弁慶

 ある町の橋に弁慶が現れた。弁慶は橋を渡ろうとする者の邪魔をするのだが、渡ろうとする者が武器を持っていたら、その武器が消えてしまうのだからたまらない。



 イキった中学生が木刀片手に近づくと、木刀が消えてしまった。



 勇敢な警察官が近づくと、拳銃が消えてしまった。



 無法者が車で引き殺してやろうとすると、車は消えてしまった。



 某国が誤射してしまったミサイルも、弁慶に着弾しようとした瞬間に消えてしまった。



 誰もが弁慶を恐れて近づかなくなった時、ひとりの世捨て人が橋を渡ろうとした。



「俺にはなにもない。家もなければ金もない。なにも怖くない。弁慶だろうがなんだろうが、怖くもなんともない」



 そう言う世捨て人に、弁慶はどこからともなくアタッシュケース取り出すと、世捨て人に手渡した。中身はざっと1億円近くの現金だった。世捨て人の「なにもない」という武器は消えてしまった。



 それを見ていたある女が「自分ならもっと稼げる」と、橋を渡って弁慶に近づいた。女は背負っていた我が子が強調しつつ言った。



「私たちにはなにもない。家もなければ金もない。なにも怖くない。弁慶だろうがなんだろうが、怖くもなんともない」



 女が背負っていた我が子は消えてしまった。

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