その源は、己が命。今、私の命は私だけの者ではありませーん。もう、私は行者ではありません。1人の母親なのですー」



ルナちゃん「なんてことなの!」



ナウマン象「いつだってそうだ。生命はその温もりで、その優しさで、人を傷つけるんだ。

生命の温もりや優しさが人類を滅ぼすことだってありえるんだ……!」



サンダー先生「安心してくださーい。実はあたくし、今の仕事に就く前は植毛関係の仕事に就いていたのでーす。神秘の力ではなく、人類の英知の力で髪を増やしてみせまーす」



 どこからともなく植毛用の機材一式を持ち出したサンダー先生。植毛に使う人工毛を、手際よくヒロシの頭部に植えていきます。



サンダー先生「この特殊開発された人工毛は、ちょっとやそっとで抜けませぬ」



ヒロシ「なにはともあれ、これで髪が増えて日本の人口も増える。減ることもなくなるんだね。めでたしめでたしだ。二度と還らぬ命もあるけれど、まぁいいや! ドンマイドンマイ!」



ルナちゃん「……」



ヒロシ「どうしたの、ルナちゃん。浮かない顔をして」



ルナちゃん「気になることがあるの。さっき神秘の力でヒロシさんに髪が生えたときは、老若男女問わず妊娠する形で人類が増えたわよね。でも今は、内から髪を生やすのではなく、外から人工毛を植えるという形で髪を増やしているわ。この場合はどういう形で人口が増えるのかしら」



ヒロシ「んー。内から髪を生やした時は妊娠だから……ようするに内から増えたわけだ。外から髪を植えた場合は…場合は……外から増える、とか」



ルナちゃん「あ、「空を見て! なぞの円盤群が! すごい数よ!」



ナウマン象「ビームとか放ってきた!」



ヒロシ「んぎゃー!!」



 爆音。悲鳴。地獄。吹っ飛ばされる一同。薄れていく意識の中、ヒロシは着陸した円盤から珍妙な生物たちが降りてくるのを見ました。



珍妙な生物「いい星じゃないの。気に入った。残っている害虫どもを駆除して、さっさと同胞たちを呼ぼうや」



ヒロシ「連中、地球に、住むつもりかよ。あ、新しい、ち、地球人……!」



 きっと新地球人たちは、あっという間にヒロシたち地球の先住民を駆逐して、あたらしい文化を築き、1億年前からそうであったかのように命を明日へと繋いでいくことでしょう。めでたしめでたし。輝け地球。僕の星よ。永遠に輝け。完。

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