38.◇現実

 寝ているふりしか、できなかった。

 涙華の言葉が、俺の心を突き刺して切り刻む。

『私がハルアキのものになっても何とも思わないの?』

 彼女が怜に言った事の意味がわかってしまうから、余計に。

 知っていた。

 それでもいいから、と思っていたはずなのに、ショックで身体は動けずに。

 怜は龍那と似ていて鈍感だからわからないだろう、涙華の心など。

 わかったところで結ばれるふたりではないかもしれないけれど、改めて突きつけられると、現実はあまりにも辛い。

 夢なら覚めてくれと、そう願うしかなかった。

 俺には、傍にいてただ待つことしかできないから。

 幸せとはどんなことを言うのか、俺には正直わからない。

 あの頃は、龍那の傍で笑う涙華がいて、それを見て心温かくなる自分がいて。

 彼らとの他愛のない会話の後、ふとこれがそうなのではないかと、思ったりもしていた。

 このままずっと何も変わらずに3人で笑い合っていられたら、それが一番の願いだった。

 きっとこんなに幸せなことはないだろう、と。

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