第1話[歓迎会(訂正)]

 清行

「やっぱり、都会と違って気持ちいいなあ」

空気が爽やかで美味しいよ。

漏れってすっかり都会の人間になっちゃったんだなあ。

 清行

「さてと、家ってどの辺りだったかな。……ん?」

なんだろう、向こうの茂みがガサゴソ揺れてるけど……。

 ???

「ぐわおおぉっーーー!」

 清行

「うひゃぁぁぁ!?」

 ???

「ぶっ、……あっはっはっはっ。何しりもちついてんだよ、荷物まで放り投げちまって。ほら、拾ってやるよ」

そこから出てきたのは、黄色い縞模様の虎獣人だった。

 清行

「と……虎彦とらひこ?ひょっとして虎彦なの?」

 虎彦

「何だよ、びっくりしすぎて俺の事忘れちまったのか?」

 清行

「だって昔は虎彦あんなに小さかったじゃん、漏れの方が背が高かったのに……」

 虎彦

「ああ、何か中学入ってから伸びだしてよ。今じゃこんなになっちまったんだぜ」

背の高さで追い抜かれるって、何だか悔しい……。

 虎彦

「今日お前が来るって聞いてたから待ってたんだよ。折角だから脅かしてやろうと思ってよ」

 清行

「まさか漏れが来るまでずっとここに?」

 虎彦

「んなわけねえだろ。村の交通手段ったらバスしかねえし、朝昼夕、この3つしかこねえから大体の時間が分かんだよ。でも今日はバスが時間通りに来てくれてよかったぜ」

本当に相変わらずだなあ。

元気そうで何よりだよ。

 虎彦

「それにしても……」

 清行

「それにしても?」

 虎彦

「よく帰ってきたな、会いたかったぜこの野郎!!」

 清行

「ちょ、ちょっと虎彦。重いよ、苦し……」

漏れは、虎彦のフワフワの縞模様の手でがっしりと抱きしめられる。

昔はよく飛びかかれたりしたっけな。

あの頃は小さかったから可愛かったけど、こんなに大きく逞しくなった虎彦に抱きしめられたら……。漏れ……。苦しいってば!死んじゃうよ。

 清行

「ぷはっ、はぁはぁ……。虎彦、もうちょっと手加減してよ。あと少しで違う所に帰っちゃう所だったよ」

 虎彦

「すまんすまん、つい嬉しくってな。それより……。皆に清行が帰って来るって話したら雷門らいもんで歓迎会開こうぜ、つーことになったんだよ。おまえが急に帰るとか言い出すから、こっちは準備に苦労したぜこの野郎!」

