第5話 ルナちゃんはやってない。潔白だ
マルぼん、失踪。昨晩「知人に会う。朝までには戻る」と言い残して家を出て以来、行方はようとして知れず。わりと本気で「まぁいいか。そない絆ができていたわけでもなし」と思っていた僕は、とくになにするでもなかったのですが、チンピラ風子孫が血相を変えてとんできたのです。
「政府の肝いり事業で派遣されたのがマルぼんなの! だから、傷つけたり死なせたりたらやばいの! お金取られるの! お金がなかったら臓器とかもとられるの! 臓器をとられすぎると、人生打ち切りなの! Do you understand?」
こうして、子孫の角膜等をまもるべく、僕は動き出したのでした。
「行方不明者捜索といえばあの人を頼らざるをえまい」
僕が連絡をとったのは、前回非業の死をとげたものの一命をとりとめた、クラスメイトのFBI超能力捜査官ちゃん。その超能力で警察に捜査協力をすることもある彼女ならば、ベビーシッター先で赤子の手をひねって児童相談所に通報されるくらい簡単にマルぼんを見つけ出すことができるでしょう。
ここで、「嘘くせー! 超能力なんてほんとにあるのかよ! なんかないなんかないねお母さん!」と疑ってしまう夢を忘れてしまった古い地球人のみなさんに、
あるエピソードを紹介したいと思います。
今から30年前。アメリカのアーカンソー州で本当にあった出来事です。5歳になるメアリーは、母親が作ったチェリーパイを近所に住む祖父母のところへ持っていくと言い出しました。
『メアリー。あなたの気持ちは素晴らしいものだと思うけれど、危ないわ。あと少ししたらディナーの準備が終わるからママと一緒に行きましょう』
『わかったわ、ママ』
ひとまず母と約束したメアリーだったが、彼女の冒険心は簡単におさまるものではなかったのである。母の目を盗み、チェリーパイをもって出て行ってしまったのだ。そして姿を消した。
メアリーの母『メアリーの姿が見えなくなったことに気付くと、私はすぐに警察に電話をしました』
警察官『メアリーの失踪の連絡を受けた時、私はマズイと思いました。この町には大きな貯水池があり、この池で溺れる人が後を絶たなかったからです。この貯水池はメアリーの家と彼女の祖父母の家のちょうど真ん中あたりにあり、私はメアリーも溺れてしまったのだと直感したのです』
警察や消防、地域の住民など500人近くがメアリーの捜索に参加し、貯水池もダイバーが潜るなどしたがメアリーは発見されなかった。
メアリーの母『泣いて暮らす私を見て、友人がある人を紹介してくれたのです』
その紹介された人というのが、後のFBI超能力捜査官ちゃんこと、ナンシーだったのです。
メアリーの家を訪れた後のFBI超能力捜査官ちゃんは、メアリーの可愛がっていた牡蠣のぬいぐるみを手に取った。彼女は、対象の人物の思い入れがあるモノにふれることにより、持ち主の記憶にリンクすることができるのだ。
FBI超能力捜査官ちゃんの能力により、メアリーは剣と魔法の異世界に勇者として召喚されていることが判明。メアリーの母は剣と魔法の異世界を相手取り裁判をおこし、無事にメアリーを取り戻すことに成功したのだった。(剣と魔法の異世界は魔王によって滅ぼされました)
メアリー『もう勇者はこりごりだわ』
まぁ、こんな感じで、FBI超能力捜査官ちゃんはその能力で様々な事件を解決しておるのです。わりと著名なFBI超能力捜査官ちゃんですが、僕が事情を話すと、多忙にもかかわらず通訳の藤澤さんと一緒にすぐにやってきてくれました。
「Hello Hiroshi Onuma(こんにちは、大沼ヒロシさん)」
「FBI超能力捜査官ちゃん。お会いできて光栄です」
挨拶もそこそこに、僕はマルぼんの私物をFBI超能力捜査官ちゃんに手渡しました。和装した妙齢の女性と小さな子供二人が映った古い写真です。その写真に触りながら、なにやらぶつぶつとつぶやきます。
そして数十分後。ハラハラと涙を流しながら、FBI超能力捜査官ちゃんが口にしたマルぼんの行方は
「Unfortunately Marubon is dead(残念ながらマルぼんは死んでいます)」
「なんですって」
と、その時。部屋にお茶を運んできた母が、言いました。
「え? マルぼんならさっき駅前で踊っているのを見たわよ」
早速駅前に行くと、たしかにマルぼんがいました。象の帽子を被って、なんか人名を連呼しながら踊り狂っていました。
「マルぼんはいったいなにをしているの」
「ヒロシ! 愚かな君はわからないだろうが、世界はもうすぐ滅びる。具体的に言うと来年の今頃。すべての命は星になるんだ!」
「はあ」
「でも魂だけは救われる。永遠の存在になるんだ。でも条件がある。魂のなかにたまりにたまった穢れを浄化する必要があるんだ! そのためには、偉大なる指導者・我らが尊師ギュルペペ様に、穢れの結晶である金をささげる必要があるのだ!」
「誰に感化されたのさ」
「あたしよ。あたしがためになるセミナーにマルちゃんを誘ったの。そして彼は生まれ変わったの」
と言って現れたのは、クラスメイトのルナちゃんでした。
「あ! ルナちゃん。あの子の親父がカルト宗教で飯を食ってるって噂は本当だったのか」
「さぁ、マルちゃん。うちのパパを今度の選挙で確実に当選させる道具をだすのよ! そしたら、新しいホーリーネームを授けてあげるわ!」
「ありがたき幸せ」
「なぁ、マルぼん。こんなことしてないで帰ろうや」
「黙れヒロシ。来年の今頃までに、少しでも多くの魂を救うべく、マルぼんは活動せねばならぬのだ」
「来年滅ぶって、マルぼんが未来の世界から来たんだろ」
「あ、そういえば。やっべー! あと少しで出家するところだったわー!! ありがとヒロシ!」
「ははは。どじなマルぼん」
こうして、子孫の角膜等は守られたのでした。しかしその代償に、ルナちゃんのカルトで発行している新聞の一面で、僕は毎日のようにディスられるようになったのでした。とほほ。
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