第25話 絶望の始まり

 

『サブミッション リザードマン三体の討伐 完了しました』


 三体目のリザードマンを倒したと同時に頭の中にアナウンスが流れた。


『ハジメ君、アイさん、キョウヤ君、ナナさんのパーティーに150Pが入ります』


「やったで、なんかうろこもゲットしたで」


 キョウヤには素材アイテムも入ったようだ。

 どうやらポイントはパーティーで分配。アイテムはランダムで誰かがゲットするようだ。


『たららたったたー』


 続けて聞き覚えのある音が頭を流れる。


『ハジメ君のレベルが2から3に上がりました。HPが10 攻撃が2 守備が1 速さが3 UPしました。ポイント交換のリストが増えました』


 二回目のレベルアップ。職業を選べる10まではまだ遠い。


「ナナ、レベル上がりました!」


「ワシもや、ワシも強くなったで」


 新人二人もレベルアップしたようだ。

 アイは騒がないがレベルアップしてないのだろうか?

 レベルが上がるたびに必要な経験値は増えていくとしたら、今回はレベルアップしてないかもしれない。

 しかし、三人レベルが上がりポイントも増えた。

 この時点で目標は達成といってもいいだろう。

 ボスや残党はアリス達に任せても構わない。


「ここでいったん休憩してお昼にしませんか?」


 三人の顔が明るくなる。


「ええな、腹減ってきたとこや」


「見張りしながらね、油断したらダメよ」


 アイの忠告に皆うなづく。

 穴からリザードマンが出てこないか、警戒しながら食事をする。

 袋から出したおにぎりは全部で六つ。

 四人で割り切れないがアイが二つのおにぎりを半分に分ける。


「はい、一人一個半ずつね」


「あ、ありがとうございます」


 ナナがおにぎりを受け取る。次にアイはキョウヤにおにぎりを渡そうとする。


「なに、アンタお腹減ってるんじゃないの?」


 キョウヤはおにぎりを受け取らず、アイの手をじっと見ている。


「いや、そっちのほうが大きない?」


「こまかっ、ほとんど一緒じゃない」


 そういいながらもアイは大きいほうを渡す。


「ふふ」


 隣でおにぎりを食べながらナナが笑う。


「あの二人仲いいですね」


「ああ、うん」


 喧嘩するほど仲がいいというやつだな。


「なんだか不思議です。死ぬかもしれないデスゲームなのに、こうして皆さんと一緒に戦うの少し楽しいです」


『たぶんここはね、現実で行き場をなくした人達を神様が連れてきているんだよ』


 アイの言葉が思い出される。

 やはりナナも現実に居場所がないのだろうか。


「みんながどれだけ傷ついても絶対直しますからね」


 ぐっと拳を握るナナ。


「おにぎり潰れてるよ」


「あわわわっ」


 最初、ナナが来た時はこのゲームに耐えられないと思っていた。なかなかどうして、結構強いじゃないか。


「みんなで生き残って、またご飯たべよう」


「はい」


 ナナが笑顔で答える。


「なあ、それオカカやんな、ワシ、オカカ大好きやねん。交換してくれへん?」


「あんた、それ一口しか残ってないじゃない。ふざけんなっ」


 アイとキョウヤがまた争っている。

 ナナと顔を見合す。

 思わず二人で笑っていた。



 休憩が終わり、ゆっくりと右の道を進んでいく。

 リザードマンの死体は見当たらない。

 死んでからしばらくしたら、モンスターは消失する。

 アリス達が倒したリザードマンは、休憩している間にもう消えたのだろう。


 ミッション完了のアナウンスはまだない。

 ボスに苦戦しているのだろうか。

 できればボスとの戦闘は避けたいところだ。


「ねえ、あれ」


 前方から近づいて来るなにかにアイが気づく。

 リザードマンを警戒するが、少し違う。

 四つの足で今にも倒れそうにフラフラと歩いてくる。

 白い大きな犬。


「ハイド」


 目の前で力尽きたように倒れるハイド。

 全身が血塗ちまみれだ。

 剣による傷だろうか。

 様々な箇所の肉が引き裂かれ、骨まで見えている。


「ナナ、間に合うか?」


 ナナが治療スキルを使う。


「ひどい、すぐには治らないよ」


 傷がひどく、なかなか塞がらない。

 それでもハイドは意識が戻ったとたんに起き上がろうとする。


「ダメっ、じっとしてて」


「ヴゥゥゥ......」


 ハイドが低い唸り声を上げ、無理矢理起き上がる。


「ワンっ!」


 吠えた。

 まだほとんど満足に動けないのに、今来た道を戻ろうとする。

 奥に来い、そう言っている。

 アリスとルカのパーティーに何かがあったのだ。

 ハイドは主人のピンチに、瀕死の状態で助けを呼びに来たのだろう。


「ついていくの?」


「ついていく。ただし、様子を見てからでないと戦闘には加わらない」


 アイがうなづく。

 アリスやルカがピンチなら助けてやりたい。

 だがそれを命がけでやるわけにはいかない。


 ハイドの後を慎重についていく。

 洞窟の道が何回か分岐するが、ハイドの進む道についていくと、リザードマンは一切現れなかった。

 ただ奥に進むにつれ、嫌な空気がまとわりついていく。

 異常な重圧と血の匂い。この先に何かが待ち構えている。


 道の行き止まり。

 洞窟の果てに巨大な鉄の扉が見えた。

 ハイドがそこで止まり雄叫びを上げた。


 扉が自動で開く。

 ダメだ。

 これは絶望へと繋がっている。


 目を見開く。

 最初のスタート地点ほどの広い部屋。


「あぁああああぁああああぁ」


 ルカが座り込んで子供のように泣いていた。

 その前にアリスが立っている。

 動かない。

 見ると何本もの剣がアリスに突き刺さっている。

 肩、胸、腹、足、すべてが後ろまで貫通している。


「あ、あれ」


 アイがアリスの前にいる異質なリザードマンに気がついた。

 三つの頭。六本の腕。その全てに剣を持っている。尻尾も三本あり、キングギドラの記憶が蘇る。一目で分かる。あれがボスだ。


「また来たか、人間」


 三首のトカゲが人間の言葉を話す。


 絶望が始まった。


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