4.◇偽りの生活
涙華の大切な
そして俺と涙華は、彼の年齢を一つ追い越した。
今年もまた、あの季節がやってくる。
彼女にとって、辛くて長い長い冬が。
いつの間に、こんなことになっていたのだろう。
いつからこんな偽りばかりの生活が、楽に感じるようになってしまったのか。
「行ってきまーす」
と、元気よく部屋を出たものの玄関の扉を閉めたとたん、肩の力が一気に抜けて、思わず漏れる溜め息。
何かの呪縛から解かれるみたいに、緊張の糸が切れる。
「何やってんだろ、俺」
本来ここにいるべき人間は、俺じゃない。
そんな資格すらないのに。
毎朝、目覚ましより少しだけ早く起きて、涙華の愛らしい寝顔を見つめる。
顔にかかった髪をそっと払い除けてやりながら、輪郭をなぞるようにして、頬に触れる。
まだ眠たそうに布団から出たがらない彼女と額を合わせて、愛してる、なんて言う資格があるのは…龍那だけなのに。
彼女の気持ちが俺には向いていない事くらい、聞かなくてもわかっている。
だから、聞けない。
聞かない。
俺なんかが龍那の代わりなどできるはずもないのに、バカみたいに、笑って。
けれどいつかは、きっと。
なんて。
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