41.◇蘇る傷
「バカバカ、ハルアキのバカッ!」
抱きしめた腕の中で、涙華はこれでもかというくらいの暴言で俺をなじって、握りしめた拳を胸板に叩きつけてくる。
「どうして怜をマンションまで乗せて行かなかったの?ちゃんと送ってくれてたら、こんなことにならなかったのに!」
痛みなど、感じなかった。
心の方がずっと、締め付けられて苦しい。
「もし、そんなの嫌だけど、でももし、怜に何かあったら…」
「ごめん」
そんな言葉しか出てこなかった。
そう思って出たものではないけれど、他には何も浮かばなかったから。
涙華の気が済むまで、しばらくそうしていた。
消毒の、独特な匂い。
白い廊下と、白衣。
包帯に、血液。
吐き気がしてくる程の清潔感。
看護師の優しさに溢れた笑顔。
ここで生まれ来る命もあるというのに、彼女にとっては死のイメージしかない冷たくて閉ざされた世界。
「全部、ハルアキが悪いのよ!」
吐き捨ててそれっきり口を噤んだかと思えば、涙華は「ごめん」と掠れた声を漏らし、散々叩いた俺の胸に頭を預けてくる。
そっと髪に触れ撫でてやると、彼女は思い出したように声を上げて泣き出した。
「涙華…泣くな」
手術中の明かりが消えるまでの時間を、ふたりきりでずっとそうしていた。
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