32.○特別な存在
「ハルアキぃー」
「んー?何だぁ」
リビングのソファに蹲って声を上げると、キッチンからヒョコ、っと顔を出したハルアキ。
「寒い~」
「だから今お湯わかしてやってんだろ」
「ミルクティー。甘いやつね」
「わかってるよ」
怜と屋上で話したあの日の夜から、何だか身体の節々が痛むようで、ついに熱まで出てしまった。
ハルアキが買ってきてくれた市販の風邪薬で随分良くなってはいるけれど、まだ喉の痛みは良くならない。
「よし、できた」
はいよ、とテーブルにカップをふたつ置いて真向かいに座った彼。
「ありがと」
「ん~ウマイ。あれ?涙華飲まないの?」
「ちゃっかり自分の分も作ってるしー」
「いいだろぉ~世話してやってんだから」
「頼んでないし」
「あ~そうかよ」
のっそりとソファから起き上がって、彼が作ってくれたミルクティーをズズ~と音を立て飲むと、ゆっくりお腹の中からじんわりと暖まって、落ち着く。
「感謝してるけどさ…でも、」
このままではまたあの頃に逆戻りしてしまうから。もう、彼の優しさに甘えてはいけない。
「あーわかってる。もぉ帰るよ。俺これからデートだし~」
「へー。じゃぁ早く行ったら?」
「はいはい、じゃぁな」
ハルアキは、私が風邪をひいたと知って心配して駆けつけてきてくれたのに、追い出す形で彼を帰してしまった。
また、ひとりきりになった静かな部屋で、もう一つのカップから立ち上る湯気は、いつしか消えて。
私の心と共に、冷めていった。
ハルアキを愛していないくせに、きっと彼が他の誰かと幸せになることは許せない。
言葉にはしないけれど、胸がちくりと痛くて、良い気持ちにはなれない。
きっぱりと別れた今でも、淋しい時傍にいて欲しいと思ってしまう。
私だけの特別でいて欲しいと思う。
特別、なんて良く聞こえるけれど、言い換えればただの都合の良い存在を、傍に置いておきたいだけなのに。
もういない龍那を、この先もずっとあの人だけを愛していられたら。
こんな想いをせずに済んだのに。
すべては龍那が悪い。
最終的にはいつも、そこへたどり着く。
人のせいにして泣き続けていれば救われる気がして。
私はあの頃から何も変わっていない。
龍那のいない世界を2年も生きて、結局何も得ていない。
ただ、哀しみから逃れる術を探して……見つけて、消して。
その度に誰かを傷つけて、私は救われる。
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