第16話 パーティー

 

 説明を終えたアリスは、ルカと共にロッカー部屋に戻って行った。

 カムイも無言でロッカーに戻る。

 彼は新人とのパーティーにはまるで興味はないようだ。

 なら、なぜ新人が来る転校生イベントをずっと見ていたのか。

 それが、神候補を探る為なら納得がいく。


「ごめんね、僕がパーティーにいれてもらって」


 ヒロシがナナに謝りにきた。

 ナナは無言で首を振る。


「アホか、おまえ。まずワシに謝らんかい」


 犬がいなくなったのでチンピラが急に強気になる。

 席を立ちヒロシにメンチをきっている。

 だが強気のチンピラに対してヒロシは冷静だ。


「君みたいな生徒、よく相手にしていたよ。僕は弱そうでからまれやすかったからね」


 生徒、ということは白衣を着ているヒロシは、医者ではなくて教師のようだ。


「あぁ、お前センコーか、ワシが二番目にキライな職業やないかい」


 一番目はたぶん警察官だろうな。


「お前、いまからあの巨乳のねーちゃんにワシとパーティー変わるって言ってこいや、なぁ」


「ふむ、こうかな」


 ヒロシが右足でチンピラの左足を払う。

 いきなりの攻撃にバランスを崩すチンピラ。

 そのチンピラの頭を左手で押さえて教室の床に叩きつける。

 鈍い嫌な音が教室に響く。


「い、ぎゃあああぁ」


 受け身が取れずチンピラは床に後頭部をぶつけて悲鳴をあげる。

 頭は左手で押さえたまま、ヒロシはチンピラの上に馬乗りになる。

 マウントポジション。

 犬に続き、ひ弱そうな教師に押さえつけられるチンピラ。雑魚ざこすぎる。


「これはいいね、知識のスキル。僕にピッタリだ」


「は、離せや」


 チンピラが暴れてマウントから逃げようとする。

 そこへヒロシの右パンチが顔面に叩き込まれた。


「うん、気持ちがいい」


 チンピラのサングラスが割れて鼻血が出る。


「弱点がわかるんだよ、有効な攻撃場所が光って見える。これは便利だ」


 攻撃ナビみたいな能力もあるのか。

 知識のスキル。確かにいいスキルだ。


「前から、君みたいな不良を殴りたかったんだ」


 マウントから逃れられないチンピラを容赦なく殴り続ける。

 みるみるチンピラの顔面がれていく。


「ほらっ、あやまれよっ、僕にっ、先生にっ」


 ヒロシの目がイッている。ギラつき充血した赤い目は狂気の光を灯していた。


「もう、やめとこう」


 たまらず、後ろからヒロシの振り上げた右手を握った。

 隠密のスキルを使った為、ヒロシは背後に近寄る俺に気がつかなかったのだろう。

 振り返り、物凄い形相で睨まれた。

 戦闘になるかと覚悟したが、俺を見たヒロシは怪訝けげんな顔をして固まる。

 どうやら、隠密スキルのおかげで弱点が見えないようだ。

 俺を見るヒロシの顔が一瞬で穏やかな顔に変わった。


「うん、そうだね、先生、少しやり過ぎてしまったね」


 チンピラの上から立ち上がると、実にさわやかな笑顔で額の汗を拭う。

 ここに来たときから妙に落ち着いていると思っていた。

 違う。この男はすでに半分狂っている。


 後ろを見るとナナは、机の上で耳を塞いで震えていた。

 アイは両手を広げてダメだこりゃみたいなポーズをしている。


 確かにこれは駄目だな。

 完全に伸びているチンピラ、戦闘向きではないナナ。

 この二人を助けるのは大変そうだ。



 ロッカーの部屋に戻る。

 アイと一緒にナナとチンピラも連れて来た。


「超狭い」


 アイが不服そうに頬を膨らませる。


「仕方ないよ、あの先生と一緒にはできない」


 教室には今、ヒロシが一人でいる。


「あ、ありがとうございます」


 部屋に入ってから、ナナは少し落ち着いたようだ。


「大丈夫? 」


「は、はい、大丈夫です」


 顔色はまだ悪く大丈夫そうには見えない。

 だが、ナナはなにか決心したような顔で、気を失ってベッドに寝かしているチンピラに近づいていく。


「す、少しいいですか」


 そっとチンピラの顔に右手をかざした。

 右手が光りだす。

 蛍の光のような淡く白い光。

 その光がチンピラの顔に降りかかると、血が止まり腫れが引いていく。

 治療のスキル。

 自分が隠密を使った時もそうだったが、スキルは誰に教わることもなく、なんとなくの感覚で使うことができる。


「はぁ、はぁ、これで治ったでしょうか?」


「たぶん大丈夫じゃないかな」


 チンピラはまだ目が覚めないが、傷は綺麗に消えていた。

 ナナは少し疲れたのか、肩で息をしているが、大したことはなさそうだ。


「えっと、自己紹介まだだったね、俺はハジメ」


「ナナです。部屋を貸してくれてありがとうございます」


 深々とお辞儀する。

 気弱で何も出来ないイメージだったが、やる時はやる子なのかもしれない。

 なら、少しは生き残る道が開けるかもしれない。


「うちはアイ。ハジメは恋人だから取っちゃダメよ」


「え、そうなんですか。大丈夫です。取りません」


 真面目に応えるナナ。


「嘘だよ、付き合ってない」


「あー、浮気する気だっ、ひどい男だね、ナナちゃん騙されたらダメよ」


「え? え? ナナ、騙されるんですか? ハジメさんは悪い人なんですか?」


 なんだ、この茶番。


「ちょっと黙ろうか、アイさん。真面目な話がしたい」


「むう、わかった」


 騒いでたアイが大人しく座る。


「うっ、うーん、ここは?」


 騒いだからか、チンピラが目を覚まし、ベッドからゆっくり起き上がる。


「傷が治ってる? 痛みがない」


「良かった、うまく治ったみたい」


 ナナがチンピラに笑いかける。天使の笑顔。


「ズギューン」


 わかりやすくチンピラのハートが撃ち抜かれる。というか、自分でズギューンとか言っちゃってる。


「あ、ありがとうな。ワシみたいなん治してくれて」


「い、いえいえ。気にしないでください」


 二人してうつむいて話している。


「さて、それじゃあ本題に入ろう」


 チンピラとナナがこちらを向く。

 アイはずっとこっちを見ている。たまにウインクとかするのはやめてほしい。


「今、ここにいる四人はかなり死亡確率の高い四人だ」


 正直に言う。


「アリスとルカ、ヒロシのパーティー。A組で恐らく最強のカムイ。四人は次のミッションでも生き残る可能性は、かなり高いだろう。それに比べて......」


 一人一人の顔をみる。うん、頼りない。


「それに比べて、ここにはほぼ初心者しかいない。たぶん、何もしなければ全滅する」


「ほな、どないせえいうんや?」


 チンピラの問いに答える。


「この四人でパーティーを組む」


 これは博打ギャンブルだ。

 下手すれば自分の首を絞める。

 だがもし四人で生き残れば、これからの展開を有利に進めることができるはずだ。


 右腕を前に突き出す。


「賛成の者だけ手を置いてくれ」


 ナナの手がすぐに置かれる。

 チンピラもそれに続く。

 だが、最後の一人は手を置かない。


 アイはパーティーを拒絶した。

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