第112話 ふたりが見る夢
「え、じゃあ、僕のことを知っていた……んですか……」
『呼び合わせの石』を通じてファミアさんから衝撃の事実を教えられた。
なんと、試練の森で出会ったときには僕のことをラルクロア=クロスヴァルトと気付いていたそうだ。
『二歳の披露目式にファミアさんも参加していたなんて!』と驚いたら、『ボクは人族の姿だったからね』と笑っていた。
お師匠様の庵に向かっていることもすぐにわかったそうだが、ハーティス家が関わっているらしきことに、気を回して気付かない振りをしていたらしい。
ファミアさんは子どものころからお師匠様のことを『イリノイおばさま』と呼び、慕っているそうだ。
……またもや知らぬは僕ばかり、ということか。
モーリスにばれて、カルディさんにばれて、ファミアさんにばれて。
実家を出てからというもの、すでに三人に素性を知られてしまっている。
三人ともとてもいい人だから心配はないんだけど……。
まさかどこかで父様とばったり出会って「お、お前はまさか!」なんて言われたりしないだろうか。
それとも陛下やミレサリア殿下に出会って──いや、これは笑えない。
……やはり僕はあまり人に会ってはいけないような気がする。
素性はばれてしまったが、諸々の事情を説明して僕のことは『キョウ』と呼んで欲しいとファミアさんにお願いしておいた。
そのことはミスティアさんにも伝えてくれるそうだ。
◆
『でもどうして青の都に?』
『その様子だとリーフアウレちゃんとも契約できたようだね?』と僕の移動速度からズバリ言い当てたファミアさんに
「ええ、それがじつはお師匠様に行って来いと言い渡されて──」
僕は風の精霊と契約を交わし(?)風奔りを覚えたことと、
『その歳でふた柱の精霊を使役するとはさすがだね!』と本心から喜んでくれたファミアさんの言葉に、照れの混ざったお礼を返すとファミアさんは言葉を続けた。
『──無魔の黒禍……うん、少し前に立ち寄った街でも耳にしたよ。クロスヴァルト家から出た災いの元凶だって』
「……そう、なんですか……」
『──クスッ、それがね、そのときティアが、クスッ、その街を全滅させようとして、クスッ、止めるのが大変だったんだ────』
う、ミスティアさんがそんなことを……。
またミスティアさんの怒りに触れた酔っ払いでもいたのかな……?
『──それで、この後の行動はどうするのかな? キミは無魔の黒禍を捕まえる目処は立っているのかな?』
「一応今は、近衛総隊長の指示の下にいます。なにか考えがあるとかで行動を控えるように言われているんですけど」
『……コンスタンティン男爵……』
そういえばコンスタンティンさんもファミアさんと同じエルフ族だ。
やっぱり知り合いなんだろうか。
「はい、コンスタンティン様です。──あの、知り合いなんですか……?」
『ん? あ、まあ、そんなとこかな。それより
やっぱり知り合いみたいだ。
話題を変えたっていうことは、あまり話をしたくないのかな……。
同じ騎士として面識があるのか、それともエルフとして知り合いなのか……。
「──神抗魔石というのは、魔法の階級が低い人でも殺傷威力がある高位の魔法を使えるようになる魔道具らしいんです。都は無魔の黒禍だけではなくて、その魔道具を使った事件も相次いでいるので、余計に対応に追われている、といった状況なんです」
『──なるほど。そんなものが出回るなんて世も末だね。──だから魔法なんて……っま、イリノイおばさまが遣わしたキミならさっさと片付けてしまうんだろうけど』
「そんな簡単に言わないでください……まだ、来たばかりでなにをどうすればいいのかもわかってないんですから……」
『でもキョウ、他の街や国でも無魔の黒禍を名乗る輩が出現したらどうするつもり? キミはそこへも赴いて倒して回る?』
「え? 他にも無魔の黒禍がいるんですか?」
『たとえ話。──でも模倣犯がでてもおかしくはないよ。クロスヴァルトは良くも悪くも名が轟いているんだ、侯爵を貶めようとする下賤な輩の考えそうなことじゃないかな』
