第19話 遭遇イベント カムイ
チンピラのイビキで目が醒めた。
うるさい。ギリギリと歯ぎしりも聞こえてくる。
男と二人でベッドで寝るのは、かなり厳しいものがある。
部屋を出て教室に戻る。
ヒロシが椅子の上に乗り、膝を抱えて眠っていた。
時計を見ると23時ジャストだった。後一時間で日付が変わる。
もうすぐ二回目のミッションが始まる。
ポイント交換と新人の初期装備選択はミッションを見てから決めることにしていた。
最初のミッションで手に入れたゴブリン玉の使い道もその時に決める。
机に座りノートを取り出す。
今日知り得た情報を書き留める。
パーティーのこと。
ポイント分配。
やってきた転校生の名前。
自分の書いた字をじっくりと見た。
やはり、最初に見たあのノートと文字と全く同じだ。
俺があのノートを書いたのは、いつなのか、何の為に書いたのか。
そして、何故、一日で消えてしまうように設定されていたのか。
考えても考えても答えが出ない。
いや、違う。
深く考えれば、その思考が邪魔されるのだ。
ノイズが走り、頭が痛む。
肝心な記憶が思い出されないのは、俺がゲームを有利に進めない為か、もしくは考えたくないが、このゲームを楽しむ為か。
ノートを書いていると、背後で扉の開く音が聞こえた。
振り向くと頭の中にダースベイダーのテーマが流れてきた。
大事な記憶は戻らないのに、どうでいいテーマソングはハッキリと思い出される。
相変わらずの全身機械がそこに居た。
赤と黒の機械パーツが点滅し、夜の教室を不気味に照らす。
カムイがゆっくりとこちらに歩いて近づいてくる。直視できず、ノートのほうに目を向ける。
「ノートを書いているのか」
合成音声がすぐ後ろで聞こえた。自分に直接話しかけてくるのは初めてではないだろうか。
近くで聞くと機械のマスクを通した声は深く暗く、ますますダースベイダーのイメージが強くなる。
カムイは自分の席に座ると黒板の方を向いた。
「俺も昔、書いていた」
こちらを向かずにカムイが話す。
「いまは書いてないのですか?」
「ああ」
沈黙。
話が途切れてしまう。
彼には聞きたいことが山ほどある。
『この世界を作った神様をただの人間にしてこのゲームに送り込む 10000P』
現在、カムイはA組の存在がなければ、自分を呼び出した候補ナンバーワンだ。
一万ポイントを稼いでいそうなのもA組を除けばカムイしかいない。
だがあまり質問すると逆に自分がこのゲームを作った者だとバレてしまうかもしれない。
いまはまだ様子を見ていたほうがいいだろう。
「これから」
沈黙を破ったのはカムイだった。
「これからお前は数々の死を見ることになる」
例えようのない違和感。
死を見る?
何故だ、不吉な言葉だがどこかおかしい。
「愛しい者の死。親しい者の死。憎い者の死。幼き者の死。年老いた者の死」
淡々と話すカムイ。
機械が呼吸するように点滅を繰り返す。
「潰され、引き裂かれ、飛び散り、
深い声は絶望を
「だが覚えておくといい」
カムイが立ち上がった。
立ち上がって座っている自分を見下ろす。
「ここでの命は平等に価値がない」
カムイはそう言ってロッカーに向かって歩いていく。
数々の死を見る?
それはつまり何人も死んでいく中、俺は生き残るということか?
「まるで」
ロッカーを開けて部屋に戻ろうとするカムイに話しかける。
「まるでこれから何が起きるか知っているみたいな言い方だ」
違和感の正体。
カムイが俺を見る。
予知のスキルがあるのか。
それとも神候補を探すためのハッタリか。
「お前は......」
カムイが何かを言いかけたまま固まる。
長い沈黙。
ロッカーのドアを握ったままカムイは、時が止まったかのように動かない。
五分か、十分か、遂に沈黙を破りカムイが口を開く。
だが、その言葉は。
「......お前は......幾度となく......」
激しいノイズが頭に響く。
言葉は邪魔されほとんど聞こえない。
「......神の......死......」
だがその中に神という言葉が入っていたのが、かろうじてわかる。
頭が割れるように痛くなる。
カムイの言葉には知ってはならない情報がふくまれているのか。
肝心な言葉が削られたように聞こえなくなっている。
頭を押さえてうずくまった。
それを見下ろすカムイ。
「やはり、伝わらないか」
ロッカーを開ける。
「
カムイがロッカーの中に入る。
「う、あ、がぁ」
頭が痛い。
カムイはすべてを知っているのか?
やはりポイントで自分を呼び出したのはカムイなのか。
だが、それならなぜ命を狙わない?
この世界。
何故、自分はこの世界を作ったのか。
もし自分が神だとして一体何がしたかったのか?
自らが作ったゲームのラスボスとしてプレイヤーを倒す?
だが今の自分はゲーム初心者。ただの
恐らくカムイの足元にも及ばない。
「くそっ」
普通デスゲームに巻き込まれたら黒幕を恨む。
だがその黒幕が自分だとしたら一体どこに怒りをぶつければいいのか。
時計が0時をまわり、黒板の四月三日の文字が四月四日に変わる。
答えが出ないまま、二回目のミッションが始まろうとしていた。
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