4、謎の声さん、正体を現す




 前回から約一時間後……


「大丈夫? 生きてるかい?」


 うすぼんやりと光る洞窟に、謎の声が響く。


「ん、なんとか」


 言ってから、小瑠璃はむくりと起き上がった。

 自分の体を見下ろして、被害状況を確認する……途中で首をかしげる。


「あれ、思ったほどやられてないな。なんでかわからないけど立てるし……おお、窪地だった胸が平原に戻ってる」


 なのに全然うれしくないのは何故だろう。

 そう思っていると、謎の声がありがたい解説をくれた。


「魔法少女に変身した影響だよ。魔力特化じゃ慣れないうちは困るだろうと思って、シンプルに身体能力に特化させたんだ」


「ほう、それは気が利く……」


「おかげで魔法とかほぼ使えないよ!」


「前言撤回」


 まあ魔法少女(笑)の魔法なんて趣味じゃないからいいけども。


 引き替えのフィジカル強化はというと、なかなか馬鹿にできないようだ。だいぶ軽くなった怪我は、話しているあいだにも見る見る治っている。

 自己再生機能はドレスにもあるのか、動きづらそうなとかはすでに復活していた。いらない。


 うん。体はまだまだ痛いが、余裕で許容範囲だ。

 じゃあそろそろこの恥ずかしい衣装を脱いでもいいだろうと、青いドレスをつまんで聞いた。


「ところで謎の声さん、変身ってどうやって解くの?」


「ああ、君が疑問に思うのももっともだね。さっきのはマロククネズミ、世界最強のネズミさ!」


「それはさっき聞いた」


「あ、そっか。そろそろ僕の正体について「ちげーよ」そう! 僕の名前は「ねえ変身は?」何を隠そう、君を「変身は?」するべく「変身は?」された、ナビゲ「話聞いてよ」さ!」


「君がナビなのは初登場時点で察してるから。そんなことより変身解除だ」


 いいから早くこのモスリンたっぷりふりふりドレスを脱がせてほしい。さっきから趣味じゃなさすぎて鳥肌立ちそう。

 まあ、気になるのはそこだけじゃないのだが。


「というかさ、魔法少女って四色か五色でチーム組むものでしょ? 青一色だけで大丈夫?」


 そう、青。服も青いが他も青いのだ。

 変身した影響か、髪の毛は青空も真っ青な青色に染められて、何故かあざとくウェーブしたツインテールを強制されている。もしかしたら目も青いかもしれない。何故に。


 こちとら日本生まれ日本育ちの生粋の日本人なのに。しかも青て。永遠の非主人公ポジじゃないか。せめてピンクとか……いや、ないな。百歩譲っても赤だろう。


 まあようするに、ぶっちゃけ変身前に戻りたいと小瑠璃は思った。


「大丈夫! このお話は魔法少女モノではないよ!」


「だろうね。まあ言っといてなんだけど、その線は捨ててるよ。戦いも、割と生死にかかわるみたいだし」


 生死を賭けた戦いをする魔法少女なんてそんなもの……え、いっぱいいる?

 たしかに。


「……そうだね、ここは危険な世界だ。僕も、君の命を預かる以上、半端なことはしないと約束する」


 こくり、と小瑠璃はうなずいた。


「その上で聞きたいのは……なんで魔法少女?」


「え、いや、君の年だと好きかなあって」


「うろたえるくらいなら半端なリサーチしないでよ」


 いいけどさ別に、と周囲を見渡す。

 キノコ、酸の泉、キノコ、キノコ、骨……さいわい生き物、というか敵は見当たらない。


「さて、敵さんが思ったより……というかめちゃくちゃ強いとわかった以上、ここからはもうちょっと慎重にやるか」


「そうだね。今の君じゃ変身してもさっきのネズミと互角かどうかといったところだし、慎重になるにこしたことはないよ!」


「今ふと思ったんだけど、普通にあの世に行ってた方が私にとってよかったんじゃないかな」


「そうだね!」


 そうだねじゃねーよというヒマもなく、謎の声は急に真面目なトーンになって言った。


「探し物を見つけるためには……強くならなきゃいけないよ、小瑠璃」


「強く?」


「そうさ。他者を倒すことでその経験値たましいを自分に取り込む……この世界の生き物にはみんなその能力が備わっている。転生した小瑠璃も例外じゃない……おっと、その前に、僕もそろそろ姿を現さなきゃ失礼だね……」


 急にすごい説明口調になったなと思いながら聞いていると、


 ごご、ごごごごご……

 ごごごごごごっ!


 唐突に聞こえてきたそんな効果音とともに、それは姿を現した。


 まるまるとした手乗りサイズのボディ。

 ちょこんと突き出た四本の足。キュートな鼻。

 そして、ぱたぱたと動く小さな羽……


「はじめまして! 僕は導きの妖精ナヴィ! 翼持つブタの眷属、いわば天使ってやつさ!」


 妖精か天使かブタかどれだよと無表情で思った小瑠璃は、おどろくほど興味がない自分に気がついてスルーすることにした。


「今までどこに隠れていたの?」


「どこって、君の服の中さ!」


「なるほど」


 怒るべきかそれとも恥ずかしがるべきか一瞬考えた結果、まあいいか、ブタだし、と見送る。


「それはさておき小瑠r「オーケーまずはこの辺りに拠点を作って強くなろう。移動はそれからだね」流石だねその通りだよ!」


「説明パートが長いとダレるからな」


 あんまり一気に言われても覚えらんないし。


「それで話を戻すけど、あらためて今後の予定が決まったところで、いい加減変身を解いてほしいところ」


「うん。そうしてあげたいのはやまやまなんだけど、僕の意志では解けないんだ」


 こてり、と小瑠璃は首をかしげた。


「やはり無能か。じゃあ解き方教えてよ」


「うん。君の意志でも解けないんだ」


「おいどういうことだ」


 今度は無表情でブタを握りしめる。ぐえっと声がもれるが気にしない。今夜の食材調達の手間が少し省けるだけのことだ。


「それはあれかな? 常時魔法少女inダンジョンしてろってこと? ただでさえこんなミスマッチなのに?」


 私は別にかまわんが、貴様の命の保証はせんぞ。


「ち、ちがうんだ! 魔装ウェスティスには危機察知センサーが内蔵されていて、危機が完全に去らないと解けない仕組みなんだ!」


「なんでネーミングだけそんな中二なの……。部署ごとに担当者が意思疎通できてないクソゲーでももうちょっと整合性取れてるぞ」


 って、あれ?

 危機が去らないと解けない?


 言いながら、はたとそう思い至った、次の瞬間。

 背後に気配を感じた。


 あ、やばいかも――


 ぞくっと背中に走った寒気に、とっさに身を固くして防御の姿勢を取ろうとする。

 でも、それも間に合わない。 


 それは、完全な不意打ち。

 今この瞬間に何かされれば絶対に避けられない、そんな致命的な一瞬。


 ……そして。


 完全に小瑠璃の背後を取った気配の主は、小瑠璃の耳元に口を近づけ……少女特有の高い声で、思いっっっっきり叫んだ。


「魔族四天王が一〝怠惰〟のベルフェゴールっ! ここに颯爽参上っ!!」


「なんだこいつ」



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