第44話 サイドB アリス その5 サラマンダ討伐ミッション③

 

 惨状。

 あまりのことに言葉を失う。

 クレーターの穴が二つになっている。

 二重丸をしたようにクレーターの中心に重なるように穴が空いていた。

 サラマンダの残骸が飛び散っている中心で、メガサラマンダの巨大な頭が半分になって転がっていた。


「おっしゃあああああぁっ」


 その頭の上に乗って、ラスが叫んでいた。

 剣は元の大きさに戻っている。

 終わったのか? あの一瞬で? どれほどの力だというのだ。


『メインミッション メガサラマンダの討伐が完了しました』


 頭にアナウンスが流れる。

 本当に終わった。


『ミッションコンプリート。すべてのミッションが完了しました』


 異常な強さ。

 やはりカムイと同様に、ラスもゲームクリアを繰り返しているのか。


「油断しないほうがいいぜ」


 リキマルがギターを構える。

 見ると、他の三人も戦闘態勢に入っている。


「前はここからエミルが死んだ」



『WARNING! WARNING!』


 頭に警告音が鳴り響いた。


『緊急ミッションを開始します! WARNING!』


「アリスっ」


「ああ」


 前回のミッションでジークが登場した時と同じ。

 あのクラスの敵か現れるのか。


「S級モンスター召喚チケット」


 クリスが口笛を吹きながら現れる。


「ラスはポイントでそれを大量に購入しているの。毎回、やってくるわよ。ジーク級のボスキャラが」


 クレーターの上空、何かがゆっくりと降りてくる。

 赤い。それは紅に染まっていた。

 燃えるように赤い髪は足元近くまで伸びている。

 背中には大きな二枚の紅い翼。

 ドレスだろうか。真っ赤な服は豪華な装飾がされている。

 釣り上がった紅い瞳が爛々と輝いている。

 頭の中心に一本の紅い角。

 両手はジークのように異常に大きく長い爪が伸びている。

 間違いない。ジークと同種のモンスターだ。


 メガサラマンダの頭の上に座るラスの前に着地する。


「貴様か、妾(わらわ)を呼び出したのは」


「うん、オレが呼んだ」


 嬉しそうに笑うラス。


「送られる者共、貴様らが妾達の世界に土足で踏み込むのは構わない。ゴミ虫はいくら駆除しても入り込む」


 紅い女の身体から蒸気のように煙が出る。

 何かとんでもないことが起きるのか。

 異常な密度の空気の凝縮。立っていられなくなるほどの迫力がある。


「だが、妾の盟友、ジークを殺したのは許せん。あれは力を解放せずに死んでいた。貴様らが卑劣な罠にはめたのであろう」


「しらん、弱いから死んだだけだろう」


 ラスがつまらなそうに答える。


「ゴミ虫がっ、龍の真髄を知るがいい。妾は赤龍(レッドドラゴン)の女王、アイネっ」


 龍の女王、アイネの身体が紅い煙に包まれる。

 ドラゴンに変化するというのか。

 アイネの身体が変化していく。

 腕と足が膨らみ、角が伸びていく。

 遠く離れたこの位置でさえ、重圧に潰されそうになる。


「脅え、称え、泣き、喚け、これが妾の真のっ」


 突風。

 風が吹いて、前髪が揺れた。

 たん、という音がした。

 ラスが大剣を振った音だと気がついたのは、転がるアイネの頭を見てからだった。


「長いよ、話が」


 ドラゴンへの変身の途中、ラスは目にも止まらぬ速さで剣を振ったのだ。


「き、き、き、貴様っ、妾が変身する前にっ。ゴミ虫がっ、ご、ゴミがっ、糞がっ」


 頭だけになったアイネが喚く。

 変身が終わるまで待つ。

 そんなものは子供のラスには通用しない。


 アイネの頭を掴む。

 人差し指と中指をアイネの両目に差し込んで親指を口に入れる。

 ボーリングの玉のように扱う。


「ん、ぐっ、んんんんんっ」


 アイネはもう話すこともできない。

 なんだ、この圧倒的強さは。

 子供ゆえの残虐性。

 容赦の無さ。

 空気の読めなさ。

 まさか、すでにカムイを超えているのか。


「リーダーもやっぱり何回もクリアしているのかしらね」


 クリスがじっと観察している。


「クリアの条件はわからないけど、パーティーを組んでいたらメンバーも一緒にクリアになるみたい」


 カムイとラスはパーティーを組み二人でクリアを繰り返しているのか。


「このゲームをクリアして生き残るには、カムイかリーダーのパーティーに入るのが一番の近道ね」


 本当にそうだろうか。

 カムイやラスがゲームを何回もやり直しているとしたら、一体彼らは何を目指しているのだろうか。


「よし、今日のミッションっ」


 ラスが叫んでアイネの頭を掲げる。

 まだ、ボーリング掴みのままだ。

 力を込めているのか。

 掴んでいる右手が筋肉で倍くらいに膨れる。


 ぐしゃっ、とアイネの頭が押し潰された。

 ラスの手から緑色の血が溢れ出る。


「おしまいっ!」


 おもちゃで遊ぶ子供のようにしか見えない。

 ラスを見ていたカムイが背を向けて、クレーターから去っていく。

 それは、ただの直感だった。

 B組に残っていたカムイ。

 A組のリーダーのラス。

 二人の目的は違うところにある。

 なぜか、そう思った。


『緊急ミッションが完了しました』


 ラスの一人舞台だったミッションが終わる。

 生き抜くための鍵は、この幼女とカムイが握っている。


『ミッションコンプリート。すべてのミッションが完了しました』


 二人に近づく。そして二人の目的を探る。

 それはどんなミッションよりも難易度が高いと思えた。

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