そう言って虎彦は漏れにヘッドロックをきめると、げんこつを頭にぐりぐり押しつけた。

 清行

「いたたた、ちょ、やめて、帰ってこいって手紙出したの虎彦じゃん」

 虎彦

「くんのが早すぎなんだよ……嬉しかったけどな。まあ、とーぜん歓迎会には来るだろ?」

 清行

「歓迎会って本当!?嬉しいな。でもまずはおじいちゃんとおばあちゃんに挨拶しにいかないと。荷物も置いておきたいしね」

 虎彦

「そうか、分かったぜ。ぜってー来いよ。雷門の場所は分かんだろ、誰かみたいに遅刻すんなよ」

 清行

「うん、雷門だよね。多分大丈夫だと思う。あっ、携帯の番号とアドレス教えてよ。迷っても、連絡出来れば安心だし」

 虎彦

「あー、俺携帯待ってねえんだよ」

 清行

「じゃあ誰か持ってるひとは?」

 虎彦

「……誰も持ってねえんじゃねえか?っていうか、この村じゃどこ行っても圏外だと思うぞ」

 清行

「ええっ!?」

漏れは自分の携帯電話を取り出して確認した。電波のアンテナは消えていて、圏外の2文字が映っていた。

 虎彦

「こんなだから俺たちどころか、この村に居る奴はほとんど持ってねえんだよ。使いたくても使えねえからな」

田舎なのは十分知ってたけど、携帯が使えない位なんて……。

 虎彦

「あきらめろって、別に電話できねえなんて大した事じゃねえだろ」

しょうがない。

電話は今すぐ使うわけじゃないし、とりあえず挨拶しに行って、荷物置いてから雷門に行こう。

歓迎会かあ、皆来るのかな。すごく楽しみだ。

……

ちっとも変わってないなあ、道路もちょっと入っただけで未舗装になっちゃったし……。風鳴町はだいぶ昔と違って見えたのに。

 清行

「ねえ、漏れが居た頃と比べて変わった事って何かある?何か出来たとか、こんな事があったとか」

 虎彦

「そうだなあ……。特にねえな。何にも変わっちゃねえぞ。強いて言えば清行が帰ってきたことぐれえだな」

 清行

「えっ、何にも?ちょっとぐらいは何かあったんじゃ」

 虎彦

「細かい出来事とかなら色々有るけどな。毎度の事だけど孝之助こうのすけがやらかして、ちょっとした騒ぎになったりだとか。あとは村興しだとか言って、変な土産物が増えただとか……でも大ニュースみたいなもんはねえな」

5年も経ってるのに全く何も変わって無いって……。それより孝之助何やってんだ。昔からお騒がせな奴だったけど……。

あとお土産が増えたって何だろう。そっちの方が気になる。

 虎彦

「おっ、聞きたいって顔してんな。まてって、話は歓迎会でたっぷりしてやっから。そんじゃ俺はこっちだけど、遅れるなよ。じゃあな」

 清行

「うん、分かったよ。じゃあ歓迎会で」

確か昔もこうやって遊んだ後に、ここで別れたんだよなあ。

何も変わってないよ。違ってるのは虎彦の後ろ姿が大きくなっただけかな。

 清行

「さてと、漏れも行こう」

……

 清行

「こんにちはー」

 祖母

「はーい。あら清行ちゃん、いらっしゃい。おあがんなさい。おじいちゃん清行ちゃんが来たわよ」

 清行

「おばあちゃん久しぶり。えへへ、お邪魔します」

 祖父

「清行か。今日来るって聞いてたけど、思ったより早く来たな。急にこっちに来るって聞いてたまげたぞ、もっと前から連絡してきたらよかったのに」

 清行

「おじいちゃん久しぶり。ごめんね、思いつきで急に来ちゃった」

 祖父

「いやいや、誤らなくても良いんだよ。ここはお前の家でもあるんだから遠慮しないでゆっくりしていきなさい」

 祖母

「早速お部屋に案内するわね。お父さんが使ってた部屋よ」

 清行

「うん、確かあっちだったよね」

……

 祖母

「ここよ。古いからハイカラな物は置いて無いけど、テレビも扇風機も揃っているから安心してね。お布団は押入れにあるから自分で敷いて、電話が使いたくなったら玄関にあるから」

