第18話 サイドD ナナ

 

貴方あなたは何もせずじっとしていなさい」


 母の口癖でした。

 役立たず。無能。お飾り。

 三人の姉と母は、いつも私をゴミを見るような目で見ていました。

 どこにも居場所はなく、私はただそこにあるだけの存在になりました。



「いまから朝まで交替でこの部屋で休もう」


 ハジメさんの声に皆が注目する。

 この世界に来て最初に話した男の人。

 私と同じ高校生くらいでしょうか。

 髪は短髪で前髪だけ少し長いです。顔は男前というよりも優しい感じです。


「四人で交替してたら、あんまり休めないよ。男子と女子で二人ずつで交替しない?」


 そう言ったのはアイさん。

 セーラー服を着ているので高校生だと思うのですが、すごく大人っぽいです。

 私はいつも幼い外見で中学生くらいに見られるので、少しうらやましいと思ってしまいました。


「女子二人をあのイカれた先生と一緒にはできない」


「じゃあ、ハジメくんはうちと二人で。ナナはチンピラと二人で休む?」


 とんでもないことを言い出しました。

 止めたいのですが、声がでません。


「何もせずにじっとしていなさい」


 母の声が頭をよぎる。


「アホか、ナナちゃん、怖がっとるやろ。このビッチが」


「あん、やんのか、チンピラ」


 不良みたいな外見のキョウヤさん。初めは怖かったですが、話をしていると怖くなくなってきました。

 勝手なイメージですが、皆の見ていない所で猫に餌をやったりする不良のイメージです。


「とにかく休みは一人ずつにしよう。時間は短いがゆっくりと......」


「あー、もうっ、わかったわよ」


 ハジメさんの言葉を遮って、アイさんが携帯を出します。


「うちも部屋つくる。それでみんな同時に休めるでしょ」


「え?」


 ハジメさんが間抜けな声を出しました。

 今迄にないリアクションです。

 ずっと冷静で皆を引っ張る、頼れるお兄さんのイメージだったのですが......


「え、アイさん、ポイントあったの? なんですぐに部屋作らなかったの?」


 どんどんとイメージが崩れていきます。ハジメさん、アホみたいな顔になってますよーー。


「そんなのあんたと一緒の部屋にいて、童貞を奪うために決まってるじゃない」


 ハジメさんの口が大きく開いたままふさがらない。

 可哀想でもう見てられないです。


「行くよ、ナナ。いまから二人で女子会ね」


 手を引っ張っられて連れて行かれます。


「おやすみ、また明日ね」


「み、皆さん、お休みなさい」


「おやすみ、ナナちゃん、また明日な」


 キョウヤさんが手を振るなか、固まったままのハジメさんを残して部屋を出ます。


 教室では白衣姿の怖い先生が椅子に座って寝ていました。


「こっち、こっち」


 アイさんがロッカーを開けます。

 ハジメさんの部屋と同じような部屋でした。

 このロッカーはどういう作りになっているでしょうか。

 やって来たのもロッカーでした。異次元に繋がっているのかな?


「だーーん」


 アイさんが部屋に入るなりベッドにダイブしました。


「あーー、失敗した!」


 そして、足をバタバタさせます。


「もーー、ポイントつかわずにハジメにみつがせてウハウハ作戦大失敗だーー!」


 恐ろしい作戦。なんて行動力なんだろう。私の100倍は行動力があります。


「アイさんはハジメさんのこと好きなんですか?」


「はっ」


 私の質問にすごい顔で答えるアイさん。

 眉間にシワが寄っています。


「だーれが、あんな童貞好きなわけないじゃない。男なんて好きになるもんじゃないわ。好かれるもんよ」


「そ、そうなんですか」


 もはや最初会った時、ハジメさんに甘い声を出していた人と同一人物と思えません。


「まあ、中学生のナナに言っても仕方ないけどね。もう少し大人になったらわかるよ」


「あ、あのナナ、高校生なんですけど」


 やっぱり幼く見られていました。

 わかっていたけど、けっこうショックです。


「うそ、マジでっ、合法ロリじゃん。それはそれでアリだね」


 親指を立てていい笑顔のアイさん。なにがアリなんでしょうか?


「そういえばさ、なんで着物着てるの? そうゆう店で働いてるの?」


 そうゆうとはどんな店なんだろう? アイさんの思う店がどのようなものか想像がつきません。


「ナナの実家、老舗の旅館なんです。家族みんなで手伝ってて。着物は制服みたいなものなんです」


「へー、じゃあ戻ったら女将おかみとかになるの?」


「いえ、ナナ、なにもできない無能で。母からも姉達からも何もしなくていいから、置物みたいにじっとしていろって言われてました」


 そう、お客様が座敷ざしきわらしと間違えて流行はやるかもしれないと、髪型もおかっぱにされました。


「そっか」


 アイさんがベッドでジタバタするのをやめて起き上がります。


「こっちでは役立たずにならないでね。ナナの役目、かなり重要だからね」


 いつ以来だっただろう。

 人に頼られるのは。


「は、はいっ、頑張ります」


「よし」


 アイさんが頭を撫でてくる。

 母にも姉達にも撫でてもらった記憶はありませんでした。


 どうしてこんな世界に来たのか。

 理由はわかりません。

 理不尽な死が待ち受けているのかもしれません。

 しかし、誰かの役に立てるなら、私は頑張れます。


「こら、泣くな。ハジメもカレー食って泣いてたし、高校生は多感だねぇ」


 いつのまにか涙がでていました。


「アイさんも高校生じゃないですか」


 泣きながらそう言うと。


「マジで? まだ高校生に見える? ハジメあきらめずにリベンジいこうかな?」


 実はだいぶ歳上に見えていました、なんて今更いえません。しかし、高校生でないならなんでセーラー服を着ているのでしょうか。

 質問してはいけない気がしたので黙っておきます。


「じゃあシャワー浴びて寝よう。着替えはないから下着とかはちゃんと自分で洗うんだよ」


 下着。ここにきて大きな問題に気がつきました。


「ナナはどんな下着着てるのかなぁ、おねぇさんに見せて、見せて」


「あ、あの、着物のとき下着つけると線が見えるから......」


 顔の温度が上昇しているのがわかる。


「はいてないの?」


 うなづきました。


 なんとしてもミッションを生き残り、ポイントで下着をゲットしないといけない、そう思いました。



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