四月四日 リザードマン討伐ミッション

第20話 恋愛イベント アイ その2

 

「だーれだ?」


 いきなり視界が真っ暗になり、背後から声がかかった。


「アイさん」


「ぶーー、正解は超絶美少女高校生アイさまでしたーー」


 朝の八時。

 カムイとの会話から寝ることができず、教室でずっとノートを書いていた。


「おはよう、早いね」


「ハジメも早いね、ちゃんと寝た?」


 うなづく。本当はほとんど寝ていない。


「なんか暗いね。なにかあった?」


 机の前に来て、顔を覗き込んでくる。

 近い。近すぎる。あれ、これって。


「ちょ、アイさっ!」


 椅子から転げ落ちるように回避する。

 危ないっ、今、もう少しでっ。


「おっしい、ハジメのファーストキス、ゲットならず」


 ケラケラ笑っている。

 こんな世界に来て、この人はどうしてこんなに明るくいられるのだろう。


「もうすぐミッション始まるから不安なのかな? でも悩んでも仕方ないよ、死ぬときは死ぬんだから」


「うん」


 椅子に戻る。


「ちょっと、そっちつめて」


 何故かアイは同じ椅子に座ろうとする。


「ちょっ、アイさん」


 強引だ。無理やり椅子に座った為にお互いお尻が半分しか椅子に乗ってない。


「元気ないからね、おねーさんが励ましてあげよう」


 いかがわしい店に来た気分になってしまう。

 記憶はないがそんな店に行ったことがあるのだろうか?


「アイさんは怖くないんですか? この世界、ゲームの中に入れられたみたいな世界。どうやったら帰れるとか考えないんですか?」


 思わず口に出る。

 しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。


「この世界で生き抜くことは考えてる。でも、帰ることは考えてないよ」


「どうしてですか? この世界、いつ死ぬかわからないんですよ」


 アイの顔を見る。教室の天井を見て、「うーん」と伸びをした。


「確かにね。ここは酷い世界だね。最初、うちとんでもない目にあったからね。豚のモンスターに滅茶苦茶にされたからね。まあ18禁だからハジメには内緒だけど」


「ご、ごめんなさい」


「なんでハジメが謝るの?」


 この世界を作ったのが自分かもしれないとは言えない。


「でもね、帰りたいとは思わなかった。もとの世界ではもっと酷いこともあったからね」


 豚のモンスターに滅茶苦茶にされるよりも酷いことがあるのだろうか。想像もつかない。


「ナナとも話したけどね、あの子もたぶん現実に居場所はないよ。死んだシュンも、たぶんあのイカれた先生も」


 後ろで寝ているヒロシを見る。

 確かに大きな闇をかかえていそうだ。


「たぶんここはね、現実で行き場をなくした人達を神様が連れてきているんだよ」


「神様が......」


 ならなぜ神は自らもこの世界にやってくる設定にしたのか?

 それは神にも。自分にも居場所がなかったということだろうか。


「ここの世界。子供が作ったゲームみたいでしょ。モンスター倒してポイント集めて装備作って。神様と言ってもあれだね、中学生か高校生くらいの子供だね」


 思わず、正解と言ってしまいそうになる。


「連れて来られてもちろん感謝はしていない。でも絶望もしていない。ここで強くなって、うちは生き残ってやるんだ」


 強い意志を感じる。

 自分は目標も目的も定まらない。

 神様を呼び出した者を探し出して、自分はどうしたいのか。

 その者を探し出して倒して帰って神様をする?

 実感がわかない。

 それよりも。


「俺はパーティー全員が死なないように頑張ります」


 ぱーーん、といきなり背中を叩かれた。

 ビックリしてアイを見る。

 とびきりの笑顔。


「うん、いい目標だね。特にうちが死なないよう頑張ってね」


 落ち込んでいる自分を励ましてくれたのだろうか。

 そうだ。今の目標はみんなで生き残ること。これ以上悩んでも仕方がない。


「これからお前は数々の死を見ることになる」


 カムイの言葉を思い出す。

 だが、そうはさせない。

 パーティーの誰一人として死なせない。


 キーンコーンカーンコーン


 チャイムが鳴る。

 いつのまにか九時になっていた。

 机に朝の食事が転送されてくる。


 寝ぼけた顔のチンピラとナナがロッカーからでてくる。


「おはよぉございますぅ」


「なんや、なんや、お前らやっぱりデキてんのか?」


 二人で一緒の椅子に座っているのを見て、チンピラが言う。


「アイさん、席に戻って、ご飯食べましょう」


「いいよ、このままで。どうせ分けるんだから二人で食べよう」


 さらに密着して、先割れスプーンでおかずをよそう。


「あーん」


「い、いや。それはちょっとっ」


 焦っている俺を見てニヤニヤ笑うアイ。

 絶対これ、遊んでる。


「ラブラブやな」


「ラブラブですねー」


 二人がジト目で見てくる。恥ずかしい。


 アリスとルカのロッカーもほぼ同時に開いた。


「ルカ、アレはなんだ」


「あれはラブラブというやつだよ、アリス」


 恥ずかしい、本当に恥ずかしい。

 そして頭にダースベイダーのテーマが流れる。

 カムイの登場。ゆっくりとこちらに近づいくる。


「......ラブラブだな」


  カムイにまで言われて、もう冷静を保てない。

 後ろでいつのまにか起きていたヒロシが拍手をしている。


「愛は地球を救う。うん、うん、青春だなぁ、先生、感激だなぁ」


 さらし者だよっ!


「さ、さすがにちょっと恥ずかしいね」


「ちょっとじゃないですよ」


 やっと席に戻ってくれるアイ。

 その時。


『三年B組ーーっ、黒板先生ーーっ!!』


 スピーカーから流れるいつものセリフ。


「イベント発表は昼食後じゃないのか?」


 思わずアイのほうを振り向く。


「黒板いい加減だからね。たまに朝とかもあるわ。もしくは......」


 黒板の文字が書き込まれていく。


「もしくはミッションの制限時間が長い時、つまり......」



『本日のイベント』


『リザードマン討伐ミッション』


『十一時スタート』



「ミッションの難易度が高い時ね」


 教室の空気が張り詰める。

 二回目のミッションが始まろうとしていた。

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