 清行

「うん、ありがとう。それで早速なんだけど、今から友達が漏れの歓迎会を開いてくれるんだって。だから夜ご飯はいらないから。それじゃあちょっと出掛けてくるね」

 祖母

「あら、今夜はご馳走にしようと思ったのに。しかたないわね、あまり遅くならないようにね」


さてと、ちょっと荷物を整理して雷門に行くか。携帯は……圏外か。全く使えないみたいだし、しかたない、バッグの中にしまっておこう。

バッグはここに置いて、着替えはタンスがあるからそこに入れようかな。

ふー、それにしても暑いなあ。

ちょっとの間だけど扇風機でもつけよっと。

あれ?あれれ?動かない……。何年も使ってないから壊れたのかも、この古さから見て予備は無いだろうなあ。

おじいちゃんおばあちゃんに言えば使ってるのと交換してくれそうだけど、それは悪いし……。

はあ、我慢するしか無さそうだな。とにかく、雷門に行こう。

 清行

「いってきまーす。早めに帰ってくるね」

 祖父母

「いってらっしゃい」

……

 清行

「えーと、商店街にあったはずなんだけど……。あったあった、あの赤提灯は雷門に間違いない」

雷門は、水郷村で唯一食事の出来る店だ。本来は居酒屋で、地酒の販売もしている様な店なのだが、カウンター以外の机には蓋があって、それを外すと出てくるのは鉄板でお好み焼きや焼き肉も出来るし、大衆食堂のような定食メニューも有る何でもありの店なのだ。

 オヤジ

「らっしゃい」

 清行

「こんにちは、ええと」

他の皆はもう来てるのかな。

 オヤジ

「さては坊主……お前だな」

 清行

「はい?」

 オヤジ

「なんでも連れが久しぶりに帰ってくるってんで、今日は貸し切りにしてやってんだよ。もう奥に2人来てるぜ」


 清行

「あっ、しん君に洸哉こうやじゃないか。久しぶりー」

そこにいたのは、狼獣人の蒼月洸哉と猫獣人の黒井深だ。

 洸哉

「よお、久しぶりだな」

洸哉は大人っぽくなったなあ。ますますモテてるんだろうなあ。

 深

「……久しぶり。来るならもっと早めに連絡しておいてくれないかな?君は暇かもしれないけど、こっちには都合ってものがあるんだから」

し、深君は相変わらず毒舌だなあ。でも深君の場合、はっきりものを言ってくれるのはむしろ気を許されてるってことなんだよね。そうじゃなかったら「……久しぶり」華麗にスルーだし。

 オヤジ

「おい何だかしらねえけどそう言ってやるなよ。お前らこいつに合うのを楽しみにしてたんだろ?だから2時間前から来てたんじゃねえのか。坊主、いい奴らを友達に持ったな」

 清行

「……」

 深

「……」

 洸哉

「……」

 虎彦

「こんちはー。おっ、何だよお前ら静まり返って。清行が帰ってきたんだぜ、楽しそうにしろよ」

大丈夫、2人が楽しみにしててくれた事は漏れにはちゃんと伝わったよ。でも2人の性格を考えたら、黙っておいた方が良さそうだな。

 清行

「虎彦が早いなんて珍しいね」

 虎彦

「あったりまえだろ、今日は特別な日だからな」

 清行

「でも大丈夫なの貸し切りなんかしちゃって?漏れ手持ちじゃ足りないかも」

 虎彦

「心配すんなって、今日は清行の為に集まんだから、主役に払わせるなんて無粋なマネしねえよ。それに金の事は気にしなくていいぜ。なっオヤジ?」

 オヤジ

「おうよ。聞けば村に5年ぶりに帰ってくるための奴の為に、みんなで一肌脱ごうって言うじゃねえか。若けえのに大したもんじゃねえか、気に入ったぜ。しかもお得意様の棟梁とうりょうせがれの頼みと来たら、こちとら協力するしかねえだろ」

