第43話 サイドB アリス その4 サラマンダ討伐ミッション②

 

 火山。

 あまりの暑さに目が眩む。

 今回のミッション、敵はサラマンダだけではない。

 黒褐色の溶岩。

 焦げて黒ずんだ木々。

 幾度となく噴火を繰り返しているのか。

 白い煙が地面の裂け目から立ち昇っている。

 まるで高温のサウナに閉じ込められたように、汗がどんどん湧き出て来る。


「アリスっ」


 ルカが転送され、ハイドと共にやって来る。


「キュー」


 ハイドはいきなり寝そべった。

 暑さが苦手のようだ。

 今回、役に立ちそうにない。


「他のメンバーは?」


「先に向かった」


 先に着いたメンバーはすでにボスのいる山頂に向かっている。かろうじて山を登るカナとリキマルの後姿が見える。


「行こう。ミッションが終わる前に」


 ルカはうなづいて後をついて来る。

 暑さには私より強いようだ。ハイドを背負いながら平気で山を登る。


「アリス、三時の方向に敵反応」


 ルカが索敵スキルで敵の位置を知らせる。

 ハイドがルカの背中から降りて、横で唸りだす。

 黒い岩陰から炎を纏った蜥蜴が現れる。

 サラマンダ。大きさは一メートルくらいか。

 背中から尻尾にかけて大きな棘が無数に生えている。

 前回のリザードマンは二足歩行だったが、今回は四足歩行だ。

 赤い舌を出して、ゆっくりとこちらに近づいて来る。

 剣を構える。

 まだ距離は十分ある。

 そう思った瞬間。

 サラマンダが大きく口を開ける。

 丸い、テニスボールほどの火の玉がそこから発射された。


「不倶戴天(ふぐたいてん)」


 剣を巨大化させ、防ごうとする。

 だが、その前に。


 蜘蛛の巣型の大きなネットが眼前に広がる。

 火の玉がネットに当たり跳ね返った。

 跳ね返った火の玉はサラマンダの手前に当たり爆発する。


「ネットガード」


 ルカの新しいスキルのようだ。大きなネットで相手の攻撃を吸収して跳ね返すのか。なかなか便利だ。


「いくよ、アリス」


「ああ」


 ルカがサラマンダに弓を放つ。

 炎を纏っているため途中で弓が燃えて届かない。

 再びサラマンダが、今度はルカに向かって火の玉を吐き出そうとする。

 巨大化した剣を縦から横にする。

 サラマンダが火を噴く寸前に、巨大な剣の腹をトカゲの頭にぶち込んだ。

 口が閉じたため、火の玉が発射されず、サラマンダの口の中で火の玉が爆発する。


「シャガァー」


 表面には炎が効かなそうだが内部は別らしい。

 サラマンダの口の部分が避け、緑の血が飛び散る。

 悶え、転げるサラマンダ。

 炎に覆われてない腹が見える。

 弱点はそこか。

 ルカの弓が連続で三本腹に突き刺さる。

 サラマンダは地面と固定され動けなくなる。

 そこに剣を振り落とす。

 ぶつり、と肉を切り裂く感触と共に真っ二つになる。

 びたん、びたんと尻尾が跳ねた後、動きが止まった。


『素材アイテム 炎の棘を入手しました』


 飛び道具があるのでリザードマンより危険だが、気をつければなんとかなりそうだ。


「先を急ごう。ルカ、敵の反応は」


「近くにはいない。だが、上の方の反応がすごい勢いで消えている」


 まずいな。下手をすればラスとカムイの戦闘が見れない。

 ルカが再びハイドを背負う。

 今回、ハイドは完全にお荷物だ。

 携帯があれば召喚解除できるのだが、持っていないルカに言っても仕方がない。

 暑さに耐えながら二人で岩の山道を登る。



「あら、来たのね。二人とも」


 山頂近くのひらけた丘でクリスが岩に座っていた。


「他の皆は?」


 クリスが親指で背後を指す。

 人影が並んでいる。

 ほとんどのメンバーが揃っている。

 だがラスとカムイの姿がない。


「アリス、前方に多数の......」


「うん、見えている」


 ルカに聞くまでもない。

 丘の中心に大きなクレーターが出来ている。

 円形の盆地とそれを取り囲む円環状の黒褐色の岩。

 その中にサラマンダの大群がいた。

 全部でざっと三十匹はいるだろうか。

 そして、さらにその中心に明らかに大きさのおかしい個体が一体いる。

 十メートルクラスのサラマンダ。

 あれがメガサラマンダか。


 シズク、アキラ、カナ、リキマル、四人ともクレーターの前にいて動かない。


「流石にあの数は無理なのかな、アリス」


「いや、たぶん違う」


 クレーターの反対側に人影が見える。

 カムイだ。肩にラスを乗せている。


「正解」


 さっきまで目の前にいたリキマルが背後に現れる。

 クレーター前の四人は三人になっている。

 瞬間移動だろうか。


「今、行ったら巻き込まれる。覚えておけ、A組では敵よりあの幼女に気をつけろ」


 リキマルがギターをイキナリ鳴らす。

 轟音。ラスが教室に入るときのテーマソング。

 ボクシング映画の盛り上がる曲が流れる。


「カムイ、いくぞっ」


 クレーターの反対側まで五十メートル以上はある。

 だが、ラスの大声は軽くこちらまで届く。


「中心だ。あのデカい奴のとこに放り込めっ!」


 何をするつもりだろうか。

 肩に乗っていたラスをカムイが片手で持ち上げる。


「いっ、くっ、ぞっ!!」


 ラスが背中の剣を持つ。

 カムイが野球のピッチャーのように構える。


「うおりゃあああああァァ」


 投げた。カムイがラスをサラマンダの大群の中に物凄いスピードで投げ込んだ。


「あははははははっ!」


 子供のように笑うラスは一直線に巨大サラマンダに向かう。


 巨大な剣が大きく振り上げられる。

 その時、ただでさえ巨大な剣がさらに大きくなっていた。


「不倶戴天だ」


 自分と同じスキル。だがその倍率は比較にならない。

 二メートルクラスだったラスの剣が今は二十メートル以上になっている。


「まとめて、ぶっとべ!!」


 メガサラマンダがラスに気がつく。

 だが、すでに遅い。ラスが大剣を振り下ろす。

 隕石が衝突したような衝撃音。


 爆音の後、クレーターの中で動くものはラス一人だけだった。

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