「そうですよね……でもそればかりは僕の意見だけでは何とも……お師匠様の指示もありますし……でも、ファミアさん、僕は決めたんです。無魔の黒禍の真実の姿を世に知らしめなければならないと。今はまだ僕自身、本当の無魔の黒禍のことを知りませんし、クロカキョウとの関係もわかりませんけど、スレイヤが間違っているというのなら、正さなければなりません」
『クロカキョウ……ティアが言っていた、キミの中に眠る過去の記憶の人のことだね?」
「はい。だからもし、無魔の黒禍の名で悪事を働くような人がいたら、僕はこの力を使って止めたいと考えています。結果としてそれがクロスヴァルトを救うことにも繋がると信じていますし」
僕はそう答えた。
夢の中のクロカキョウ、クロカミアと『無魔の黒禍』が関係があるのなら、すべてを知りたい。
もうそのことからは逃れられない運命のようなものを、僕は感じている。
『そう……ボクも旅先で色々な情報を仕入れてみるよ。なにわかったことがあったら真っ先に連絡するから』
「ありがとうございます。ファミアさん」
ファミアさんに対して隠し事がなくなった僕は、まだ一度しか顔を合わせたことがない(二歳のときも含めると二度目だが)にもかかわらず、古くからの知り合いであるかのようにたくさんのことを話すことができた。
そしてファミアさんはそんな僕の話を聞いてくれ、そして自分の話もしてくれた。
ファミアさんはドレイズという教会の偉い人と喧嘩をして、レイクホールを飛び出してしまったそうだ。
なんでもミスティアさんの処遇が気に入らなかったらしく、その日のうちにミスティアさんを追うために街を出て、そして三日ほど前に合流したという。
で、このままバシュルッツまで一緒に行くそうだ。
カイゼルさんの無事はお師匠様から知らされていたようで、ミスティアさんがとても喜んでいたことも聞いた。
レイクホールで起こっている面倒事に関しても、逐一連絡を受けているそうだ。
『──無魔の黒禍のことといい、神抗魔石のことといい、大変だろうけど、とにかくキョウの魂の思うままに行動するんだ。──キミが本物の『無魔の黒禍』であるのなら、すべては精霊たちが導いてくれる。偽物なんて……脅威でも何でもない』
「ファミアさん……」
『──まだまだ話したいことは山ほどあるんだけど、そろそろ移動の時間みたいだ。ティアも起こさないといけないし……ねえキョウ、知っての通り、ボクとティアが向かっているのはレイクホールから遥か遠く離れた地、バシュルッツなんだ。いつ戻れるかわからないし、もしかしたらもう会えないかもしれない。それほどにバシュルッツ国境は過酷な場所なんだ。──だから、もし、万が一、ボクの身になにかがあったとき、ティアを、ティアだけは守ってくれないかな……』
「そんな! ──ファミアさん!」
『──キミと試練の森で再開してから、ボクは不思議な夢を見るんだ。まったく知らない世界なのに、懐かしいような……不思議なことにティアもレイクホールを出た日の夜から夢を見るらしい。夢の内容は状況こそ違うようだけど、最後にはかならずボクの夢ではボクが、ティアの夢の中ではティアが……殺されるんだ──』
「え、ころされ──」
『──だからいつもより繊細に、というか臆病になっているだけなのかもしれない』
「ファミアさん……」
『──あ、ティアが目を覚ましたようだ、そろそろいかないと。それじゃあキョウ、また連絡する。いい? 迷うようなことがあったら精霊に頼るんだ、そうしたら必ず精霊はキミが進むべき道を示してくれる。 ……るよ……キョウ……』
「あ、ファミアさん? ファミアさん!?」
何度か呼びかけても返事はない。
石の効果が切れたのだろう。
「精霊が示してくれる……最後はなんて言ってたんだろう……」
僕はファミアさんとの会話の余韻をかみしめるように、手の中の石を握りしめた。
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