 虎彦

「まっ、こうゆうこった。話は辰兄がつけてくれたんだけどよ」

 清行

「そうかあ。何だか悪いね、急に帰ってきたのにこんなにしてもらってばっかで」

 虎彦

「誤んなよな、素直に喜ぶ所だぞ」

 洸哉

「そうだぞ。少なくとも虎彦なんかに謝る事は無いぜ」

 虎彦

「にゃにい、どういう意味だ」

 洸哉

「どういうって、そういう意味だ」

どうしよう、何だか嫌な雰囲気になってきたぞ……。

 峻

「こんにちは。わふっ清行さんだ。お久しぶりです~」

この弾けるような笑顔は峻君。犬の獣人の古酉峻。登場もナイスタイミングだ。

 清行

「峻君久しぶりだね。よしよし良い子にしてたかい」

そう言って漏れは峻君の頭をくしゃくしゃと撫でてみた。

 峻

「くすぐったいですよー、やめてくださいです~」

そう言っても笑顔で尻尾振られたら中々やめられないじゃないか、可愛い奴め。

 峻

「清行さん清行さん、まだゲームとかやってますか?」

 清行

「うん、それなりにね」

 峻

「じゃあ、今度昔みたいに一緒にゲームしてもらっていいですか?」

 清行

「うん、もちろんだとも」

そんなにキラキラとした純粋な目で頼まれたら断れないよ。昔はよく対戦したりしたけどかなり強かったよな。

 峻

「やったあ、嬉しいです~!他の皆さんも遊んでくれるんですけど、あまりゲームしてる人居ないので」

 清行

「でもあまりゲームばっかしてちゃ駄目だぞ、外でも遊ばないと」

 峻

「はい、辰樹たつきさんやこーやさんに、よくお外に連れて行ってもらっているので大丈夫です」

 清行

「へえ、そうなんだ」

辰兄はともかく、洸哉は意外だな。峻君と仲は良かったと思うけど、あんまりそんな事しなさそうなのに。

 虎彦

「こーやさんは峻の憧れだもんな。そうだろ峻?」

 洸哉

「てめえ……」

 峻

「はい、かっこいいです。こーやさんみたいになりたいです」

 洸哉

「なっ……。ちゃんと意味わかって言ってんのか」

 峻

「はい!」

多分深い意味までは分かっていないんだろうなあ。それが峻君の良い所だけどね。それとも周りが余計な事まで考えすぎちゃうのかな。

 虎彦

「洸哉はいいお兄ちゃんなんですね。こーやおにいちゃーん」

虎彦は余計な事をやりすぎだ……。

 虎彦

「こーやおにい……ぐふっ」

容赦無く虎彦に鋭いつっこみが入る。豪腕を叩き込まれた虎彦はのびてしまい地面に転がった。

殴ったのは、熊獣人の三日月柔一だ。

 柔一

「いい加減にしろ、虎」

無骨な雰囲気、大きくて丸い体、間違いない柔一じゅういちさんだ。

いつの間に来たんだろう。

それにしても、いつも虎彦にあんなつっこみしてるんだろうか?大丈夫かな……。

 京慈

「おっ清行。元気にしてたか、今日帰ってきたらしいな」

そういうのは、犬獣人の高原京慈。一つ上の先輩だ。

 清行

「柔一さんに京慈きょうじ先輩お久しぶりです。漏れはなんとかやってきました」

 柔一

「その様子じゃ元気そうだな。今日は部活があったんだがなんとか時間には間に合ったようだな」

柔一さんは今も柔道を続けてるのか。体つきも昔よりも一回り大きくなったみたいだし。

 京慈

「遅れそうだったから3人でヒヤヒヤしてたんだよ。あっ、こいつの紹介がまだだったな。紹介するよ。サッカー部の後輩で、皆と同じ高校に通ってる宗太郎だ」

 宗太郎

「初めましてッス。俺風鳴高校の1年で、橙野とうの宗太郎そうたろうっていうッス高原先輩からお話は聞かせてもらってるッス、よろしくお願いしますッス」

そういうのは獅子獣人、橙野宗太郎だ。

 清行

「漏れは西村清行。よろしくね宗太郎君」

京慈先輩もサッカー続けてるんだなあ、しかもこんな後輩まで連れてきて。昔から女の子に人気が有ったし、面倒見がよかったもんね。きっといろんな人に慕われてるんだろうな。

