パパは漫画家
ヒロシ「マルぼん、こちらクラスメイトの針野むしろさん」
むしろ「こんにちは。針野むしろです。マルぼんさんの話は、ヒロシさんから聞いています。『とんだ厄介者を抱え込んじまったもんだ!』とか、そういう話」
マルぼん「あ、はい」
ヒロシ「むしろさんのお父さんは漫画家なんだ。おもに『ある日、さえないボクのところに幼馴染の女の子が…』『ある日、さえないボクのところに双子の美少女が…』『ある日、さえないボクのところに許婚の美少女が…』『ある日、さえないボクのところに血の繋がらない妹が…』『ある日、さえないボクのところに血の繋がらない姉が…』『ある日、さえないボクのところにメガネっ娘で有名なクラスのいいんちょが…』『ある日、さえないボクのところにメイドさんが…』『ある日、さえないボクのところに女サンタが…』『とりあえず、登場する女の子は全部ボクに惚れている』といった青少年の心をつかんで拘束するような内容の漫画を描いておられる」
むしろ「実はマルぼんさんにお願いがあるんです。父のことなんですか…」
マルぼん「そんな漫画ばかり描く親、いやだよね。わかるーわかるー。はい、証拠が残らない薬」
むしろ「いや、そうじゃなくて」
マルぼん「はい、発見されない場所を記した地図」
むしろ「いや、そうじゃなくて」
マルぼん「はい、賠償金を請求されなくなる薬」
むしろ「いや、そうじゃなくて」
マルぼん「ネタが、ない?」
むしろ「そうなんです。父は最近スランプ気味で…『ネタがない! ネタがない!』と叫びながら原稿用紙をモシャモシャ食べ、インクをグビグビ飲むくらい精神的にヤバめなんです」
マルぼん「ネタって『さえないボク』のところにくる美少女を考えればいいだけじゃないの?」
むしろ「それだけじゃ駄目なんです。父は『ポスト手塚治虫は俺』とか本気で思い込んでいて。『二代目手塚治虫』『手塚治虫(再生)』みたいな名前に改名しようとして揉めて、色々なところにそれにふさわしいネタを求めているんですよ」
ヒロシ「頼むよ、マルぼん。むしろちゃんの願いを聞いてやってよ。むしろちゃんはメガネを外すと美少女なんだ!」
ヒロシの恋路をかなえてやるのもいいかと思い、マルぼんは機密道具をだしてやることにしました。
マルぼん「『ネ探知機』。そこらじゅうに散らばっているネタになることを探知し、その現場まで案内してくれる機密道具さ。こいつでネタを探せばいい」
むしろ「これでネタを探しましょう!!」
『ネ探知機』を持って、2人は外へと飛び出していきました。
ヒロシ「探知機が反応している。裏山のほうからだ。裏山にネタになりそなものがあるんだ」
むしろ「行きましょう!」
ヒロシ「到着したぞ。あ、誰かいるぞ」
むしろ「あれはルナちゃんね」
ヒロシ「ルナちゃんのほかにも、なんか白装束の人たちがいるね。穴掘っている…」
むしろ「その穴になんか埋めてるね。あれって…」
ルナちゃん「見られた…!!」
白装束A「見られた…」
白装束B「見られた…」
白装束C「見られた…」
2人「!!」
その頃。
マルぼん「あ。『ネ探知機』の詳しい設定を説明してねえや。ネタの種類を設定する機能があるんだ。『ギャグ漫画』と設定すれば、ギャグ漫画用のネタを探知する。たしか今の設定は……『グロ漫画』だったかな」
ルナちゃん「見られた…!!」
白装束A「見られた…」
白装束B「見られた…」
白装束C「見られた…」
ヒロシとむしろに迫りくるルナちゃん+白装束集団。蛇に睨まれたカエル状態の2人は、逃げるに逃げられません。
ルナちゃん「見られた。見られたからには」
胸元からなにかを取り出すルナちゃん。武器かと思いきや、封筒でした。なかには…札束!
ルナちゃん「埋めて一年たてば、生き返るんです。きっと生き返るんです。だから、どうかこれで」
懇願するルナちゃんたち。
ルナちゃん「だから言わないでください。これで…このお金でご内密に…どうぞご内密に…」
ヒロシ「……」
むしろ「……」
ヒロシ「…ネタ探しって」
むしろ「…儲かるのね」
黙る2人。白装束集団が去ったあとも2人は立ち尽くしたままでしたが、『ネ探知機』がネタ発見の合図をだし、我に返りました。
ヒロシ「駅の裏のラブホテルの方から反応がでているね」
むしろ「…行きましょう」
実際にあったという、小学生のカップルによる連続恐喝事件を描いた実録漫画『たかりくんとゆすりちゃん』が『実話パラスアテネ』という雑誌で連載されたのは、翌年のことでした。
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