四月三日 転校生イベント

第14話 チンピラ

 

 三日目の昼。

 食事を取りながら今日のイベントの報告を待つ。

 カムイ、ルカ、アリスの三人は自分の席でアイは相変わらず隣に来て食事している。

 朝食後はポイント交換のリストをノートに書きながら何を交換するか考えていた。

 明日の四月四日が討伐ミッションと黒板先生が言っていたので、それまでは交換しないが候補をつけておく。


『三年B組ーーっ、黒板先生ーーっ!!』


 スピーカーからの大音量にもなれてきた。

 黒板に文字が書き込まれる。


『本日のイベント 転校生イベント』


『男子2名、女子1名』


『皆さん、仲良くしてください』



「やっぱりね」


 隣にいるアイが言う。


「やっぱり?」


「討伐ミッション一日前はほとんど転校生イベントなの。ポイント0で何日も過ごせないからね」


 確かにそうだ。

 しかし、それなら。


「俺はどうしてミッション当日に?」


「ハジメくんも一日前に転校生イベントにでてたよ。男子1名って。その日に来なかったから大遅刻だね」


 大遅刻。それだけなんだろうか。

 ただロッカーで寝てて遅れたのか?


 教室の机の上に三つのプレートが出現する。

 その一つが隣にすわるアイの机に現れた。


『ナナ』


 プレートにはそう書かれている。


「なにこれ、うちの席なのにっ」


 いや、違うよ。

 アイの席、シュンの花が飾ってるとこの隣だよ。


「しかも、女子っぽい。ハジメくんっ、浮気したら許さないよ!」


「いや、付き合ってませんし......」


 プレートを机から取ろうとしてアイが暴れている。

 しかし、自分の席以外の物は触ることができない。

 見えない壁に拒まれるようにアイの手は弾かれる。


 残りの二つ。

 一つは真ん中の席。

 以前、自分が間違えて座ろうとした花が飾ってあった席。

 花瓶が消えてプレートがでている。


『キョウヤ』


 プレートにはそう書かれている。


 最後の一つは左の一番後ろみたいだ。


『ヒロシ』


 と書かれている。


 机は縦五列横五列で並んでいる。

 動かすことはできずに固定されている。

 シュン元いた席が一番左端の前から二番目で、右隣にアイ。

 自分の席が真ん中の一番前で、右隣に新人の女性が来る予定だ。

 さらにその隣、右の一番端っこがカムイの席。

 左の一番後ろとど真ん中の席が男性の新人。

 四列目一番後ろの席がアリスの席でその前がルカの席。

 どうやら列ごとに男女男女男で分かれてるようだ。


「うち、ハジメくんの隣にポイント使って移動しようかな」


 大人しく斜め後ろの席に戻ったアイがとんでもないことを言う。


「いや、その前に部屋作ってくださいよ」


「むう」


 ポイントで席替えもできるのか。

 凄いどうでもいい。


「オラァオラァ」


 いきなり荒々しくロッカーが開かれて、男が出てきた。

 ひと目でわかる。

 チンピラだ。

 一番下のボタンしか止めてないアロハシャツを着て、浅黒い肌には金色のネックレスが揺れている。

 下はダボダボの白いチノパンに雪駄せった

 サングラスに赤い髪の坊主頭。

 まさにザ・チンピラが現れた。


「なんやここはぁ、お前らなんじゃあ」


 いきなり目の前の机を蹴る。

 机はまったく動かない。


「あぁあん?」


 机にメンチを切っている。


「うわぁ、ハズレきたぁ」


 アイがおでこを押さえている。


「おい、ねーちゃん。なんや、ここ。答えんかい」


 一番近くにいたアリスにからみだした。

 ミッションの日でないので、白いドレス姿のアリス。

 長い金髪にゴールドの瞳。

 気品漂う優雅な佇まいは、やはりお嬢様にしかみえない。

 そのアリスが。


「喋るな、下郎げろう。耳が腐る」


 後ろも見ずに座ったまま言う。

 チンピラの顔が怒りで真っ赤に染まる。

 殴りかかろうと手をあげる。

 だがその前に。


「ゴー、ハイド」


 アリスの前に座る水着姿のルカが携帯で犬を召喚した。


「ウワァアああ」


 いきなり目の前に巨大な犬が登場してパニックになるチンピラ。

 ハイドは二本足で立つと前足をチンピラの肩に乗せてのしかかった。


「いやぁ、いやぁ、やめやぁ、やめてえやぁ」


 ハイドに押し倒されて、女の子のような声で泣き叫ぶチンピラ。


「大人しくするならやめてやる」


「グルルル......」


 ハイドのヨダレがチンピラの顔にかかる。


「大人しくする、するから犬のけてぇ」


「ハイド、カム」


 チンピラの上に乗っていたハイドがルカの足元に帰ってくる。


「はぁ、はぁ、こわっ、犬、めっちゃこわいわ」


 ヨダレを拭きながら立ち上がるチンピラ。


「自分の名前が書かれた席について待機しろ。面倒だからみんな揃ってから説明してやる」


 ルカがそう言うとチンピラは大人しく真ん中の席に向かう。

 キョウヤというのがチンピラの名前らしい。


「くそ、なんやねん、後で絶対しばいたる」


 小さい声でブツブツ言っている。


「絶対あれ、最初のミッションで死ぬタイプよ」


「うん、俺もそう思う」


 アイの言葉にうなづく。

 しかし、できることならなるだけ多くの新人を生かしたい。

 俺だけが生き残ると神候補がわかりやすくなる。


 チンピラが来てから十分くらい経過した。

 時計を見るとちょうど十三時。

 机の上のトレイが消える。


「な、なんや。今、おぼん消えへんかったか?」


「ばうっ」


 キョウヤが立ち上がろうとするとハイドが吠えた。


「いや、あれやで、ビックリしただけやで、騒がへんで」


 立ち上がらずに椅子に座る。

 よほどハイドが怖いのだろう。

 ちなみに俺もちょっと怖い。


 全員食事を終えたがロッカーに戻る者はいない。

 転校生を待っているのだろう。


 小さな音がロッカーからする。

 先ほどのキョウヤの荒々しい開けかたと違い、そっと静かに扉が開かれていく。


 一瞬。

 教室の空気が澄んだように感じた。


 座敷わらしが現れたのかとおもった。

 おかっぱの黒髪。幼い顔立ち。背が低く肌が白い。

 美しいというよりは可愛らしいといった感じか。

 薄い桃色の綺麗な着物を着ていて、所々に赤い花が描かれていた。


「こ、こんにちわ」


 状況がよくわからず混乱しているのだろう。

 引きつった表情で頭を下げる。


 二人目の転校生がやってきた。

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