宗太郎君も爽やかでいかにもスポーツマンって感じだし。

 京慈

「宗に今日の事話してやったら、ぜひって言うから連れてきたんだよ。前から清行の事話してたし、皆とも面識あるからな」

 宗太郎

「色々と話聞かせてもらってるッス!」

漏れの事って何話したんだろう……。

 辰樹

「オッス!おう清行じゃねえか、会いたかったぜー!今までどうしてたんだよ、背も昔のままじゃねえか。ちゃんと飯食ってんのか。ガハハハ」

そういうのは、竜獣人の翠屋辰樹だ。

それは辰兄たつにいが大きすぎるんですよ。

 清行

「辰兄は元気そうだね。漏れはこれでも結構伸びたんだけどなあ」

 虎彦

「遅えよ辰兄。待ちくたびれたぜ」

 辰樹

「わりいな。今日は早退するって言ったんだけどよお、中々仕事から抜けれなくてな」

 清行

「えっ、辰兄って働いているの?」

 辰樹

「おうよ、高校を卒業してからウチで見習いやってるぜ。本当は中学卒業してからだったんだけど、高校もいっときたからな」

そうか、辰兄はもう働き出してるんだ。子供の頃から日本一の職人になるって言ってたもんな。

 清行

「へえ、辰兄も職人見習いか。それはそうと辰兄、かなり大きくなったんじゃない?」

小学6年生の時で既に背の高さが大人位にあったのに、それから更に伸びてるような気が……。見上げないと顔が見えないよ。

 辰樹

「そうか?2メートル超えたみてえだけど、お前らが小さすぎるんだよ。もっと食え食え、好き嫌いしてると大きくなれねえぞ!今日は肉たっぷり食ってけよ。俺は肉よりも魚とか野菜の方が好きだけどな。ガハハ」

意外とヘルシー……。

 清行

「でも、本当に大きくなったよね。力仕事してるから筋肉も付いたし、お腹も……」

 辰樹

「なっ、これ違えよ、竜人は成人になると腹が出てくるもんなんだよ。別に太っちゃいねえぞ。こーゆーもんなの」

 虎彦

「辰樹は食いしん坊だかんな。それに、誰だって歳とりゃ腹も出てくるだろ。清行、今度辰兄の腹触ってみな。プニプニだぜ」

プニプニ……ゴクリ。

 辰樹

「プニプニじゃねえ。それより全員揃ったのか?まだあいつが来てねんじゃねえのか」

 虎彦

「まあ、今日も遅れてくるだろうな……」

 京慈

「さすがに今日は早めに来るんじゃないのか」

 深

「話してる間に集合時間からとっくに30分以上過ぎてるけど」

 峻

「すごく楽しみにしてたみたいなんですけど……」

 宗太郎

「都会の話が聞けるって喜んでたッスね」

嫌な予感がする……。

 洸哉

「あともう30分位で来れたら上出来じゃないか。この間なんか解散するギリギリの所で現れたしな」

 柔一

「そうだな、今日は約束を忘れる事も無いだろう。おそらくだが……」

 孝之助

「こんにちは~……って早めに来たのに皆もう集まってんじゃん。あっ!清行?清行だよね?久しぶり~!」

そういうのは九狸孝之助。狸獣人だ。

 虎彦

「あのな孝之助、早めに来たってとっくに時間過ぎてるぞ」

 孝之助

「だって時間ぴったりに来たって、どうせ揃わないんだからちょうどいい頃でしょ」

お前が言うなよ……。

 辰樹

「まあ……孝之助にしちゃあ、よく頑張った方だろ」

 孝之助

「うんうん。そんな事より!!清行!!都会の暮らしってどう?羨ましいな~、この都会人め!今度遊びに行ってもいい?当然もういろんなとこ見て回ってるよね。新しくできたあそこには行った?都会で変わったとことかある?いろいろ話聞かせてよ~」

