39.○胸の痛み
――涙華!
「誰?」
私を呼ぶ、あの声が聞こえる。
龍那?
なぜか苦しくて、哀しくて。
上がる息を抑えながら、さっきまで見ていた夢を反芻する。
龍那がいて、私がいてハルアキがいて。
こうなることなんて全く考えていなかった頃の懐かしい夢。
最近は、あの夢ばかりを見るようになった。
何度も何度も。
あの頃は、3人一緒なら怖いものなど何もなかったから。
でも、もう戻れないとわかっている。
自然と頬を伝い流れ落ちた涙はやがて、抑えきれなくなる。
ポトポトと数を増して。
どうしよ、止まらない。
私は、隣で眠っているハルアキを起こしてしまわないようにと、そっと身体を起こす。
夢とは大違いの現実に、私は毛布に顔を埋め、必死で嗚咽を抑えていた。
しばらくして、
「涙華?」
眠そうなハルアキの声。
もそもそと寝返りを打って、起き上がろうとするのがわかる。
私は、慌てて涙を拭う。
どうした、と涙の理由を聞かれるのが億劫で、
「のど、乾いちゃった」
精一杯明るく答えて立ち上がろうとした時、名前を呼ばれて、私は一瞬止まる。
ハルアキは、何も言えずにいた私の肩を、後ろから抱きしめてくれた。
優しく。
胸元の指輪を握りしめる私の手に、彼の温かい手が添えられる。
何も言わずに、そっと。
もう既に、新たに溢れてきた涙でいっぱいだった瞳。
不意に抱きしめられた衝撃で、堰を切ったように流れ出す。
いつもだったら、何も言ってくれないハルアキに不満さえ感じていたかもしれない。
けれど、今はそれがありがたかった。
私は、回された大きな腕をしっかりと掴む。
そこから感じられる温もりだけで、生きていける気がしたから。
「仕事で失敗した夢でも見たんだろ、可哀想に」
耳元で囁かれた言葉に、私は小さく頷いた。
「ありがと」
ハルアキの優しさに対する感謝と、後ろめたさからくる複雑な気持ちで、私はもう、どうしようもないくらい胸が痛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます