実印夢物語

ヒロシ「あー誰か借金の連帯保証人になってくれないかな。この借用書の『連帯保証人』の欄に判を押してくれるだけでいいんだけど」



マルぼん「『衝動判子』。この判子を持てば、とにかく判子を押したくなる。なんでもいいからとにかく押したくなる」



ヒロシ「そいつを金持ちの金歯に持たせて、連帯保証人の欄に実印を押させよう。そして金を持って羽ばたくんだ。明るい未来へ!」



 そんなわけで、金歯に判子を押させて借金を金歯に押し付けて逃亡するべく、ヤツの家へと向うマルぼんとヒロシ。応接室に案内されて



ヒロシ「持つと運がひらける素敵な象牙の判子だよ。是非とも持ちなよ、金歯くん」



 もちろん、嘘です。なんとか金歯に『衝動判子』を持たせようと、ヒロシが口走った大嘘です。



金歯「ふん。断る」



ヒロシ「なんでだよう、持てよう。持てってくれよう」



金歯「やめろでおじゃる」


 

 金歯に『衝動判子』を持たせようと近づくヒロシ。嫌がる金歯。2人はもみ合いになりました。



金歯「やめろ!」



 金歯、勢いあまってヒロシを突き飛ばしました。吹っ飛んでイスの角に頭をぶつけるヒロシ。床に倒れて、動かなくなりました。やがて、頭部からジワーと血が流れ出し、部屋の絨毯を汚します。



金歯「……」



マルぼん「……」



偶然その場に居合わせたナウマン象「……」



たまたまそこにいたルナちゃん「……」



通りすがりの大脳「……」



金歯の執事であるセバスチャン「……」



メイドの花絵「……」



コックの洋平「……」



偶然忍びこんでいたコソ泥「……」



金歯専属のアイドルユニット『喜ばせ組』所属のアイドル「……」



資本主義の豚に天誅を喰らわすべく金歯邸に忍び込んでいた闘士「……」



金歯に金を無心しようと玄関先で切腹するフリをしようとしていた食い詰め浪人「……」



実は金歯のストーカーで、彼の全てを把握するためソファーの下に忍び込んでいたママさん「……」



金歯に無残にも殺害され、その恨みを晴らすために出現した老人のさまよえる魂「……」





金歯「……ヒロシは勝手に転んで、勝手に頭をぶつけて、勝手に死んだ。一同の者、そうでおじゃるな?」



 札束を見せつけながら、マルぼんたちに確認する金歯。



 その後、現場に居合わせた連中は皆、この事故について警察に聞かれた際に「ヒロシは勝手に転びました」とまるで同じ証言をしました。何度聞かれても、同じ証言を繰り返したといいます。まるで判で押したように、同じ証言を。

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