 清行

「ええと、ちょっと待って」

 辰樹

「落ち着けって。興奮するのも分かるけど、孝之助がまくし立ててばっかりじゃ話せないだろ。それに清行も帰ってきたばっかりなんだし、今日はゆっくりさせてやろうぜ」

 孝之助

「あっ、そうだね。ごめん清行。でも今度絶対話聞かせてもらうからね」

 清行

「うん、分かったよ」

孝之助のマイペースぶりも変わってないな、むしろ磨きが掛かったんじゃないか……。

まあ、漏れも話すの嫌いじゃないし、お土産代わりに聞かせてやるか。

 京慈

「それじゃ全員集まったし、そろそろ始めよう」

 宗太郎

「待ってたッス!」

 京慈

「宗、まさか今日は肉目当てで来たんじゃないだろうな」

 宗太郎

「ええっ、そんなわけじゃ無いッスよ」

 虎彦

「夫婦漫才はその位にして、とりあえず座ろうぜ」

 京慈

「俺達夫婦に見えるらしいぞ、宗?」

 宗太郎

「夫婦ッスか!?」

 柔一

「橙野、真剣に受け取りすぎだ……」

 辰樹

「とっとと始めようぜ。オヤジがサービスしてくれるらしいから、肉も飲み物もじゃんじゃん頼めよ」

 オヤジ

「翠屋の倅、お前さんは当然飲むだろ。他の奴も遠慮しないで行ってくれよ」

 辰樹

「オヤジ分かってんな。とりあえず生だ、サーバー樽ごとくれよ」

 深

「僕は何でもいいけど、未成年がお酒を飲むのは良くないんじゃないかな」

 洸哉

「今日のところは辰樹さん以外、アルコールを控えた方がいいだろうな。っても、飲む奴なんて殆どいねえだろうけど」

 清行

「辰兄はいいの?」

 峻

「辰樹さんって、お酒いーっぱい飲むんですよ」

 京慈

「ああそれなら問題無い。竜人は酒に強いらしくて、法律もちょっと違うそうだ。だから辰樹さんなら飲んでも大丈夫だ」

 孝之助

「だいぶ前から飲んでみたいだけどね」

 辰樹

「なーに男は黙って飲んでりゃいいのよ。さっ、席座れよー!」

 虎彦

「おい清行、こっち座れよ」

 洸哉

「何もわざわざお前の隣なんかに座りたくないだろ」

 清行

「ちょっ、ちょっとトイレに」

 孝之助

「あっはっはっ、清行ナイスボケ」

 虎彦

「なんだよそれー」

 柔一

「どれ、俺が虎の隣に座ってやろう」

 峻

「あはは、虎彦さん隣に座ってくれる人がいてよかったですね」

 虎彦

「よくねーよ!!」

 清行

「ごめん、ちょっと行ってくる」

 深

「フフ、トイレは出掛ける前に済ませなさいって教えてもらわなかったのかい?」

 清行

「深君までー」

やばい、何だか緊張してきた。まだ帰ってきて何時間も経ってないのに、1日中遊んだみたいだ。

しかもこれから歓迎会が始まるんだよな……。忙しいけど、この雰囲気懐かしいなあ。昔はこんな事が毎日のように起こってたっけ?でも、子供の頃の記憶っていい加減だから当てになんないかも。

どっちにしろ今年の夏は忙しそうだ。

……。

……

 清行

「スッキリしたー。準備完了……っと」

さてと、皆はもう座っちゃったみたいだな。誰のとこが空いてるかな。

 清行

「孝之助、ここいい?」

 孝之助

「どうぞどうぞ~」

そう言って奥につめる孝之助。

 柔一

「孝之助、詰めすぎだ」

 孝之助

「あ、すみません」

 虎彦

「何でそっちに行くかなぁ」

 清行

「いや、スペース的に余裕がありそうだったから……」

 虎彦

「スペースなら逆に詰めればこっちにも出来るだろうによ」

 孝之助

「もう、なんか虎彦うるさいよ。別にいいじゃん、好きなところ座れば」

 虎彦

「まあ、そうだけどよ」

そういえばさっきも漏れに隣に座るように言ってたっけ。迎えに来てくれたのも虎彦だったし、よっぽど漏れと会うのを楽しみにしてくれてたのかな?

