第23話 戦闘開始


 チンピラの腕が宙に舞い、くるくると回転した後、水溜りに落ちる。


「う、うぎぃ」


 肘から先がなくなった右手を左手で抑えるチンピラ。

 痛みで転げ回り、水面が血に染まる。

 剣を盾で防いだリザードマンは、攻撃してきた腕をすばやく切り落とした。

 予想以上に強い。


「シャーー」


 トドメを刺しにリザードマンが転げ回るチンピラに近づく。

 だが、その足が止まる。


「シャ、シャ、シャ」


 舌を何度も出し入れする。

 感情の読めない不気味な瞳が何かを探している。

 チンピラの後ろに立つアイ。

 それを見たリザードマンが興奮の奇声を上げる。

 アイのスキル、魅了みりょうが発動した。

 チンピラを無視してアイに向かうリザードマン。

 そのすぐ後ろ、隠密スキルを使った俺がいることに全く気がついていない。

 武器強化スキルで赤く光る剣。手に力を込め、それを強く握る。

 これで攻撃が効かなければ作戦は失敗だ。


 薪割まきわりの要領で、両手に力を込め思いっきり剣を振る。


 ぶつん、と肉を断つ感触が伝わった。

 リザードマンの尻尾が気持ちいいくらいに、綺麗に切断された。


「シャギャアァァ」


 尻尾が切れてバランスを失ったリザードマンが仰向けに転倒する。

 切れた尻尾は、まるで生きてるように、びたんびたん、と跳ねている。


「よしっ」


 思わず拳を握る。

 攻撃が通用する。

 仰向けのリザードマンが起き上がる前に、今度は剣先を下に向け力いっぱい突き刺す。


「ギュッ、ギャァアアアアアアアアア」


 剣が腹に突き刺さり、リザードマンが悲鳴を上げる。

 ゴブリン同様、緑色の血が噴出する。

 だが、油断はしない。

 完全に動きが止まるまで、何度も何度も突き刺した。


『素材アイテム リザードマンの鱗を入手しました』


 頭の中にアナウンスが流れて、ようやくリザードマンを倒したことを確信する。


「キョウヤさん、大丈夫ですかっ」


 腕を切断されたチンピラに、ナナが治療をかけている。


「ああ、もう指動いてるで」


 すでにちぎれた腕はくっついていた。

 その後ろでアイがピースして笑いかける。

 ほぼ作戦通りだった。

 チンピラがおとりになり、アイが魅了を使う。

 その隙に俺が隠密スキルで不意打ちして、ナナは怪我人を治療する作戦A。

 一匹ずつの戦闘ならなんとかなりそうだ。


 リザードマン二体が向かったアリス達を見ると、首を切断されたリザードマンと、弓が頭に刺さったリザードマンが息絶えていた。

 こちらと違って余裕がありそうだ。


 アリスがこちらを見て目が合う。

 表情は変わらない。何を思っているのだろうか。


「アリス、真ん中がボスに繋がるルートだ」


「ん」


 ルカの声にうなづくとアリス達三人はそこに進む。

 すぐに暗闇に隠れ見えなくなる。


「どうする? すぐに追いかける?」


 アイの質問にすぐに答えれない。

 選択は二つ。

 ここに残って、やってくるリザードマンを倒すか、アリス達を追いかけて、倒し損ねたリザードマンを倒すか。


「追いかけよう。ここは囲まれる危険がある」


 また同時に出てこられたら対処が難しい。

 アリス達が入った穴に向かう。


「チン......、キョウヤさん、腕いけますか?」


「お前、今、チンピラって言いそうになったやろ?」


 チン......、キョウヤが睨んでくる。


「まさか、聞き違いでは?」


 強引にごまかす。


「まあええわ、腕はほぼ完治や。ナナちゃん、ありがとうな」


「は、はい。良かったです」


 ナナは少し疲れているようだ。

 連続の治療は難しいだろう。


「キョウヤさん、次からは攻撃は控えめにしてください。首とか飛んだら、たぶん治療できませんよ」


「わ、わかった。こ、怖いこというなや」


 首を抑えてビビるキョウヤ。

 これで少しは慎重になるだろう。

 無謀と勇気は違う。

 キョウヤが死んでしまったら作戦は破綻する。



 暗い通路を進んでいく。

 天井から漏れていた光が届かなくなり、かなり視界が悪い。

 所々に薄っすら光るこけが生えており、その光だけが頼りになる。

 先頭はキョウヤ、次にナナ、アイ、最後に自分が続く。


「おわっ」


 先頭のキョウヤが何かにつまいた。

 頭に大きな穴の空いたリザードマン。

 弓や剣でのダメージではない。

 銃で撃たれたのだろうか。だとしたら仕留めたのはクリスだろう。

 彼も索敵スキルを持っていて、このルートを選んだ可能性が高い。

 もしかしたら、もう敵と遭遇しないかもしれない。

 しかし、油断はしない。

 いきなりボスが現れた一回目のミッションを思い出す。

 シュンは油断していていきなり頭が吹っ飛んだ。

 慎重に四人で進んでいく。


「おい、ハジメ。二つに道分かれてるで」


 分岐路。同じような穴が左右に広がっている。

 アリス達はどちらに進んだのだろうか。

 少し危険だが確かめる方法はある。


「戦闘になるかもしれません。準備していてください」


 足元に転がっている拳大の石を拾う。

 それを右の道に投げ込んだ。

 カーンという音が洞窟に響く。

 リザードマンが出てくる気配はない。

 続いて同じように左の道に石を投げる。


「あっ」


 ナナが思わず声を上げる。

 二匹のリザードマンがゆっくりと左の穴から現れた。

 どうやらアリス達は右の道を進んだようだ。


「どうする? 二匹だけど」


 アイの声に怯えはない。落ち着いている。

 右の道に逃げ込むと、最悪挟み撃ちになる可能性がある。

 ここは......。


「倒しましょう、プランCです。俺が二匹の尻尾を切断します。一匹はキョウヤさんがトドメをさしてください」


「わかった、任せとけ」


 キョウヤが両手で剣を構える。


「次はやられへんからな。ナナちゃん、安心して見ときや」


 セリフがやられ役のセリフだ。すごい不安だが黙っておく。 

 隠密スキルで気配を消し、二匹のリザードマンの間を通り抜ける。


「来いや、トカゲっ!」


 キョウヤが叫び、第二ラウンドが始まった。




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