第3話 ガキ大将始末
海外で起こったサイコパスによる陰惨な事件についてのウィキペディアを読みふけっていると、マルぼんが慌てた様子で部屋に飛び込んできました。
「おい、大沼のぼっちゃん。なんか家の塀に誹謗中傷が書かれているぜ。根も葉もないことを書いた中傷ビラも撒かれている。さらにさらに、ネットには『色情狂の棲む家』というコメント付きでうちの家の写真がアップされている!」
「それはガキ大将のナウマン象(あだ名)の仕業だね。いじめの一環なんだ。ターゲットにされているんだよ。僕」
「えらく陰湿なガキ大将だな。まぁ、いいや。仕返しするんだろ。力をかすぜ。機密道具の力でな!」
「反応したら相手がおもしろがるだけだから、無視する」
「そんなこといわずにしましょうよ。仕返し。スカッとするし、ドーパミンもいっぱい出てハイになって気持ちいいですよ、きっと。絶頂ですよ、きっと。やりましょうよ。ガキ大将への報復は、私らの仕事の花形なんですよ。憧れなんですよ。やりましょうよ。あ、なにかお望みの仕返し方法あります? その通りの仕返ししてさしあげますから」
「マルぼんがそこまで言うなら仕方ない。じゃあ、国籍を奪い取る道具を出してよ。それでナウマン象を不法滞在の外国人にして、どこかよくわからない国に強制退去させるんだ。知っている人もいなければまるで言葉も通じぬ異国の空の下で、孤独な人生を送らせるんだ。その人生の中で、後悔と人は自分ひとりがいられるスペースさえあれば生きていけるということをおもい知らせるんだ。今わの際の言葉が『ヒロシくんごめんなさい』になるように追い詰める。仕返しこれでいこう。それか本人じゃなくて家族に危害与えるか」
「自分で提案しといてアレなんですけれども、仕返しの範疇で収まるやつを……人生を台無しにしない程度のやつでお願いします、はい」
マルぼんがヒヨったので、僕はナウマン象のプライバシーをちょっと暴いて辱めを与える程度の、小鳥のように愛らしい仕返しを提案したのでした。
「大沼のぼっちゃんの望みが叶えられそうな機密道具があります! 『プライ箸』。この箸を使ってなにかを食べた人は、隠したい事実が次々と白昼のもとにさらされるのです」
「おおっ!」
神の奇跡か仏の慈悲か。ちょうど、ナウマン象の為に毎日弁当を作らされるといういじめを受けていた僕は、怪しまれずに『プライ箸』を使わせることができる立場にあったのです。
そんなわけで翌日。学校。給食を終えた僕は、いつものようにナウマン象の待つ体育館裏へ弁当を持っていきました。もちろん、弁当に添えた「プライ箸」も。
「遅いぞ、ヒロシ。てめー。ネット上に誹謗中傷を書かれてえのか! まぁいい、早く弁当をよこせ。前みたいに冷凍食品を使っていないだろうな! きちんとすべて手作りだろうな! 食べる人のことを考えて作っているだろうな! 愛は込めているだろうな! 作っている時に俺以外の誰かを想っていないだろうな! よし、それならいい。いただきます!!」
喰らいよる。喰らいよる。この後プライバシーを暴かれるとも知らず、ばくばくと弁当を喰らいよる。はてさて。どんなプライバシーが暴かれるのか。性癖とかかな。お金になるかな。
そんなことを考えていると、見慣れない女性が現れました。幼子二人を連れて
「な、なんでここに」
女性たちをみるなり顔が青ざめるナウマン象。
「やはりここにいたのね」
「失礼ですがどちら様ですか。ナウマン象の親戚のかた?」
「私はナウマン象の妻です」
「Wife!?」
「この子たちは、ナウマン象と私の息子と娘です」
「son!? daughter!?」
「ナウマン象はこの小学校の生徒ではなく、今年で38歳になる成人男性です」
「38 years old!?」
ナウマン象は、先月職を失った中年男性でした。自暴自棄になり、恨みを持つ元担任教師に復讐しようと子供の頃通っていた小学校に侵入したところ、異常な童顔だったことから生徒と勘違いされ、かねてから小学生に興味があったこともあり、ニセ生徒・ニセガキ大将として振る舞っていたそうです。
「ナウマン象は、先月くらいに急に学校に出現したからおかしいと思っていたけど、そういうわけだったのか」
「俺……俺……あの頃を取り戻したかったんや。楽しかった少年時代を」
「あなた。やり直しましょう。家族をもう一度やり直しましょう」
しばらくすると国家権力到着。ナウマン象は連行されていきました。こうして陰惨ないじめ事件は解決。しかし、今回のようにいじめっ子だって不幸になるのがいじめ。いじめはやめましょう。だってかっこ悪いもの。
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