だとしたら、虎彦には申し訳ないことをした。

 孝之助

「ところでさ、清行」

来たか。覚悟はしていた。

というかそのつもりでこの場所を選んだわけだけど、早速孝之助からの質問攻めが始まる。

漏れは他のみんなとも話したかったんだけど、ほとんど孝之助の質問ばかり答えていた。

 辰樹

「おーいお前ら、飲み物何にする?」

 孝之助

「オイラはコーラ。それで話の続きなんだけどーー」

 辰樹

「おいおい、少しは清行を休ませてやれよ。さっきからずっと質問しっぱなしじゃねえか」

 孝之助

「そんな事無いよ、ねえ?清行」

 清行

「えーと、できれば漏れも注文頼みたいなーって思うんだけど……」

 辰樹

「ほれみろ」

 孝之助

「うーん、ごめんね。そんなつもりは無かったんだけど」

 清行

「いや、いいよ」

まあ、いつも悪気が無いから手におえないんだけどね。本当に変わらないなぁ。孝之助は。

漏れは無難にウーロン茶を頼んだ。肉も注文しようとしたんだけど、貸切だけあってなんとメニューの全部注文済みとのこと。

すげー。これって夢の企画じゃない?

焼肉屋で全部注文してみた、みたいな。

高校生でその夢を実現できるとは、漏れって幸せ。

飲み物を頼むと、既に用意してあったのか肉や野菜が次々と運ばれてくる。

最後に飲み物がそれぞれの手元に渡って、乾杯となった。

 皆

「かんぱーい!!」

それを合図に店内に肉の焼けるジューという音と、香ばしい匂いが広がる。

漏れも適当に肉を広げながら、いい具合に色がつくそのときを待った。

 孝之助

「清行、タレとってくれる?」

 清行

「あ、うん」

 孝之助

「サンキュ」

 清行

「あれ?」

孝之助にタレを渡してプレートに目を戻すと、漏れが大切に育てていたタン塩が消えている。

 孝之助

「どうかしたの?」

 清行

「いや、漏れのタン塩が」

 孝之助

「もしかしてここにあったやつ?」

 清行

「うん」

 幸之助

「あ、ゴメン。それオイラが食べた」

 清行

「なにぃっ!」

って、言いながら口に運んでいるそのカルビは!

