4.◇偽りの生活

 涙華の大切なひとは、22歳で死んだ。

 そして俺と涙華は、彼の年齢を一つ追い越した。

 今年もまた、あの季節がやってくる。

 彼女にとって、辛くて長い長い冬が。

 いつの間に、こんなことになっていたのだろう。

 いつからこんな偽りばかりの生活が、楽に感じるようになってしまったのか。

「行ってきまーす」

 と、元気よく部屋を出たものの玄関の扉を閉めたとたん、肩の力が一気に抜けて、思わず漏れる溜め息。

 何かの呪縛から解かれるみたいに、緊張の糸が切れる。

「何やってんだろ、俺」

 本来ここにいるべき人間は、俺じゃない。

 そんな資格すらないのに。

 毎朝、目覚ましより少しだけ早く起きて、涙華の愛らしい寝顔を見つめる。

 顔にかかった髪をそっと払い除けてやりながら、輪郭をなぞるようにして、頬に触れる。

 まだ眠たそうに布団から出たがらない彼女と額を合わせて、愛してる、なんて言う資格があるのは…龍那だけなのに。

 彼女の気持ちが俺には向いていない事くらい、聞かなくてもわかっている。

 だから、聞けない。

 聞かない。

 俺なんかが龍那の代わりなどできるはずもないのに、バカみたいに、笑って。


 けれどいつかは、きっと。

 なんて。

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