第4話 金持ち野郎の牙を折れ

 近所の空き地。それは放課後の社交場。とある放課後、僕がクラスメイトのツトムくんやルナちゃん、ヤスシくんやFBI超能力捜査官ちゃんたちと遊んでいたると、執事のじいさんを連れて、町一番の金持ちの息子・金歯が現れました。



「愚民ども。今日も生きることに必死そうでおじゃるな」



 暴言も暴言ですが、誰も逆らわないし、怒りもひた隠し。金歯の金持ちの度合いは話の都合により変わるのですが、今回は微笑町の大人の90パーセントが、金歯の親父が経営している会社かその関連企業に勤めているという設定なのです。うちの稼ぎ頭である母の新しい彼氏の田所さんも、金歯が将来祀られる予定の廟の建築作業に従事しています。逆らったらその仕事もクビでに違いありません。



「そんな愚民どもに朗報。実は、某有名海外シリアルキラーが獄中で描いたピエロの絵をゲットしたのでおじゃる!」



「え!? マジで!?」



「すげー!!」



 微笑町の少年少女の間では、今、海外のシリアルキラーが大人気。シリアルキラーカードのついたシリアルキラーチップスが飛ぶように売れ、歴史上のシリアルキラーを召喚して戦うスマホゲーが人気で、シリアルキラー女体化アニメや休日のたびにシリアルキラーの犯行現場へ行く女子たちのゆるふわライフを描いた4コマ漫画「さいこぱっ!」も馬鹿売れしたり、若者が事故にあって気づいたら過去の世界のシリアルキラーに転生する現象がやたらと起こって社会問題と化したり、町内の新生児に就けられた名前の男性部門の一位が「チカチーロ」だったりと、だいたいそんな状況ですから、某有名海外シリアルキラーが獄中で描いたピエロの絵なんてそりゃもう、子供たちとってはやべー存在です。やべー存在。



「今から特別にうぬらに絵を公開してやるでおじゃるが、一同のもの、どうするでおじゃる」



「あたし行くー」



「それがしもー!!」



「このナウマン象も!」



「僕も!」



 金歯の誘いに、我も我もと手をあげる一同に混じる僕でしたが



「わるいな。ヒロシが見たら絵が腐るので遠慮してくれでおじゃる」



「ムキー!!」



 金歯は定番のいやがらせを繰り出してくるのでした。



「大沼のぼっちゃん。ここの機密道具の出番のようですな。放課後仕返しタイムの始まりですな」



「あ、マルぼん。仕返しはいいよ」



「え、どうして」



「金歯をみてくれよ。異様にやつれているだろ」



「言われてみたら。前に見かけた時は異様に太っていたけれど、今はなんかこう、インドの聖人のような感じに」



「マルぼんが来る前だけど、金歯はもっと太っていたんだ。太りすぎて部屋か出られなくなり、

レスキュー隊に救出される様子が海外のテレビで紹介されたくらい。それがなぜあそこまでやせたのか。それが気になって、いじわるされてもなにも感じない。無。無。無」



「よろしい。ならば金歯激やせの謎を解く機密道具をだしましょう」



 僕とマルぼんによる金歯激やせの謎を追う冒険がはじまったのと、絹を裂くような少女の悲鳴がしたのはほとんど同時だった。



「なんや変態のご登場か!? 」



「ちがう! クラスメイトのFBI超能力捜査官ちゃんが倒れたんだ! 彼女は強い超能力を持ち、時にはインターポールの要請で犯罪捜査に協力したりしている。その能力の反面、強い霊気や恨み、憎しみの影響を受けやすく、それが近くにあると突如として意識を失うんだ! 鼻血もだす! FBI超能力捜査官ちゃん、しっかりしろい!」



「れ、霊が。恐ろしい憎しみをもった霊が近くにいる……具体的には、金歯くんの近くに……。とりついた相手をやつれさせるくらい強力な邪気をまともに浴びたから、、あたいはもうダメ。くやしいけれど、もうダメ。ヒロさん。この微笑町には、お金で恨みを晴らしてくれる人たちが、いると聞いたことがあります。ここに、今月のお小遣いがあるの。これで、その人たちをさがしだして、どうかこの恨みを……恨みを。ぐふっ」



「FBI超能力捜査官ちゃーん!!」



 だいたいの謎を解き明かして、FBI超能力捜査官ちゃんは物語から退場したのでした。金ではらせぬ恨みを晴らしてくれる人にこころあたりはないので、託されたお金はポッケナイナイしちゃいまいた。



「さて、真相はわかったけれど、どうします。仕返しする?」



「うーん。ここで仕返しを選択しちゃう性根が、将来的にとんでもないことをしでかすことに繋がる気がするんだよな。ここはまっとうな人間になるため、金歯を助けてあげよう。うまくいけば、田所さんの待遇もよくなるかもしれない。ピエロの絵もみせてくれるかもしれない」



 とりあえず金歯のおかれた事態を説明しようと、金歯の横にいる執事に声をかけました。



「信じられないかもしれませんが、あなたの雇用主は、なんらかな悪質な霊にとりつかれています。著名な霊能力者を雇うなりしてなんとかしたほうがよろしいでしょう」



「おい、ヒロシ。なんで誰もいないところに話をしているのでおじゃる」



「誰もいないって、僕は君のところの執事に声をかけているんだよ」



「朕は執事なんて連れていないでおじゃる」



「なんだって」



「話がつかめてきたぞ。金歯に仇なしているのは、我々が執事と思っていたあのじいさんだ!」



「そういえば、すごい妖気だ!」



「いったい全体なにを言っているでおじゃる」



 どうやら霊感のない金歯は、自分に取りつく「あだなすもの」に気付いていない様子。



「よし! ここはマルぼんに任せて。霊感がない人にも霊が見えるようになる機密道具を用意しましょう」



「いや、その必要はない。ハァァァァァァァァァァァァ!」



 その昔、母の付き合っていた相手が、すべての命あるものに憎悪を抱きながら命を落とし、

魂が世界すべてに不幸をもたらす存在となったことがありました。その騒動の際に必要に迫られ、霊を実体化させる術を学んでいた僕は、執事霊を実体化させることなどお茶の子さいさいだったのです。



「道具使わせてくださいよ」



 悲痛なマルぼんの声も、実体化した執事霊を見た金歯の悲鳴でかき消されました。



「お、おまえは、あの時の、あの時のストロベリー族の……!」



ストロベリー族。その名前には聞き覚えがありました。

たしか微笑町の先住民族で、町はずれに集落を作っていたものの、流行り病で数年前に全滅したはず。



「朕を呪っていたのか! ストロベリー族を滅ぼした朕を、呪うておるか!」



 数年前、ひょんなことからストロベリー族を滅ぼしていた金歯。とりついていた執事霊は、

ストロベリー族の長老で、死の間際に「一生呪うで」と言い残しており、どうやらそれを有言実行していたことが判明。



 その後、僕の知人である僧侶三千人の力を借りて数週間にわたる祈祷を行い、ストロベリー族長老の霊をなんとか成仏させることに成功したのでした。



「ふう。なんか最後に『おのれ人間どもめぇぇぇぇぇぇぇ』とか叫びながら成仏していたけれど、これで大丈夫だろういちおう」



「ヒロシ、今日のところは感謝するでおじゃる」



「じゃあ、ピエロの絵、僕にもみせてくれよ」



「それは無理でおじゃる」



「ギャフン!」



 ほんとうに金歯はイヤミな男なのです。

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