 清行

「あああ、それも漏れが育ててたやつ!」

しかもさっき裏返したばっかだから、まだあんまり火が通ってないはずなのに。

 孝之助

「そんな細かいこと気にしなーい。まだたくさんあるんだから。それに焼肉は早い者勝ち、弱肉強食だよ」

 清行

「くっ」

これが焼肉の世界の厳しい掟か。

 孝之助

「あっ、それオイラのウィンナー!」

 清行

「甘いぞ孝之助。焼肉は弱肉強食だろ」

 孝之助

「くうっ」

 清行

「あ!漏れのタン塩!2枚目!!」

 孝之助

「弱肉強食~。あ!またウィンナー取った!」

 清行

「あっくそ。それ狙ってたのに」

 孝之助

「オイラのサガリ肉!」

 清行

「タン塩!3枚目!」

 孝之助

「ウィンナーゲット~」

 清行

「タン塩もらったぁ!」

 深

「もう少し静かに食べられないのか」

 峻

「お行儀悪いです」

漏れと孝之助の壮絶な焼肉バトルはその後もずっと続いた。

……

 清行

「ふー、お腹一杯。もう食べられないや」

 虎彦

「食った食った。肉だけでもかなりの量なのに、デザートまでつけてくれるとはな」

 京慈

「じゃあ、いい時間だしそろそろお開きにするか」

 宗太郎

「そうッスね」

 峻

「今日はとっても楽しかったですー」

 清行

「そうだね、久しぶりに皆と会えて楽しかったよ」

 虎彦

「おいおい、楽しいのは今日だけじゃねえぜ。夏休みはずっとここに居るんだろ、毎日会えるんだぜ」

 柔一

「……毎日会うのか?」

 虎彦

「たとえだよ、た・と・え」

 辰樹

「まーでも昔は毎日遊んでたからな。野球とか魚取ったりしてよ、鬼ごっこなんかもよくしたっけな」

 虎彦

「そうだ!今度皆で集まる時はおにごっこしねえか?しかも1日中。名付けて、24時間耐久鬼ごっこ」

 清行

「24時間って、1日中鬼ごっこするの?」

 虎彦

「そうだ、ずーーーっとだな。やりがいがあるだろ。全員鬼に捕まったら、そこでお終いにして」

 洸哉

「いい歳して鬼ごっこは無いだろ」

 深

「くだらない……」

 辰樹

「そう言うなよ、やれば楽しいかもしれねえぞ。乗り物は一切禁止で、水郷村内だったらどこでも隠れて良いとか、ルールを決めってったらどうだ?」

 洸哉

「……それだと動けるのは俺の家の辺りが限界になりそうだな」

 深

「じゃあ僕の家にも隠れてもいいんだね。もっとも、それはかんべんしてもらいたいけど」

この2人、文句は言うけど乗り気で参加するんだな……。

 京慈

「でも真夏に1日中するのはしんどくないか」

 柔一

「あまり現実的ではないな」

 宗太郎

「夏ッスから、夏らしい事はそうッスか?」

 峻

「清行さんが引っ越す前は、虫取りやザリガニ釣りしてましたです~」

虫取り網とかごを持つ、麦わら帽子の峻君……

似合いすぎるよ。

でも、高校生が集まってする事じゃないなあ。

 京慈

「いや、それもちょっとな……」

 孝之助

「うーん、夏っぽい事か。みんなで海に行くとかってどう?」

 清行

「良いね、それ」

 虎彦

「孝之助の提案にしちゃあずいぶんまともじゃねえか、珍しいな」

 孝之助

「なんだよ。オイラいつだってまともだよ。24時間耐久鬼ごっこなんて馬鹿なこと言わないし」

 虎彦

「何だと」

 柔一

「……俺はああいうの嫌いじゃないが」

 辰樹

「ん?柔一、今何か言ったか?」

 柔一

「いや何でもないです……」

 辰樹

「そんじゃ次は海に行くって事でいいな。俺は仕事があるし、部活で忙しい奴も居るから全員の休みの都合のつく日に行こうぜ。細けえ事は追々決めてよ」

 虎彦

「そうだな、そうしようぜ」

 孝之助

「賛成~」

 宗太郎

「海ッスか、水着がいるッスね」

 峻

「わふ!わくわくします」

 京慈

「決まりだな。じゃあ今日は最後にあれやって解散しようぜ」

 清行

「あれって?」

 虎彦

「いくぜ……せーの」

 皆

「お帰りなさい清行!」

ああ、漏れって本当に水郷村に帰ってきたんだ……。

友達ってこんなに温かかったんだね。

 清行

「ただいま皆。今日はありがとう」

漏れ、この村で拾って育って皆にあえて、本当に良かった。

 虎彦

「へへ、泣くなよ」

 清行

「うん、泣いたりしないよ」

 辰樹

「しんみり来た所だが、次に集まる時は海で盛り上がるんだかんな。忘れんなよ」

 深

「辰樹さんが1番忘れそうだけど」

 辰樹

「深~、そんな事言うなよ」

 清行

「あははは」

今日から1ヶ月、皆と水郷村で過ごせるんだ。これから海に行くだけじゃなくて、きっともっと沢山の事が漏れを待ってるんだろうな。

いつも胸の奥に有った心のアルバム。開けば宝石のように輝いてる思い出が蘇ってくる。

そこに新しいページが作れるんだ。

今年の夏はたった1度しか来ない。

さ、思いきり楽しむぞ。

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