46.○離れる心
怜とはもう、会えないかもしれない。
けれど、それは永遠の別れじゃなくて。
もしかしたら、どこかでまた会えるかもしれないから。
いつか会うその時までの、束の間のさよならだから、もう泣かないと決めた。
抱きしめられたあの時の温もり、彼の涙は、絶対に忘れない。
二人で誓った約束は、互いにいつか叶えられると信じて。
早く帰ってやれ、と怜に背中を押されていつもより早く帰宅した。
しかし、ハルアキは怒っているのか、話しかけても返事さえ返してくれない。
「悪い、まだ引っ越しの準備に手間取ってて。明日には出て行くから」
「ねぇハルアキ、話があるんだけど」
「何?」
と言いつつも、全く耳を貸そうともしない。
彼は平然とクローゼットの中を片付け続ける。
元々彼のアパートに私が転がり込んできたのだから私が出て行くのが筋だけれど、どこまでも優しい彼は「俺が出て行く」と一方的に言って聞かなかった。
「ハルアキお願い。少しで良いの。話を聞いて」
少し、で何か伝えきれるわけじゃないけれど、心が大きく離れてしまう前に、せめてひとつだけでも。
「もう、話す事なんて無いだろ」
無表情のまま冷たく言うハルアキは、完全に心を閉ざしてしまう。
ペアで揃えた小物を淡々と一つずつにしていく彼。
散々傷つけてきたのだから、当たり前のことと、そう自分に言い聞かせるしかなかった。
「ねぇハルアキ」
「何だよ、怜にフラレたか?俺にしとけとでも言われたのか?」
「え?」
違うけど全く間違っているわけでもない。彼は戸惑っている私を見ようともしない。
「あいつがダメだったから…やっぱり俺か?」
「そういうわけじゃ……お願い、出ていかないで」
「わかったよ」
彼は大きなため息の後、そう言って肩越しに振り返った。
けれどいつもの、あの笑顔はない。
「……じゃぁ、お前が出て行け」
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