第22話 ミッションスタート

 

「はーーい、ハジメちゃん♡ ワ・タ・シ・よ♡」


 クリスが投げキッスをしてくる。何かいやな呪いがかかりそうで思わず顔を背ける。


「ハジメ、まさか、あのオカマと......」


「いやいやいやいや、なにもないよっ、訓練で会っただけだからっ」


 目を細めて見ないで。というか、今はそれどころじゃない。


『出席をとりますっ、参加者は席について下さいっ!』


 ミッションが始まるっ!


「あらあらあらあら、今からミッションなの? タイミング悪いわねぇ」

 

 クリスが自分の席を探す。

 カムイのすぐ後ろの席にプレートを見つける。


「カムイちゃん、久しぶりねぇ、よろしくねぇ」


 クリスが席に着いてカムイに話しかける。


「ラスの差し金か?」


「いやねぇ、リーダーは関係ないわぁ、ワタシがハジメちゃんに惚れてやって来たのよ」


 本当だろうか。

 普通に考えれば、クリスがわざわざA組から編入してきたのは、神候補探しに来たとしか思えない。

 警戒しなければならない。


「ハジメちゃん、ミッション終わったらイチャイチャしましょうねぇ」


 ......本当に惚れて来たとしても、警戒しないといけない。


『出席番号1番 カムイ君』


 ついにカムイの名前が呼ばれる。


「......ハイ」


 カムイの姿が椅子から消える。

 前回参加しなかったカムイ。一体、どんな戦い方をするのか。


『出席番号11番 クリス君』


「はぁーい」


 次に呼ばれたのはクリスだった。A組とB組で番号は繋がっているのか。


「また後で、ね♡ 」


 こっちにウインクしながら消えるクリス。

 できれば合流したくない。


『出席番号12番 アリスさん』


「ハイ」


 アリスが返事をして消える。

 順番が近づいてきた。


『出席番号18番 ルカさん』


「はい」


 ハイドの頭を撫でる。


「いくぞ、ハイド。初陣ういじんだ」


 ルカとハイドが同時に消える。


『出席番号30番 アイさん』


「はーい」


 アイが笑ってピースサインを出す。


「先に行って待ってるね」


 アイが消える。次は自分の番だ。


『出席番号 33番 ハジメ君』


「はい」


 隣のナナを見る。明らかに緊張している。


「大丈夫、みんなで生きて帰ろう」


「は、はいっ」


 目の前が真っ暗になり、浮遊感と身体が液体になって流されていくような感覚。


 気がつくとそこは透き通った水で満たされた、地下の空間だった。

 周りは岩でおおわれており、天井に開いた穴からかすかな光が射し込んでいる。

 水は足首くらいまであり、歩くのには支障がないが、素早く動くのは難しそうだ。


 スタート地点である洞窟は、ずいぶんと広い。

 円形だが、広さは教室くらいはありそうだ。

 だが洞窟の奥に続く穴は、二人並ぶのがやっとくらいの大きさで、三つの穴が並んで開いている。

 狭い通路でリザードマンと遭遇したら戦いにくそうだ。


「ハジメ」


 先に来ていたアイが手招きする。

 大きな岩の上に座って待機していた。

 アイの方へと向かう。

 アリスとルカ、そしてハイドも同じようにアイと対角線上にある大きな岩の上で、パーティーメンバーを待っている。


「カムイとクリスは?」


「わかんない、来た時にはいなかった。先に向かったんだと思う」


 あの二人なら心配ないだろう。下手をすれば全て片付けてしまいそうだ。


「うわっ、冷たいやんけっ」


 チンピラが着くなりいきなり転んでいた。

 ビショビショだ。

 次にナナがやって来る。

 どうやら出席番号は教室にやってきた順番のようだ。


「ナナちゃん、滑るから気をつけや」


「は、はい。きゃあっ」


 こけた。水飛沫みずしぶきが上がりナナがお尻から着地する。


「ナナ、前っ!」


 アイがいきなり大声を上げる。

 リザードマンが来たのかっ。

 身構みがまえるがそれらしき姿は見えない。


 ただ着物の前がめくれ上がったナナが......


 あれ?


「きゃあああああ」


 ナナが悲鳴を上げて着物を直す。


「は、はいてなかったやんな?」


「ああ、肌色だった」


 チンピラの質問に正直に答えたらアイに後頭部を叩かれた。



「お、お待たせしました」


 着物の前を抑えて真っ赤な顔をしているナナを出迎える。

 これでパーティーは揃った。

 最後の新人、ヒロシもやって来てアリス、ルカと合流している。

 まずはあの三人の後をつける。

 リザードマンがどの程度の敵なのか見極めるためだ。


 ここから繋がる穴は三つ。

 どれも大きさは同じくらい縦幅、横幅共に二メートルくらいだろうか。

 先は暗くて見えない。


「アリスっ」


「ああ、気配でわかる」


 三つのルートを選ぶ前、穴からそれぞれ影が現れる。

 巨大な爬虫類はちゅうるい

 人間と同じ大きさぐらいのトカゲが歩いてやってきた。

 それぞれが剣と盾を持っていて、大きい尻尾を引きずりながらこっちに向かってくる。

 鎧はつけていないが固そうな鱗に覆われていた。


 二匹のリザードマンがアリス達の所に向かい、残りの一匹がこちらに来る。

 作戦がいきなり破綻はたんする。

 こちらの攻撃が通用するだろうか。

 試す機会は失われた。

 ぶっつけ本番で倒すしかない。


「シャーー」


 リザードマンが長い舌を出して威嚇いかくしてきた。


「ひぃ」


 ナナが悲鳴をあげるのを必死に堪えている。

 もしかしたらナナの悲鳴で集まってきたかもしれない。


「こいやっ、トカゲっ」


 プランA。

 チンピラが皆の前に立つ。

 戦うのはチンピラ一人。

 後の三人は全員補助だ。


「うりゃああああ」


 チンピラの剣をリザードマンは盾で簡単に防ぐ。

 金属がぶつかり合う音が鳴り響く。

 そして次の音は肉が引き裂かれる嫌な音だった。


 剣を持ったチンピラの腕がちぎれて宙に舞った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る