12.☆後悔
どうしてこんなことになってしまったのか。
煉の代わりとはいえ、俺がついていながら沙奈瑚を守ってやれなかった。
どこにもやり場のない怒り。
涙華から電話があった時は、頭を強く殴られたかのような衝撃の後、手足がすぅ、と冷えていく感覚に囚われて、しばらくの間状況を把握できないでいた。
沙奈瑚が、倒れたなんて。
仕事を適当に切り上げてから、すぐに病院に急いだ。
何故、どうして、と考えても答えは出ずに、時間だけが過ぎていくばかり。
車を乗り捨てて慌ててロビーに駆け込むと、不安そうに辺りを見回している涙華の姿を見つけた。
俺自身が冷静でいられなかったせいで、なぜ彼女が連絡してきた上、ここにいるのかという疑問さえ、浮かんでこなかった。
むしろ見知った顔を見つけた安堵感が、心を僅かながら和らげる。
「沙奈瑚は?」
「え?…れ、怜、さん」
涙華はびく、と大きく身体を揺らして俺を見た。
そして怯えたように続ける。
「沙奈瑚さんは…今病室で休んでます。でも、倒れたのはただの貧血だったみたいなので、心配いらないって」
「そっか。よかった」
「あの、ごめんなさい。私、彼女のお店に遊びに行って、それで、顔色良くないな、って思ってたけど、でもまさか、倒れるなんて…そんなこと」
動揺を隠せずに、今にも泣き出してしまいそうな彼女。唇を小刻みに震わせながらも尚、「ごめんなさい」と繰り返す。
「大丈夫、落ち着け。ただの貧血なんだろ?…前にもあったから」
貧血で倒れたことは、以前にもあったことだった。
あの時もすぐに回復した。
だから大丈夫だという気持ちと、また同じ目に遭わせてしまった何もできない自分を悔やむ気持ちとが入り交じって、後者の方が俺をなじる。
「心配ない」
大丈夫、と繰り返しながら彼女を近くのイスに座らせ、俺もその隣に倒れ込むようにして腰掛ける。
一番マトモじゃないのは、俺自身だ。
「病室行ってあげて」
「あ、あぁ。…大丈夫か?」
「私は、大丈夫」
言葉とは裏腹に、瞳を震わせている涙華。その目には、哀しい記憶を映し出しているのだろうか。
「ここにいろ。すぐ、戻るから」
彼女が頷くのを待ってから、その場を離れ急いで沙奈瑚の元へ向かった。
彼女が静かに落とした涙は見なかったことにして。
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