第17話 パーティー その2

 

 ナナとチンピラがパーティーに参加する中、アイは拒絶した。

 いつものお気楽な表情が消えている。

 冷たい目で俺たち三人を見ている。


「うちは反対。ハジメくん、同情したら死ぬよ」


「同情じゃない。数は力になる」


 アイと睨み合う。

 アイに裏があることは薄々うすうす気がついていた。

 こっちがアイの本性なんだろう。


「ハジメ君みたいに新人を助けようとした人、何人もいたよ」


 アイは冷たい目のまま立ち上がる。


「で、そんな新人と組んだ人が何人生き残っているでしょうか?」


「さあ、100人くらいかな」


 ふざけて答えるがアイは笑ってくれない。


「ブーー。残念、ゼロでした」


 手の上に乗っているナナとチンピラの手が震えている。だが、手は離さない。

 わかっているのだ。二人とも。今、ここでパーティーを組まなければ、生き残れないということを。


「アリスは意地悪で一人だけしかパーティーに加えないと言ったんじゃないよ。パーティーを増やしてポイントの獲得を減らすのは命に関わるからね。二分の一が三分の一になるだけでもハイリスク」


 指を二本だし、それを三本に増やすアイ。

 四本に増やすところで、その手を俺の顔の前に突き出す。


「まして新人のために四分の一なんて正気の沙汰さたじゃない。自殺行為」


 言っていることはわかる。

 リスクを考えればパーティーは二人くらいがベストだろう。

 だが自分にはミッション以外にも敵がいるかもしれないのだ。

 自分を呼び出したかもしれない人物。

 アイですらその人物である可能性はゼロではない。

 しかし新人は違う。

 100パーセント、俺を呼び出す事が不可能なのだから。


「作戦はある。この四人なら生き残れる作戦が」


「無理ね。うちはそこに入らないから、三人で頑張って」


 アイは振り返り背をむける。

 残念だ。

 アイが協力してくれる事で、成功率は大きく変わる。

 ロッカーの扉に手をかけ、アイが部屋を去ろうとする。

 二度と部屋に戻ることはないだろう。


「ちょっと」


 ドアはまだ開いてなかった。


「ここは止めるとこじゃない? 待ってとか、行かないで、とか叫ぶとこよ」


 ドアを握ったままこちらを向く。


「いや、それは、なあ?」


 ナナに振る。


「え、ええっ、そうですよね、ねっ?」


 ナナはチンピラに振る。


「なんや、なんや、ねーちゃん、やっぱり仲間にはいりたいんか? さみしいんやろ」


 チンピラが地雷を踏んだ。


「ふっざけんな、チンピラっ。うちが寂しいやとっ、そんなこと生まれてから今日まで一回も思ったことないわっ!」


 ダメだ、それ。めっちゃ寂しいやつのセリフだ。


「うちはあんたらがもう絶対死ぬのわかってるから、もしどうしても手を貸してくれっていうなら、少しだけ手伝ってやってもいいかなって......」


「アイさん」


 話を止めて、頭を下げる。

 三人の手はずっと繋がれている。


「どうしても手を貸して欲しい」


 アイの顔が赤くなる。

 色々言いたいことをぐっとこらえるように、言葉を飲み込んでいるのだろう。

 ドアから手を離して戻って来る。


「今回だけ、だからねっ」


 一番上に置かれたチンピラの手を思いっきり叩いて握る。


「いたぁ、ねーちゃん、いたいで」


「あ、治療しますか?」


「大袈裟なのよ、ほっといていいよ、ナナ」


 四人の手が繋がれる。

 死亡率高めの新人パーティーがここに結成された。



 キーンコーンカーンコーン


 夜の七時になりチャイムがなる。

 いつのまにか夕食の時間だ。

 パーティーを組むのが決まってから三人に生き残る作戦を伝えていた。


「まあ、いい作戦だと思うけど、一つでっかい不安があるわね」


 アイがチンピラを眺めて言う。

 そう作戦の肝を握るのはチンピラだ。


「ああぁん、ワシが頼りないっちゅうんかい」


 うん、すごく頼りない。でも、適役は彼しかいない。


「大丈夫です。ナナ、しっかりキョウヤさんを回復します」


「ナナちゃん、あんただけや、優しいの。ほんま天使のようや」


 ナナを見た後、チンピラはアイを見て。


「なんか悪魔みたいなんもおるけどな」


「ぶっ殺す」


 本当に大丈夫だろうか。すごい不安だ。



 教室に四人で戻ると食事が机に用意されていた。

 当然、アイと自分の分だけでチンピラとナナの分はない。


「やあ、キョウヤ君。傷は治ったようだね」


 ヒロシが笑顔で出迎える。


「先生、ちょっと愛のムチが行き過ぎたよ。でもね、わかって欲しいんだ。君を叩く先生の心のほうが痛かったということを」


 チンピラの歯ぎしりが聞こえる。

 しかし、拳を握りぐっと我慢する。

 部屋で約束したのだ。喧嘩はしない、したらパーティーを外すことを。


 ヒロシを無視して大人しく席に座るチンピラ。

 アリスとルカ、カムイの食事はすでにからで姿もみえない。

 すでに食べ終えて、部屋に戻ったみたいだ。


 今夜のメニューはコッペパンと唐揚げ四個。マカロニサラダに牛乳だった。


「ギュルル」


 お腹の音が隣から聞こえる。

 ナナがヨダレを垂れそうな顔で、食事を見ている。


「はい」


 パンを半分ちぎってあげる。

 マカロニサラダの器の上に唐揚げを二個乗せて、それも渡す。


「え、え、これ、ハジメさんのじゃ?」


「パーティーだからな、平等にいこう」


 残った分をチンピラに渡す。マカロニサラダはないがそこは腹ペコレディ優先だ。


「あ、ありがとうな」


 チンピラが素直に礼を言う。


「バカね、全部あげたら自分のないじゃない」


 後ろからアイが話しかける。本性を見せてからは変に可愛子ぶったりしなくなった。

 こっちのほうが気楽でいい。


「ダイエット中なんだ」


「あっそ」


 アイはもくもくと食べていく。


「ほら」


 空になった机の上にアイが何かおいた。

 半分になったコッペパン。

 その中に唐揚げとマカロニサラダが無理やり詰め込まれている。


「うちもダイエット中だから」


「......ありがとう」


 パーティーに入ってくれたことにも感謝している。心の中でもう一度、ありがとう、と言う。


「いい、いいね。青春だねぇ。先生感激だよ」


 後ろで拍手するヒロシを無視して、俺たち四人は食事を続けた。


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